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ゴジラとガメラをSF的にクロスさせろPart3

1 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/03(月) 00:30:03
512だったので建てとく
前スレ
ゴジラ・ガメラをSF的にクロスさせろ/Part2
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/sf/1134627343/


2 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/03(月) 06:27:46
アタイこそが 2へとー

3 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/03(月) 07:25:57
>>1
お疲れ様です。
まさかこんなに早く512規制がかかるとは…。
もう150スレくらいは余裕があると思ってました。
これで特撮板のとあわせると512規制がかかったのは5回目か6回目。

では、今回は再録はせずに続きから……。

4 :再生の日:2006/04/03(月) 07:28:40
アルビノ・ギャオスはホテル前に踏み止まったまま、自分有利の機動戦を仕掛けない。
一方のゴジラも綾奈の歌が止んだからなのか?攻撃の手が緩みやや惰性的になっている。
戦い模様は、150メートルほどの距離を置きギャオスが殺人音波を、ゴジラは熱線を放ちあう「砲撃戦」に。
そして二匹の戦いの最中、長嶺たちは崩落寸前のホテルからの脱出に成功する。

*綾奈たちの背後で音を立て崩れ落ちるホテル。そして「ありがとう!」とギャオスに手を振る綾奈。

綾奈脱出を見届けたからか?空中に飛び上がるとゴジラに機動戦をしかけていくギャオス。
翼をシールド状とし瞬間的に回転してゴジラの熱線を弾き、口から複数の超音波メスを同時に放っては雨のようにゴジラを撃つ。
そして殺人音波に続いてギャオスが飛行時に発生させる衝撃波も!
ゴジラ周囲の瓦礫や押し潰された大小の車が紙屑のように舞い飛び、さしものゴジラもバランスを崩して横転した。
だがそのときには、既にギャオスは西空の小さな点に……。
……と見えたのは一瞬のこと。
飛び去ったとき以上の速さで、真一文字にギャオスが戻って来た!
曽我「一撃離脱戦法か!」
身構えるゴジラ。
その上を何もないままギャオスが通過。
だが今度はギャオスが飛び去った後に、殺人音波の機銃掃射がゴジラを襲った!
一撃目の飛行速度は亜音速だったが、こんどの二撃目は音速を貼るかに越える速度から放ったのだ。
予測が外れ、殺人音波をまともに喰らうゴジラ。
そしてそこに追い討ちの衝撃波が!


5 :再生の日:2006/04/03(月) 07:30:14
曽我「ギャオスが……勝つのか?」
長嶺「まだ判らないわ。ゴジラは不死身に近いから。さあ急ぎましょう。」
爆撃でも受けたような街中を逃げる4人。
その背後ではゴジラとギャオスの戦いがまだ続いている。
4人が一際派手に破壊された高層ビルの前までさしかかったときだ。
石と鉄とコンクリートの山が震動したかと思うとその下から……ガメラが立ち上がった。
曽我「やった!ガメラが復活したぞ!」
小躍りして戦友の復帰を喜ぶ曽我。
だが、それとは逆に長嶺の表情は氷ついていた。
ガメラの視線が、彼方のゴジラ対ギャオスの闘いでなく、比良坂綾奈の上に注がれていることに気づいたからである。
長嶺「まさかガメラは……。」

一撃離脱の侵入速度を変化させながら殺人音波の着弾タイミングをずらし、ゴジラを翻弄していたギャオスが突然空中停止した。
宿敵ガメラの復活に気づいたのだ。
殺人音波の雨を降らさんと口を開き、彼方のガメラへと目の焦点を合わす。
だが……ガメラの足元には!

万石「ギャオスがガメラを狙ってますですよ!殺人音波がこっちも来ます!」
ガメラもギャオスが攻撃態勢に入っているのに気づき、火球で応戦せんとアタマを上げたが、完全に後手だ!
しかし、何故かギャオスは殺人音波を放たない!?
ついにガメラがプラズマ火球を発射した。
命中寸前に身を翻すギャオス。
だがそのとき、ギャオスの背中を白い熱線が捉えた!
何時の間にか、ゴジラも熱線放射体勢に入っていたのだ。
かろうじて空中に踏み止まるギャオスに、ガメラの放った二発目の火球が炸裂!
一声叫び、ギャオスはついに堕ちた。
真っ赤な炎に包まれて……。


6 :再生の日:2006/04/03(月) 07:31:46
ゴジラとガメラは……去った。
ギャオスの王が炎の流星となって落ちると、彼等はもうそれ以上戦わなかったのだ。
ゴジラは南に、ガメラは北に。
それぞれの世界に帰っていった。
そして人間が残された。


7 :再生の日:2006/04/03(月) 07:35:17
大阪湾に面した倉庫外に堕ちて動かぬギャオス。
そしてそのすぐ前に綾奈。

少し離れて長嶺、曽我、万石の3人が佇んでいる。
長嶺「本当にゴジラはガメラの代わりにギャオスと戦いに来たんでしょうか?」
万石「わかりません。」
曽我「ガメラは……綾奈ちゃんをギャオスの花嫁として殺そうとしたんでしょうか?」
万石「……わかりません。そして最大の謎、ギャオスと綾奈ちゃんの関係も謎のままです。」
綾奈ちゃんの言うように、孤独なギャオスと孤独な綾奈ちゃんが呼び合ったのか?
それとも、綾奈ちゃんはメスとして招き寄せられたのか?どっちだったんでしょうかね?いしししし……。」
長嶺「結局私たちには、何も判らないんですね。ただ『自分の信じたいと思ったこと』を信じることしかできない。」
曽我「なら……、ボクはガメラを信じつづけたいと思います。だってアイツは戦友ですから。」

*ふっきれたようにそう言う曽我の横顔を、微笑んで見上げる長嶺。

ギャオスの顔のすぐ側に立ち、綾奈は「彼」の顔に頬を寄せ、手を這わせた。
涙のすじが綾奈の頬からギャオスの頬へと移って行く……すると。
瓦礫の山と化した倉庫街にかすかな震動が走った。
そして、白いギャオスがキズだらけの体を起す!
曽我「まずい!まだ生きてるぞ!」

8 :再生の日:2006/04/03(月) 07:38:19
曽我「まずい!まだ生きてるぞ!!」
長嶺「綾奈ちゃん退がって!!」
だが綾奈は……もちろん逃げなかった。
涙を流したままで、泣き顔が笑顔に変わった。
綾奈「……よかった……生きててくれたんだ。………だいじょぶ?ちゃんと飛べる??」
綾奈の問いかけに答えるかのように、ギャオスはボロボロの両翼を広げるとまるで凧のように軽々と浮かび上がった。
東の空がだんだんと白み始めている。
綾奈「時間が無いわ。………行って。」
まったく羽ばたかないままギャオスは綾奈の上で何度か円を描くと、太陽の登るのとは反対の方角、西の彼方へと向きを定めた。
湾の堤防沿いに手を振りながら走り出す綾奈。
綾奈「ありがとう。ありがとう。」
突端まで走り、そこで手を振りつづけ綾奈を見つめつつ長嶺は言った。
長嶺「ひとつだけ、はっきり判ったことがあるわ。」
曽我「え?なにがわかったんですか?」
長嶺「綾奈ちゃんが、東京での事件や京都までの事件のショックから立ち直れたってこと。」
万石「なるほど……綾奈ちゃんへの試練はギャオスに始まってギャオスに終った………と、いうわけですな。」
長嶺「(力強く頷きながら)そう、綾奈ちゃんは生まれ変われた。再生されたのよ。」

*何時までも手を振り続ける綾奈。その背後に「再生」の象徴である朝日が昇りはじめたところでエンディング。

「ゴジラ対ガメラ対ギャオス/再生の日」
お し ま い


9 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/03(月) 07:47:02
最後にネタバラシ
当初考えていたのとは随分異なる形でもこの駄文は完成。
最初は北欧神話のハルマゲドンをモチーフにガメラとギャオスが闘って、これにスルトになぞらえたゴジラが絡んでくるというものだった。
ところが……最近発売された某有名ゲームでヒーローとヒロインの名前が「ヴァンとアーシェ」と書いてある雑誌記事を目に……。
(ヴァン神族とアース神族、北欧神話だなぁ……。)
というわけでネタがかぶるるのも嫌だから、エジプトやメソポタミヤあたりの神話に方針転換。
夜のあいだ太陽は死に、地下の死の国を潜り、翌日生まれ変わって天に昇る。
だから綾奈のパートは夜にはじまり、地下大洞窟を潜り翌朝の日の出で甦ることとしました。

ゴジラ、ガメラ、ギャオスに対する生物学的解釈と、それとは別にある「人からの思い」を並行させる構成に。
そして吸血鬼のモチーフをスパイスといて使用し、「ドラキュラ」や「カーミラ」などの描写を意図的に流用。
綾奈の立場からの解釈は「ドラキュラテープ」みたいなもの(笑)。
登山口の町が吸血生物でいっぱい……にして「セイラムズロット」にしちまおうか?とも思ったが、思いとどまった。
ゴジラとガメラの行動は一貫した解釈が成立し難いようにして、「真相」は判らないものとする。
まあ「月明かりの道」というか「藪の中」状態にできていれば成功……なんですが…。


10 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/03(月) 18:08:05
おつかれさまです。楽しませていただきました。

11 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/04(火) 15:09:28
臨時投下。
昼休みなんかにチャチャッと作ったんで、変なトコがあっても笑って許して…。

12 :『ソラリスの日の下に』のもとに:2006/04/04(火) 15:11:15
「今回のキミの任務は……」そう言いながら「指令」は一枚の写真を取り出した。
……むさ苦しい、実にむさ苦しいオッサンの写真だ。
「……この男が……今回の事件の犯人だ。」
「今回の事件と言われますと……ウワサのあの事件でしょうか?」
……もっともオレが呼ばれたのだから、改めて聞くまでも無かったが……。

「指令」の話によるとこの男は、どこかの掲示板で自分勝手に書いていた自作の駄文が評判悪いことに逆切れし、最近調査が再開されたばかりのある惑星に違法降下したのだという。
もちろんただそれだけのことなら別段オレが出るような仕事ではない。
問題は、ヤツが降下した星がソラリスだったということだ。
特撮オタクのバカヤロが降下したおかげで、ソラリスはあっというまに怪獣無法地帯と化し、プロダクションや配給会社の壁を越えた怪獣・怪人のバトルフィールドになってしまったのだ。
ソラリスのステーションも怪獣の襲撃を受け破壊されたが、幸い唯一の所員は無事脱出に成功。
彼からの報告で、事件の顛末が明らかになったのである。

「このクソ野郎は、完全に外部との連絡を絶ち、ソラリスのステーションに立て篭もっている。」
「しかしステーションが破壊されているなら…」オレは尋ねた。「……こいつはとっくに死んでいるのではないですか?」
「……残念ながら生きている。もし死んでいれば怪獣どもが消えるはずだ。」
このへんのやり取りで、オレには今回の任務の内容が大体見当ついた。
「……私が言わなくとも判ったようだな。」指令はニヤッと笑って言った。「……まあ、一応はっきり言っておこう。」
「指令」は品定めするようにオレの顔を眺めてから言い渡した。
「この男、コードネーム『A級戦犯』を殺せ。」


13 :『ソラリスの日の下に』のもとに:2006/04/04(火) 15:13:46
オレの名は……いや、名前は出せない規則だった。
コードネームは「アマギ」。
コロニアルサーベイのサイコ・エージェントだ。
サイコと言っても「キ○チガイ」という意味じゃあない。
広い宇宙にはとんでもない星がある。
中でも厄介なのが「人間の顕在または潜在の意識を実体化してしまう星」だ。
地球なら具現化することの無い一瞬の殺意であっても、そういう星では殺人として具現化してしまう。
アルテア7ではモービアス博士の潜在意識が「イドの怪物」として実体化したし、惑星ソラリスでもかつて「経験者が誰一人口を開きたがらないような現象」が起こったらしい。
オレはそういう星で活動するための精神制御訓練を受けてきた。
そういう意味での「サイコ」なのだ。
また、複数で行動するとそれぞれの思いが実体化し合って制御不能な事態に陥り易い。
だからこの手の星での活動は単独行動が原則だ。
そしてもちろんオレは単独でのサバイバル活動の訓練も受けていた。
オレは一時間ほどで手早く身支度を整えると、10数年来の相棒であるアンドロイドのガメオとともに宇宙船の「積荷」となっていた。

恒星間飛行対応の長い眠りから覚めると、目指す星はもう一時間ほどの距離である。
「キャプテン、お目覚めでっか?」
オレの覚醒を察知し、ガメオはさっさとアクテイブモードにチェンジしていた。
「降下の準備はできていまっせ。」
変な方言で喋るように入力したのはオレだ。
無機的な電子合成音声で標準語を喋られたら、とっつきにくくて仕方が無い。
「……あとはキャプテンの個人準備だけでござるよ。宿題やったか?歯磨いたか?クソしたか?」
「わかった、わかった…。」
「他はいいけど、クソだけゃあしっかりやっとかんと、万一洩らしちまった日にゃあ……。」
オレはこんな下品な単語まで覚えさせたっけか?
……などと考えていたら、あっというまに降下の時間になっていた。


14 :『ソラリスの日の下に』のもとに:2006/04/04(火) 15:18:45
ここまでで主要な登場人物(と言っても一人と一体だけ)のキャラ説明は終り。

人間があるていど長期に渡って生存できる可能性のあるステーションの所在地、エリアNo512KBを目指し宇宙船は降下を開始するが……。
アマギとガメオの宇宙船は早速に宇宙怪獣ベムスターの出迎えを受けてしまう。
なんとかこれの撃退に成功するも、宇宙船は降下予定地点から大きく外れた地点に降着。
驚いたことに「海」に覆われているハズのソラリスに大陸が広がっていた。
つまり自然環境丸ごとに「A級戦犯」が妄想ででっち上げたのだ。
「アマギ」と「ガメオ」のコンビは、諸悪の根源「A級戦犯」の立て篭もるステーション向け前進していく。
ダース・ベイダーに「ワタシはオマエの父だ。」とうちあけられたかと思うと、その十分後にはショッカー戦闘員の襲撃が!
キングコングとシーボーズがビル登り競争をやり、ゲゲゲの鬼太郎に負けそうな妖怪「皿小僧」を応援するため、「超獣キングカッパー」に乗った「河童の三平」が現れる!
そんなワケのわからないぐちゃぐちゃ世界の果てに一人と一体を待つものは!?


15 :『ソラリスの日の下に』のもとに:2006/04/04(火) 15:21:13
……長くなるので中略……

ソラリスステーションに到着したオレたちが、捜索の果てに倉庫奥で発見したのは信じ難いものだった!
「し、死んでいる!?」
簡易検査を済ましたガメオも立ち上がって言った。
「……たしかに。間違いなく死んでまんがな。」
電源が入ったままのコンピューターの前に、ゴキブリのように手足を縮こめて死んでいるのは写真の男、A級戦犯に間違いなかった。
死体の皮膚がカサカサに乾いているのに気づきいたオレはガメオに尋ねた。
「ガメオ。死んだのは……最近か?」
「死体の状況から判断して……一週間ほど前でござそうろう。」
「そんなバカな!」
オレは軽い眩暈を覚えた。
「一週間も前に死んでいるのなら、オレたちが見た怪物どもはいったい何なんだ!?幻だとでも言うのか!?」
「いえ、アレは全て実体のあるホンモノでござるよ。」
「では『A級戦犯』以外にこのソラリスで妄想を垂れ流しているヤツがいるというのか!?」そしてオレはハッとなった!「ま…、まさかオレの……!」
そのとき、奇妙に親しげな声がオレの背後から投げかけられた。

「いや、アナタではありませんよ。」


16 :『ソラリスの日の下に』のもとに:2006/04/04(火) 15:23:08
振り返ると倉庫の入り口に…………「A級戦犯」が立っていた。
《足元の死体はニセもの!》
《実は双子だった!》
《クローン人間登場!》
《ホンモノそっくりアンドロイドに違いない!》
………様々な考えが一瞬のうちに頭の中を駆け巡った。
そんなオレの心のうちを見透かしたのか、「A級戦犯」はこれまた奇妙に親しげな笑みを浮かべながら言った。
「……ワタシは外の怪獣たちと同じ。ソラリスの海が作り出した複製です。」
「ウソだ!」オレは叫んだ。
「それでは解答にならない!貴様までコピーだとしたら、貴様を作り出した人間は何処にいるというんだ!」
そのときオレはどんな顔色をしていたのだろう?
激怒の黒?それとも困惑の青?
いずれにせよ酷い顔色だったに違いない。
だがそんなオレを目の前にしても、A級戦犯は親しげな笑みを引っ込めなかった。
「……人が死ぬと、人の思いも消えてしまうと、そうおっしゃられるんですか?アマギさん?」



17 :『ソラリスの日の下に』のもとに:2006/04/04(火) 15:24:25
「……人が死ぬと、思いも消えてしまうと、そうおっしゃられるんですか?アマギさん?」
「死んだ後も心を残せると言うのか?…………(はっ!)そうか!」
オレは腰のレーザー銃を引き抜きざま、死体の「A級戦犯」の前にあるコンピューターを撃った。
ボンッ!
火花を散らし爆発するコンピューター。
だが、笑うA級戦犯は消えなかった。
「ワタシの人格をコンピューターに移し込んだと思いましたね?残念ながらハズレです。」
「別のだ!きっとこれとは別のコンピューターで………。」
オレはこれまで捜索してきた数々の部屋を思い出し、どこかに生きたコンピューターが無かったか見つけ出そうとした。
……が。
「……ありませんよ」笑ったままA級戦犯は言った。「他のコンピューターなどありません。あなたが破壊したのが最後のコンピュターです。」


18 :『ソラリスの日の下に』のもとに:2006/04/04(火) 15:26:10
「人が死ぬと、思いは消えてしまうと、そうお考えですか?」
A級戦犯はさっきの問いをもう一度繰り返したが、オレにはもうそんなナゾナゾに答える余裕は無かった。
もうあと思いつくのは《コイツは幽霊……》くらいしかない。
ステーションまでの強行軍による疲れもあって、オレはとうとうその場にへたり込んでしまった。
「……そうとうお疲れのようですね。」いつのまに近寄っていたのか、A級戦犯の声がすぐわきで聞こえた。
「……妙な質問をしてスミマセンでした。……答えは、これです。」
オレの目の前に四角く薄い物体が差し出された。
「………『ソラリスの日の下に』……なんだ?これは?」
「これは『本』というものです。」
オレの目の前でA級戦犯は『本』を開いて見せると、オレも以前博物館で似たようなものを見たことがあるのを思い出した。
「今でこそ記録は電子データの形で残されるのが普通ですが、以前はこうした『本』などの形で残されていました。」
「そうだ。」オレも段々と思いだして来た。
「……資源の問題や保管スペースの問題で、今では完全に廃れてしまったが、以前は様々な『本』があったんだ。」
「そうです、そうです。昔は『本屋』なんてのもまであったそうで。」
……見たことも無い昔の光景ら思いを馳せているに違いない……。
どこか遠い目線のままで、A級戦犯は話を続けた。
「電子記録は、記録の保存としてなら確かに『本』に勝っています。でも、『本』には電子記録には無い、ある特殊な機能があるのです。」
「特殊な機能だと?」
オレが顔を上げると、A級戦犯はまだ笑っていた。
「……『本』には人の思いを乗せる機能もあったんです。」


19 :『ソラリスの日の下に』のもとに:2006/04/04(火) 15:29:29
「この本は……」と言いながらA級戦犯はそっと「ソラリスの日の下に」のページを開いた。
どこか懐かしい、アナログな感じの臭いが密やかに漏れ出した。
「とても多くの人の手を渡ってきました。みんなSFファンで、みんなドキドキしながらこの『ソラリス』のページを開きました。もちろんワタシもその一人です。」
壊れ物でも扱うように、A級戦犯の指は茶色くなったページの面を滑った。
「そうした読み手の心が、この『ソラリス』には込められているのです。一人一人の思いは小さくとも、何十人、何百人と積み重なっているのです。」
「その『思い』が、この今のソラリスを作ったと?」
「………ワタシがこの本をここに持ち込んだのは偶然でした。」オレの質問に答えぬまま、A級戦犯はオレたちの先に立って歩き出した。
「……見えない生物バイトンもいます。トカゲオオカミもトリフィドもいます。ゴジラだってガメラだって、地下の冷凍庫に行けば『遊星からの物体X』だっていますよ。」
ステーションの正面で彼はオレたちに振り返えると悪戯っぽく言った。

「アマギさん。アナタだって好きなんでしょう?」


20 :『ソラリスの日の下に』のもとに:2006/04/04(火) 15:31:29
これが今回のソラリス事件の顛末だ。
オレはこの星に留まることにした。
この手記も連絡用ロケットに載せて打ち上げるつもりだ。
いま目の前ではゴジラとガメラが激突中だ。
隣には例の本の著者が座っていて、ゴジラとガメラを素材に新作を書くと言っている。
スタニスラウ・レム作の「ゴジラ対ガメラ」。
これを読まずに帰るようなら、SFファンの看板、下さにゃなるまい?



「『ソラリスの日の下に』のもとに」

お し ま い


21 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/08(土) 03:01:10
こちらのスレッドもよろしくおねがいします
【大怪獣】  ゴジラ VS ガメラ  【宇宙怪獣】
http://sports9.2ch.net/test/read.cgi/wres/1144114898/l50

22 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/08(土) 19:03:30
やはり・・
(攻)ゴジラX(受)ガメラなの?

23 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/10(月) 00:42:39
ゴジラの持ち味っていうのがワンパターンなのでゴジラは(攻)に徹するしかない。
それはそれでいい感じかも。
ガメラは大きな思考、わからない部分、感情移入などがあるのでいろいろ変化を作れる利点がある。
ゴジラの持ち味を存分に出して最後はガメラがプラズマでフィニッシュを決める。

24 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/10(月) 07:55:27
>>ゴジラの持ち味っていうのがワンパターンなので…

ところがまんざらそうでもない(笑)。
ゴジラは複数個体が存在するから、ゴジラ同士のネタが使える。
特撮板の今は無き某スレで使われてた設定だと…。

初代ゴジラ(通称「宗家」)
「戦国時代の斎藤道三みたいなキャラで今でも特撮怪獣世界の完全支配を狙っている。
また「恐怖こそ怪獣の本質」と信じ、息子や孫の路線を惰弱と嫌っている。
特に「チビッコ怪獣」と名乗る孫のミニラを憎んでおり、廃嫡の機会を窺っている。
オキシジェントデストロイヤーの後遺症のため、体はすっかり機械化されており放射能火炎が吐けなくなった代わり、胸にアブソリュートゼロを装備している。

二代目ゴジラ(通称「昭和」)
「対キングコング」から「メカゴジラの逆襲」までのゴジラ。
若いころは無軌道な暴れ者だったが、長じて正義を愛する親分肌の怪獣に。
怪獣世界で絶大な威光を有するも、「孝」の心から父「宗家」には逆らえない。
一方息子(ミニラ)の生き方にも理解を示し、そのため「宗家」との板挟みに苦悩する面も。
以前エリマキで仮想し「覆面レスラー」としてウルトラマンと戦ったこともあり、いまでも親友同士である。

ミニラ
チビッコを愛し、チビッコ怪獣でありつづけようとする。
しかし彼の体にも破壊神の血は脈打っており、ときおり顔を出そうとする内なる破壊衝動との対決も……。

……複数個体がいるからこういうアホな展開もできる。
ちなみにガメラは「常に一体」なので北斗神拳伝承者になぞらえられていた(笑)。


25 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/10(月) 09:17:52
「ゴジラの逆襲」にでて来たあの激痩せゴジラは、宗家ってことでいいんでしょうか?

26 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/10(月) 12:19:05
>>25
それでよろしいかと(笑)。
某スレでのアンギラスのセリフには……。
「宗家にとってはワタシはただの噛ませ犬ですが、昭和さまはワタシのことを戦友(とも)と呼んでくださいます。」
……という趣旨のがありました(笑)。
つまり宗家は「ゴジラの逆襲」でアンギラスを踏み台に使い捨てたが、昭和はそのアンギラスを何度も共演に起用し、「ゴジラ対ガイガン」ではタッグマッチのパートナーにすら指名したという意味ですな(笑)。
ちなみにアンギラスのキャラは…
「鎌倉にあるゴジラ屋敷の執事頭で単細胞のガラッパチ」というものでした。


27 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/10(月) 12:37:35
ガメラは一匹だけど作品によっては人間を仲間だと認識してることもあるからあまり孤独感はないな
逆にゴジラは同族しか仲間だとは思えない・・・

28 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/10(月) 18:03:47
ゴジラとジャガーでパンチパンチパンチ

29 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/10(月) 21:54:31
あー、聞こえない

30 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/11(火) 07:50:01
>>27
宗家、昭和、ミニラ以外のゴジラ一族には…
ゴメス
昭和ゴジラの腹違いの弟で、「若いころは色々な意味で手が早かった」ゴジラ宗家が異種の怪獣のメスを手篭めにして生ませた子供。
「生まれたときからヒゲがはえてるような子供」だったので、宗家からの認知は受けられなかったが、兄である昭和に取り立てられ、栄えあるウルトラ怪獣第一号に。
しかしゴメスは撮影順では第一号だったマンモスフラワーへの心遣いを忘れない。
昭和とゴメスの関係は徳川家光と保科正之の関係と似ている……というか、ハッキリ言ってパクリ(笑)。
ゴメスとマンモスフラワーの関係は徳川光圀(黄門さま)がオリジナル(笑)

ビオランテとスペースゴジラ
ゴメス同様異種怪獣とゴジラ一族の混血。
ビオランテはゴジラとの血縁こそ認められているが、「ゴジラ」の姓は名乗らせてもらえない。
スペースゴジラは「ゴジラ」姓も名乗らせてもらえているが、継子扱い。

メカゴジラ2体(初号機と二号機)
もちろん血縁関係は無い。ゴジラ宗家の親衛隊。

この辺りのキャラを使って、一話につきスレ数1000以上、連続投下期間半年前後の駄文が3本(4本かな?)の投下実績あり。振り返ってみて、我ながら呆れた。
……ようするに旧「ゴジラ対××」のころのゴジラのキャラなら、いろんな物語が組めるわけだ(笑)。


31 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/11(火) 07:52:33
連続すまぬ…
昭和ゴジラの交友関係
ウルトラマン
ジラースとして客演して以来の親友。
もっとも「親友」と思っているのはゴジラの方で、番組立ち上げ時の東宝の支援からウルトラマンは昭和を「恩人」だと思っている。
ウルトラマン怪獣軍団
謎の覆面レスラー・エリマキ怪獣ジラースとして重鎮扱い。
モンスターX
鎌倉ゴジラ邸の客分で、招待はキングギドラ一族のカイザーギドラ。
ゴジラ一族の支配を転覆させる野望を抱いての行動だったが……。
ガメラ〔初代〕
かつては「共に天を頂かぬ関係」だったが……、共に引退した今となっては「同じ怪獣ブームを駆け抜けた同志」的な感覚も芽生えつつある。
クトゥルー
特撮板でゴジラと対決するが……、実はゴジラと自分は似ているということに気づき「仲間の住む世界を破壊するわけにはいかぬ」とルルイエに……。
その背にゴジラが「そういうときは『仲間』じゃなく『友だち』って言うんだ!」と叫ぶと、「それでは……さらば友だち」と応じ、石棺へと姿を消す。
昭和はいまも友の眠る石棺を捜し求めている……。

ゴジラにしろガメラにしろ「どういう風に書くか?」という書き手の思いでどうとでも書ける。
モニラを「悩める御曹司」に書いたのも、もともとのミニラが特撮板ではあまり評判がよくなかったので、「それじゃ逆にしてやろう」と(笑)。
これって昔はSFのお家芸だった「既存概念のひっくり返し」のつもりだったんだけどねぇ。


32 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/11(火) 21:14:28
SF的じゃないって突っ込みは無しか

33 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/12(水) 07:44:02
>>32
今回は無し(笑)。
SFには「火星のジョン・カーター」みたいなのもあるし、現代人が過去にタイムスリップしてなんてたぐいの話だと、やってることは「昭和ゴジラ」とたいして変わらない。
それより最近は流行ってないみたいだけれども、絶対不動の概念を天地返し的にひっくり返すのも古いSFではあったでしょう?
特撮板でもあまり良い印象をもたれてなかったきらいのあるミニラを、逆視点でひっくり返すのは、見かけはSFではないが「魂はSF」のつもりで書いていたから。

要は、ここは特撮板ではなくSF板なんだから、「『ゴジラは破壊、ガメラは守護』とかいろいろある固定概念に挑戦するのもありなんじゃないの?と言いたいわけです。
「人間が作った枠」なんかぶち壊してしまえば良い。
それで逆にこっちが壊れようとも……、SF者はそんなもの恐れないもんです(笑)。

34 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/12(水) 08:00:21
ギャグはあんまり好きじゃないけどねぇ

35 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/15(土) 16:16:12
じゃSM的なのを

36 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/15(土) 18:20:27
リアルで夢が持てるものを 

37 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/23(日) 22:34:08
乳首が見えそうで見えないものを

38 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/28(金) 13:32:42
ガメラ対ギャオスにゴジラが割り込む話が多いから
逆にゴジラ対ギドラにガメラを放り込んでみようかな
書けたらだが・・・

39 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/04/28(金) 20:11:36
小さき勇者たち明日公開age

40 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/01(月) 02:01:45
キャッチコピーだけ勝手に考えてみる
ゴジラ版「倒したい奴がいる」
ガメラ版「守りたい物がある」

41 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/03(水) 16:45:16
ゴジラも全く新しいシチュエーションとストーリーで再生してほしいなぁ。。

42 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/09(火) 00:48:31
もうないの(?_?)

43 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/22(月) 08:08:36
しめしめ、みんなこのスレのことを忘れてくれたらしい。
そろそろ投下すべし。
ゴジラとガメラがこれまで出会わなかった理由を説明してはいるが……SF性はカケラも無いヤツを。

44 :ガメ男:2006/05/22(月) 12:58:38
いや、忘れちゃいないんだけど、書く暇が無いです・・・

45 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/05/26(金) 01:12:12
ガメ男さんお元気ですか
なつかしいです
また暇ができたらガメラちゃんをお願いします。



46 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/04(日) 12:26:04
もうないの(>_<)

47 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/04(日) 22:52:23
まぁまぁボチボチ行きましょう^^

48 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/09(金) 12:14:41
保守

49 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/13(火) 20:29:45
ゴジラとジャガーでパンチパンチパンチ!

50 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/14(水) 20:07:35
メガロゴジだけは勘弁してくれ

51 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/15(木) 18:05:15
本当は好きなんだろう?

52 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/16(金) 00:16:28
一応…書いてんだけど…途中まで…そこから出ない…

53 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/19(月) 07:53:24
………夜空を飛びゆく黒い雲。
その後ろから真白い月が顔を………。
ひとつ…………え?ふたつ?……みっつ!?
中天に輝く三つの月。
そのうちの二つが突然三日月となり、同時に怒りの炎が燃え上がった!

「ヤツの目的は……。」

墜落するジャンボジェット!

「………天体としての地球そのものの破壊!」

炎上する都市!

「我に支点を与えよ!さすれば……」

そして………立ち上がる死者たち!
死霊都市と化した東京を自転車で駆け抜ける!

「地球上の命という命を、バクテリアに到るまで一つ残らず………。」
発光体同士の対決。飛び交う熱線!そして雷撃!
「………一つ残らず、ぶち殺してやる!!」
「あれは!……………ガメ……ラ!?」

「G!×G!×G!?」
………骨になっても戦え!

忘れてもらえるのを諦めて、そろそろ投下?

54 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/20(火) 00:52:13
つ どうぞ!

55 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/20(火) 12:42:16
日本怪獣界のビッグG  

ゴジラ   ガメラ    ギララ

56 :ガッパ:2006/06/20(火) 23:39:29
|-`)

57 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/24(土) 19:55:04
ゴモラ

58 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/24(土) 22:35:28
ウルトラなら宇宙人だとダントツでバルタン、
怪獣だとレッドキングだろうけど
どっちもGじゃないからなぁ

59 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/26(月) 01:35:07
ジラースとか。

60 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/26(月) 01:36:17
ゴメスも。

61 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/26(月) 07:28:16
「ゴジラ」と「ガメラ」、G二つはスレからしてこれだわなぁ。
もうひとつのGは……絶対判らんぞ。
SFでもないけど、でも板的にはギリギリセーフか?
ずいぶん昔に投下した「シャドウズ」よりも変な駄文だ。

62 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/26(月) 10:36:28
ギドラとギャオスも絡めて4Gで

63 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/26(月) 12:19:14
ヤパーリ、ゴジラの宿敵はキングギドラで
ガイガンやガバラやゴロザウルスではないのね…

64 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/27(火) 00:11:35
ギドラは他怪獣と違って「恐竜絶滅」っていう因縁付けが出来るからね

65 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/29(木) 22:32:02
>>64
それってファンタジー映画のモスラ3のでことか

メカゴジラは宿敵としてはダメですか?

66 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/30(金) 00:55:47
機龍ならともかく純粋なメカゴジラはただのメカだからな

67 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/30(金) 12:26:28
投下予告から間が開きすぎてもなんなので「G!×G!×G!」、月曜から投下開始。
フルに物語形式にすると200レス前後になりそうなので、要所のみ物語でその他はアラスジ形式に。
ただ、ネタ的にはSFどころか似非科学やトンデモ科学ですらない(笑)。
マジメなSFファンの人はスルーしてくりゃれ。
あ、それからミステリー板にはチクらないように。

68 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/06/30(金) 22:46:57
三ヶ月の沈黙?を破り、新たな物語が始動する!

期待してます

69 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 07:19:37
1.
冒頭は……パリのシャルル・ドゴール国際空港。
まずは一人の国籍不詳の男が足早に登場。手にはアタッシュケースを下げている。
男はビジネスマンや旅行者らとともに機内の人に。
そして機内にはもう一人。こちらは若くて背の高い白人の女性。
よく動く青い瞳に煌めく知性が感じ取れる。
綺麗な顔だが、どこか女狩人を連想させるのは、高い鼻が猛禽類を連想させるからかもしれない。
男を乗せた旅客着は何事もなく離陸していくが……そのおよそ1時間半後に謎の空中爆発。
火の玉となった大小の破片が、雪に飾られた山岳地帯へと落ちて行く。

航空機墜落シーンの直後、画面は突然切替わる。
真っ暗な寝室で飛び起きるのは、さっきまで機内にいたはずの若い白人女性。全身に玉の汗が浮いている。
彼女はベッドサイドの明りを着けると、悪夢(飛行機の光景は彼女の夢)を振り払おうと頭を振る。
そして、彼女は訳も無く本棚の最奥に置かれた古い写真を見つめた。
写真の中から年老いた男女が穏やかに微笑んでいた。

次の場面は翌朝。
場所はスイスの山奥。
空中爆発した旅客機がとある谷川の一帯に落ちたのだ。
絶望的な状況のなか、それでも僅かな可能性を信じて救援活動をする軍、警察、消防、そして有志の登山家たち。
もはや「戦場」と呼んでいい状況の中に、一人だけ場違いな東洋人男性がぼんやり突っ立っていた。
*男のそばに地名表示の立て看板、頭の「R」だけがちらっと見えている。
男の顔には緊迫感のカケラも無い。
野次馬であることを隠そうともしないその東洋人は、谷川と、そのむこうに落ちる大瀧を見晴かして呟いた。
「……こりゃぁ、すんげえなぁ……。」

*……滝壷の底の底から「視点」がぐんぐん上がってゆき、谷と山の惨状全景を映し出しながらタイトル……。

「G!×G!×G!?」


70 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 07:23:22
2.
*またも場所は変わって…、こんどは日本。東京湾アクアラインのサービスエリア、通称「海ほたる」が、約二年ぶりの再開に漕ぎ着けた旨を報じている新聞紙面からスタート。
新聞を手にするのは無精ひげの男。その目は紙面を泳ぐばかりで、記事など読んではいない。
そして男の脇から写真を覗き込むメガネの女。
無精ひげの男は児玉、メガネの女の名は岡田という。二人は大手出版社の記者コンビだった。

岡田「さすがに綺麗に直されてるッスねぇ。」
児玉「…あの事件からもう二年だからな。」

二年前の夜、海ホタルは大爆を起こした。
テロ説や電気設備などの故障説、軍用機の墜落説から果てはUFOによる攻撃説まで様々な憶測が提起されては消えたが、結局原因は不明のままだった。

児玉「人数を正確に掴むことはとうとうできなかったけど、……100人を軽く超える人間が事故当時ここにいた。」
岡田「……そんでもって誰一人助からなかったッスよね。そんなら一人くらいは……。」

実は、再建工事の開始から間も無く、あるウワサが囁かれだしたのだ。
「海ほたるに悪霊がとりついている」と。
最初「霊現象」といわれたのは、「誰もスイッチに触ってないのに照明が消える」とか「お月様が三つ見えた」程度の他愛も無いものだった。
しかし、人の命が失われる事故がとうとう発生する。駐車スペースに止っていたトラックが、突然猛スピードで横滑りしたかと思うと、たまたま通りかかった作業員にぶち当たったのだ。
それからは……高所からの転落や感電、原因不明の失火が相次ぎ、死者は数十名以上にのぼった。

児玉「キミはあの一連の事件が、全部悪霊の仕業だなんて言うのかい?それなら彼は……」*新聞を捲る児玉……。
「………彼はさしずめ現代の陰陽師ってとこだね。」*二面にデカデカと取り上げられた男の写真を指さした。
岡田「……酒井社長ッスね。たった一年半で、一介のプータローから世界経済の大立者にランクアップっす!」
児玉「彼の活動が無かったら、こんな不採算路線のパーキングエリアなんて廃墟のまま放棄されてたに違いないよ。」
その写真の中から鋭い視線を投げかける「酒井」とは………スイスでの旅客機墜落現場に居合わせた「野次馬東洋人」であった。


71 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 07:33:58
3.
児玉と岡田の二人は、「海ほたる」再興の立役者である酒井社長の仕事振りを取材するためやって来ていた。
酒井氏が経営する「サカイ・エンタープライズ」は、東京湾に面した高さ40階の高層ビルの頂上に納まっていた。
二人して社屋を見上げていると、黒塗りのリムジンがやって来る。
地下駐車場入り口に立つ制服姿の警備員がそれに向かって最敬礼すると、車が止って後部の窓が開き、若い男が顔を覗かせ答礼……。
酒井社長の謙虚な態度にちょっと感心する岡田。
だが……次の瞬間、彼女の首筋を針先でなぞられるような嫌な感覚が突き抜けた!
(こ、これって!?)
リムジンに向かって弾かれたように飛び出す岡田。
ビシッ!
岡田が飛び出すのと殆ど同時に、何かが空気を裂くと彼女の左肩を掠め、リムジンの後部ガラスを撃ち抜いた!
(狙撃!?)
制帽を抑えしゃがみこむ警備員。
児玉も転げるように身を伏せる。
車の後部ドアが一瞬開き、肩をおさえて車にもたれかかっていた岡田を強引に車内に引きずり込むと、リムジンは猛然とダッシュして地下駐車場に消えた。
(どこから撃った!?)
低い姿勢のままで児玉は後ろを振り返った。
何が起ったのか判らずに戸惑う群衆。
中には、事件が起こったことにさえ気がついていない者もいる。
その中、落ち着きはらった足取りで立ち去る「雨傘を下げたスカート姿の女」が児玉の注意を惹いた。
児玉は素早く立ち上がると、新聞記者の本能で「スカートの女」を追いかけた。


72 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 07:36:05
4.
狙撃事件に巻き込まれた岡田は、サカイエンタープライズの社長室で意識を取り戻す。
「命の恩人です」と頭を下げながら、「……ところで……失礼ですが、アナタは……霊感の強い方じゃありませんか?」と尋ねる酒井社長。
実は岡田は、母方が「法螺貝」という姓で、代々霊媒やイタコ、巫女を輩出している極めて霊感の強い家系であった。

「なるほど。それでさっきも狙撃を予知したわけですね。」
軽く俯き、体を左右に揺らしながら何か考えているようすの酒井社長。
明るい窓を背にしているため、逆光になってその表情はよく見えない。
やがて酒井社長は、ソファーに腰を降ろした岡田の肩に手をかけると言った。
「たしかアナタの社は、ボクの密着取材を希望してましたね?」
「はい、お願いしたッス。……でも広報の人がダメだって……。」
「いいですよ、密着取材。僕がこの場で許可しましょう。」
「ほ、ほんとッスか!」
相手の提案がにわかには信じられないでいる岡田に、酒井社長は思わぬ条件をつけてきた。
「ただし、密着するのはアナタだけ。他の人はナシです。」
「え!?あの……アタシみたいな駆け出し記者でいいんスか??」
「もちろんですよ。だってアナタはボクの命の恩人ですから。それに……。」
体を左右に揺らしながら酒井社長は言い足した。
「……そのうち、特別な情報をさしあげられるかもしれませんよ。」

73 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 07:39:13
5.
そのころ児玉はというと……彼は「スカートの女」を追って地下鉄に乗りこんでいた。
彼は、狙撃の角度や通行人の反応から、狙撃に使われた凶器を「凶器には見えない形をした、無音の銃」=「日用品に偽装した空気銃」と推理していた。
隣りの車輌には、例の「スカートの女」が座っており、その手には軸のガッシリした重そうな雨傘が握られている。
児玉の脳裏に、小学二年生の夏休みに読んだ探偵小説「空家事件」の粗筋が甦る。
「スカートの女」は、いつしか彼の心の中で、「トラ狩り」モーラン大佐とだぶっていた。



74 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 07:42:16
6.
児玉は「スカートの女」を尾行し、人気の絶えた埠頭の倉庫街へとやって来ていた。
だが角を曲がってみると…女の姿が無い!?
児玉が咄嗟に身を引くと同時に…、ビシッ!…音無しの弾丸が倉庫の壁を抉った!
「……やっぱり尾行に気がついてたか!?」
大胆にも物影から狙撃者に声をかける児玉。彼は今の狙撃から威嚇以上の殺気を感じなかったのだ。
児玉はなおも狙撃者に呼びかけた。
「オレは警察じゃない。雑誌記者だ!ついでに言うと、警察にもキミのことは連絡していない。……オレは……」
児玉はまず自分の名前と社名を名乗ってから更に続けた。「……良かったら、酒井社長を狙撃した理由を聞かせてくれないか?」
暫しの沈黙………そして…「……どうやら本当にサカイエンタープライズの人間ではないようだな。」言葉が返ってきた!
警察よりも酒井社長の会社の人間であることを警戒する相手の態度に、児玉は強い疑念を感じた。
「何故警察じゃなくサカイエンタープライズの人間かどうかを気にするんだ!?」
「……それはサカイ社長を狙撃する理由とも関係している。」
「どういうことだ!?」
答えが返るのに、さっきより明らかに時間がかかったが、児玉はこれをコミョニケーションが成立しつつある証と受け取った。
「……サカイ社長が今の成功を収めるに当たって、大きな幸運に三たび見舞われている。」
「ああ、それはオレも聞いたことがある。敵対勢力の大物が2人に酒井社長を相続人に指名したスイス人の金持ちが1人、計3人が急死した。
だがしかしアレと酒井社長は無関係ということになったはずだ!?それとも何か裏でもあるってのか??」
「記者だと名乗るのなら、自分で調べてみろ!!」
ただちに返事が返り、そして急に走り出す靴音!
児玉が隠れていた物陰から飛び出し、声の聞こえた方に走ったときには、「スカートの女」は既に姿を眩ました後だった。
「逃げられたか。……まあいいさ。エサも撒けたことだし………。」


75 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 07:45:33
7.
脚を棒にした尾行劇の後、児玉が社に戻ってみると、岡田は先に帰社していた。
酒井社長への密着取材という大任のため岡田の態度はどこかぎこちない。
一方児玉は、「ある期待」からまわりに人がいるのを邪魔だと感じていたため、岡田とも努めて距離を置くようにしてしまう。
偶然発生したこの「すれ違い状態」のため、岡田と児玉は互いの持つ情報を付き合わせることができなくなる。
すれ違いのままに岡田は酒井社長への密着取材を開始。
一方児玉は、まず自社のデータファイルにある酒井社長に関するあらゆる情報に目を通してみた。
スイスに入国した時点で、酒井氏はただの「流離のプータロー」に過ぎなかった。
何がしたいのか、何をすべきなのかも決められず、目的意識を持たぬまま、ただ無為に時を過ごす日々。
それがある時期を境に一変した。
原因は判らない。
とにかく、チューリッヒのホテルで後に彼の後援者となる××氏と出会ったとき、酒井氏は「ある種の引力」を放つ人物になっていたのだ。
××氏は金融界で長く活躍してきた人物であり、要するに「海千山千」の一筋縄ではいかない人物だった。
それが出会ったその日に「捕まって」しまい、酒井氏に巨額の資金を無担保で融資。
ウワサでは、酒井氏はその資金を三日とおかずに数倍にして返したという。
間も無く××氏は、自身の全資産の運用を酒井氏に一任するようになり、遺言状も変更して酒井氏についての条項を追加。
そして遺言状の書換えからちょうど一月後、××氏は自殺を遂げる。
……自宅に客を集めてのパーティー当日、庭に集った衆目の前で自分の喉をかき切ったのだ。


76 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 07:48:37
8.
敵対者2人の死も似たような状況だった。
1人は定時の株主総会席上でいきなり拳銃を口に咥えて発射。
もう1人は、自宅での「ある会議」の終了後、参加者に別れを告げて会議室の窓を開けたという。
そして参加者たちが、彼が何をしようとしているのか理解できずにいるうちにサッサと窓枠を越えた。
ちなみに彼の自宅があるのはマンションの16階。「ある会議」の趣旨は反酒井氏的なものだったという。

三つの極めて不自然な死は、いずれも不承不承ではあるが当局によって「自殺」と認定された。
そして1人の「恩人」と2人の「敵」の死によって酒井氏は世界規模のマネーゲームにおける覇者となったのである。
(狙撃者の言葉は、明らかにこの三つの死を「殺人」であると示唆している。だが……いったいどうやって??)
死んだ3人の顔写真をじっと見つめる児玉。
酒井社長と直接関係ある人物の死はこの三件だけだった。
だが、少し距離を置くと俄然死が目立ち始める。
酒井社長から一定距離を置いて、幾つもの死がドーナッツを成すように転がっていた。
(まるで……蜘蛛だ。巣の中心にいて自分からは動かないが、巣全体に死が散りばめられている)
そのとき、彼の携帯電話がブルブルッと振動した。
ある期待をもって、児玉は携帯を手にとった。
「………もしもし?」
…しばしの沈黙、そして聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「……ワタシよ。誰だか判るわよね。」


77 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 07:51:44
9.
「…ああ、待ってたよ。」
電話の相手こそ児玉の待ち人、あの「スカートの女」だった。
「ワタシが電話かけてくるって、自信があったわけね?」
「そうさ。」落ち着き払って児玉は答えた。「言葉の微妙なイントネーションの違いからキミは外国人だと判った。それに立てた襟から覗いた頬の白さからするとたぶん白人……違うかい?」
いくぶん間をおいてから女は答えた。「……ちょっとした名探偵気取りね。」
「子供のころはよく読んだからね。」児玉が少しだけ遠い目になった。「ポワロ、クイーン、ヘンリー・メリヴェール、それからもちろんシャーロック・ホームズ。」
自分でも気づかぬうちに、まるでパイプでも扱うような手つきで児玉は携帯を弄んでいた。
「それからついでもうひとつ。君はプロの殺し屋じゃないね。」
「………なぜそう思うの?」
「プロだったら倉庫でボクを射殺してるだろ?弾の当たった場所から考えるに、キミは最初からボクに当てるつもりは無かった。ただの威嚇だよね、あれはは。」
「…………。」
「スカートの女」が黙り込んだので、今度は児玉が質問する側になった。

「で、ボクは何をすればいいのかな?」


78 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 15:19:03
10.
一方、岡田は早速酒井社長への密着取材を開始していた。
分刻みというより秒刻みのスケジュールで様々な人と会い、会議や交渉をこなしていく酒井社長。
相手は技術者、科学者、経営者に政治家、法律家と実にバラエティに富んでいたが、岡田とは縁の無い世界の住人という点ではみな同じだった。
ただし、あるひとりの男を除いては……。

その卜部(うらべ)と名乗る男は身長170cmあるかないかだが……、岡田のよく知る「ある種のオーラ」を強力に放っていた。
岡田が男の存在に気づくのと殆ど同時に、男も岡田に気づいたらしい。
視線がぶつかった瞬間、岡田は確信した。
(こいつ、心霊能力の持主ッス。それもかなり強力な……。)

男が退去した後すぐに、岡田は会議室から出て来た酒井社長に尋ねてみた。
「失礼ですけど、社長!さっきの男性はどういう人ッスか??」
次の会見に急ぐ脚を止めないまま、酒井社長は簡潔に答えた。
「国家霊安室の方だそうです。」
「れ、霊安室?それってホトケさまを安置する部屋のことッスか???」
酒井社長はそれ以上答えてはくれず、「質問はここで打ち止め!」というように脚を早めて行ってしまった。


79 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/07/03(月) 15:21:25
11.
「なぜアナタはワタシの手助けなんかしようっていうの?狙撃未遂犯のワタシの?」
「キミに指摘される前から、あの酒井って男を胡散臭いと思ってたからさ。あの男の身辺はきれい過ぎるくらいに綺麗だ。でも二三歩離れると例の変死事件以外にも妙な話がゴロゴロしてる。まるで巣の中心に陣取ったデカい蜘蛛みたいに見えないかい?」
数秒間の沈黙、そして……。
「……アナタの考えは判ったわ。一つ調べてもらえるかしら?」

こうして児玉は、「スカートの女」の言葉により川崎の倉庫に忍びこんでいた。
つい最近、サカイエンタープライズがアメリカから持ち込んだ「装置」を調べるためである。
とてつもなく巨大で頑丈な木枠に収められていたため「装置」そのものを直接目にすることはできなかったが、児玉は木枠に鋲止めされていた送り状といくつかの文字を書き写す。
自宅に戻り、送り状と木枠の文字を調べてみると、「装置」の送り主はアメリカのRマシスン・コーポレイションであると判った。
「装置」の名前は「Sリバーサー」。
綴りからすると「逆転」の意味のリバースに「ER」がついた形であり、直訳すれば「逆転するもの」ということになるだろう。
だが、いったい何を逆転するというのだろうか?



80 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 15:24:06
12.
その翌朝「スカートの女」から電話連絡があって「リバーサー」について知り得た情報を報告した後も、児玉は川崎の倉庫の監視を続けていた。
装置が、サカイエンタープライズ本社のあるシオドメではなく川崎に置かれているのが気になったからである。
(装置を使う場所が川崎の近くにあるからに違いない。)
監視の甲斐あって児玉はリバーサーの輸送を尾行することに成功。
装置を積んだ大型トラックは改修後もいまだ一般開放されていない東京湾アクアラインへと姿を消す。
児玉はトラックによって運び去られたリバーサーは、東京湾アクアラインを越えていないと考えた。
もし千葉で使うつもりならば、最初から千葉か都内に陸揚げすればいいからだ。
(アクアラインに乗り入れ、しかも向こう側まで渡らなかったとすれば、行き先は一つしかない。「海ほたる」だ!)

その後も児玉は様々なルートで「リバーサー」について調査を試みたが、結果は不毛に終る。
だが、その正体は意外な顛末から明らかとなった。
仕事とリバーサーの調査で疲れ果て眠り込んでいた児玉は、未明の電話に叩き起こされた。
すわ(スカートの女か!?)と飛び起き電話をひっ掴む児玉。
だが、電話の主は児玉の期待していた相手ではなかった。
電話口から飛び出してきた威勢のいい声は、児玉の大学時代の友人、…たしか「ミー」とか「メー」とかいうオカルト雑誌で記者をやっているヤツだった。
半分以上ひっくり返ったような声で友人は叫んだ。
「なにしてる!?寝てたのか!?起きろ起きろ!これは事件だ!オカルトだ!さっさとテレビをつけろ!!」


81 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 15:27:10
13.
事件の舞台は……サカイエンタープライズ本社近くにあるホテル。
与党の元老的立場にある大物政治家の後援パーティー会場でのことだった。
出席する酒井社長にエスコートされる形で密着中の岡田も同席させられるハメになったわけだが、普段呑みつけない高級酒に手を出した岡田はすっかり悪酔いしてしまい酒井社長を見失ってしまう。
酒井社長を探し参加者たちの中を彷徨う岡田は、海の方からやってくる「ある力」を突然感じとった。
それは「黒い意思」であり「破壊を望む心」に違いなかった。
一瞬で岡田の酔いが醒めた。
「黒い意思」は、海を越えハメ殺しのガラスエリアも通り抜けると、何も知らない参加者たちの中に溶け込んで行く。
その有様は、まるで白いタオルに墨汁が染み込んでいくようだったが、人の心を黒一色に染め上げる存在に気づいているのは岡田ひとり。
迫る危機を警告しようと岡田は酒井社長を必死に探すが、別の部屋にでも行ってしまったのかその姿を見つけることはできない。
焦る岡田のまわりで突如拍手が沸き起こった。
司会者に促されてパーティーの主役である大物政治家がマイクの前に立ったのだ。
だが、演説好きと評される老政治家は、目玉をひん剥いて鉛色の顔から蝋燭のように白濁した汗を流すばかり。
その口からは如何なる言葉も発せられない。
異常を察した司会者がそっと近寄って何事か囁いた瞬間だった。
大物政治家が……、吠えた!泣いた!叫んだ!狂ったように哄笑した!
いや、それらを次々にやったのではない!全部をいちどにやったのだ!
そして呆気にとられた司会者に飛びつくと………彼の片耳を食い千切った。



82 :G!×G!×G!:2006/07/03(月) 15:31:51
14.
「これは霊障ッス!!」
事件の翌朝朝、岡田は社長室で酒井社長に向かって弁じ立てていた。
社長室の大きなデスクの上には何紙もの朝刊が広げられ、その全てが代議士の狂乱を報じていた。
司会者に噛み付いたのを皮切りに、後は手当たり次第。
老人とは思えぬ怪力で暴れまわった挙句、取り押さえようとした警官にすら襲い掛かった果て………とうとう射殺。
自らが食い千切った被害者のパーツが散らばる中央で、犯人自身が息を引き取るというまさに地獄絵図となってしまった。
「……新聞やテレビのニュース番組は『薬物中毒説』に傾いているようだが……。」
「違うッス!あれは海の方から来た霊の仕業なんッス!!」
「海の方から………か。」
酒井社長は新聞から顔を上げると、窓から見える東京湾を見晴かした。
「間違い無いッス!あいつは……あいつは海の方から来たッス!」
ガタン!と音を立て酒井社長がデスクから立ち上がった。
「岡田さん。悪いが僕と一緒に来てくれないか。」

酒井社長が岡田を連れて行ったのは千代田区の高層ビル街だった。
てっきりそのどれかに入るのだと思っていると、酒井社長は幅1mちょっとしかないビルの間にどんどん入っていく。
絶壁に囲まれた迷路のような路地を進んで曲がって進んで曲がって……辿り着いた先にあったのは小さな石の鳥居と今は見かけなくなった公衆電話ボックスのようにちっぽけな社殿。
(きっと東京が江戸だったころからここにあるッスね。そんでもって近代化の波からも零(こぼ)れ落ちゃったッス。)
……などと岡田が考えていると、酒井社長は社殿横の狛犬に向かって手を叩いた。
応じるように、社殿正面の木戸がすうっと音も無くと、酒井社長はなんの躊躇も無く社殿に足を踏み入れた!?
「ちょ、ちょっと。どこ行くんスかあ!?」
社殿に片足を踏み込んだところで思い出したように振り返ると酒井社長は手招きして言った。「さあ岡田さん、アナタもいっしょに。」
「そ、そんなこと言ったって……!?」
戸惑う岡田の片手をむんずと掴むなり、酒井社長がにやっと笑った。
「ひょ、ひょええっ?!?!何するッスかぁ??」
酒井社長に手を引っぱられて、岡田は小さな社殿の中へと引きずり込まれ……………社殿の扉がぱたりと閉まった。


83 :G!×G!×G!:2006/07/04(火) 08:37:57
15.
「お!降りてくッス!!これってエレベーターッスね??」
仰天顔で聞いた岡田に、酒井社長は笑って答えた。
「びびりましたか?」
なんと!高層ビルの狭間の「ちっぽけな社殿」は地下施設への入り口エレベーターであった。
小型ではあるが超近代的なエレベーターで下った先は、前近代的な板張り廊下の和風世界。
つまり、そここそが「国家霊安室」の本拠地だったのである。
「白峰」こと崇徳上皇、「雷神」菅原道真、悪路王ことアテルイ、「新皇」平将門などなど……、古来より日本は様々な悪霊・怨霊の脅威に晒されてきた。
雷を落とし、疫病を流行らせ、飢饉をもたらす、そうした恐ろしい霊威を野放しにするわけにはいかない。
そうした存在を慰撫し、場合によっては戦ってなんとかお鎮まりいただく……そうしたことを生業とした組織が誕生したのも当然のことであろう。
つまりそれが「国家霊的安全保障室」、略して「霊安室」なのであった!



84 :G!×G!×G!:2006/07/04(火) 08:40:07
15−2
面会相手がやって来るのを待つあいだに、酒井社長は自分の知っている事柄を岡田に手短に説明した。
「歴史こそ古いが、正規の部署になったのは明治維新の直前、なんでも孝明天皇によってだとか……。」
「はあ!そうッスか!崇徳院の呪い対策ッスね。」
霊感女の岡田にはすぐさまピーンときた。
「知ってるんですね?」
「崇徳(すとく)院、崇徳上皇。れっきとした元天皇ッス。そんでもって保元の乱の首謀者ッスね。野望潰えて後、四国は讃岐の山奥に流されて、死んだあとは……。」
ここで岡田はワザとゾンビみたいな顔を作って言った。「……『皇(すめらぎ)をとって民となし、民をとって皇となさん』……天皇家に仇為す日本最大の祟り神ッス。」
……せっかく思いっきり変な顔を作ったのに酒井社長はクスリとも笑ってくれなかった。
(……やらなきゃよかったッス……)
ゴホンとワザとらしい咳払いで岡田はなんとかその場を繕うと説明を続けた。
「……明治維新で天皇家が政治の表舞台に復帰するとき、孝明天皇は崇徳院の神霊を京都にお戻しするよう命じたッス。そんでもって息子の明治天皇が建立したのが京都の白峰神社ッスね」
そこまで話したときだ。
「……お詳しいですね。」声とともに2人の男が入って来た。
1人はかなり年配で総白髪、もう1人は……。
(あ、もう一人はあの男ッス!たしか名前は……ウラ……ウラ、ウーラウラウラウラ、ベッカンコ!……じゃないッス!)
すると隣に座っていた酒井社長がすっくと立ち上がって言った!
「守矢さん、卜部(うらべ)さん、単刀直入にお願いします。ワタシのリバーサーの使用を許可してください!」


85 :G!×G!×G!:2006/07/04(火) 08:42:40
16.
児玉がテレビをつけてみると……友人の「オカルトだ!」という言葉は額面通りだと判った。
テレビは戦慄の事件を報道していたが、放送コードを考えると実際の全容はこんなもののはずはない。
オカルト映画の世界が現実となったのだ。
(そう、まさにオカルト映画だ……この事件は……)
そのとき児玉ははっと気がついた。
(そうだ!オカルトだ!この事件だけじゃない!あの三件の変死もオカルトだ!……そう言えばリバーサーが運び込まれた「海ほたる」には「悪霊が出る」というウワサがあった!なら、ひょっとしてあのリバーサーは!?)
「オカルト」「心霊」「幽霊」思いつくままの単語を「リバーサー」と組み合わせて検索を試みる!
……………すると!?
「あった………とうとう見つけたぞ!!」
リバーサー、それは英米物質主義の権化だった。
「心霊現象と呼ばれるものであっても計測可能な部分は物理学の範疇にある」と考え、強力な電磁流によって霊の持つ物理的エネルギーを消滅させてしまう。
それが「リバーサー」の正体だった。
つまり簡単に言ってしまえば、「リバーサー」とは「幽霊破壊装置」だったのである。


86 :G!×G!×G!:2006/07/04(火) 08:44:47
17.
国家霊安室の地下社殿では、酒井社長と霊安室室長の守矢がもの言わぬまま睨み合っていた。
「例え人に仇為すものであろうとも、霊には納得づくでお帰りいただくのが筋目。老朽家屋みたいにぶち壊すなど言語道断。」
それが守矢や卜部ら霊安室の意見であった。
祖霊に対する礼の姿勢は日本人に限らず人の本能的なものである。
それに日本の古い神々はスサノオに代表されるように祟り神・凶つ神としての性格を少なからずもっていた。
そうした霊との付き合いの歴史が、西欧物質主義の産物である霊破壊装置「リバーサー」の使用を拒ませたのだ。
だが今回の会談は最初のときとはいささか展開が違っていた。
岡田の存在である。
霊能力者である岡田からの「海から来た悪霊」発言は、物質主義者である酒井社長の発言とは違った重さを持っていたのである。
それからもうひとつ、岡田は意識していなかったが彼女の母方の姓である「法螺貝」も大いにものをいっていた。
クダギツネの使役や呪殺、悪霊払いや神おろしなど、良きにつけ悪しきにつけ「法螺貝」オカルト世界の一族はビッグネームだったのだ。
「信じられないくらい強力な悪霊だったッス!血に飢えてて、凶暴で……。」
念押しするように守矢が尋ねた。
「岡田さん。あなたの言われる悪霊は《 確かに 》海の方から来たのですね?」
「そうッス!海の方から、正確には『海ほたる』の方角から来たッス。」
岡田の口から「海ほたる」の名が出たとたん、卜部は確かに「ぐっ!」と唸った。
同時に隣で酒井社長がぶるっと身震いしたのも感じられた。
岡田は直感的に悟った!
「ひょっとして酒井社長も卜部さんも、悪霊の正体を知ってるんスね!」
何も答えぬまま守矢は静かに席を立つと、しばらくしてスクラップブックのようなものを手に戻って来た。
「御嬢さん。さあ、まずこれを見て御覧なさい。」


87 :G!×G!×G!:2006/07/04(火) 08:47:08
18.
岡田が見せられたのは、めちゃめちゃに破壊され焼き尽くされた「海ほたる」の写真だった。
何枚も続く写真を追っていた岡田の目が、とある写真でピタリと止った。
それは焼け焦げた駐車場の光景だった。
アスファルトの大部分は熱融解し、一部は融解に留まらず蒸発したようだが、片隅の一画だけは奇跡的にアスファルトが残っていた。
そしてそこには白や黒の灰にまみれながらも、一部奇妙な紋様が残っていた。
「気がついたみたいですね。」卜部が静かに口を開いた。「……その個所だけが、アスファルトが破壊されずに残っていたんです。蒸発するほどの熱にさらされたはずなのに。」
「……この模様……、たしか、かあちゃんの田舎で見たことがあるッス。この模様はたしか、口寄せとか降霊術のとき使う……。」
となりで酒井社長が、感心したように長く息を吐き出して言った。
「…もっと早くアナタと会っていればよかった。そうすれば、調査に日時を費やさなくともよかったのに。」
催眠術士のように喋る卜部に代わって、酒井社長の確信に満ちた声が説明を引き継いだ。
「……随分ボクも調べましたよ。2年前のあの日、誰かが『海ほたる』で降霊の儀式を行いました。それがあの大破壊の原因だったんです。」
「でも…、でもでもでも!どんな悪霊や怨霊だって鉄やアスファルトまで蒸発させるような高熱なんて起せないッス!むりむりッス!!」
口を尖がらせて反論した岡田だったが、酒井社長は確信に満ちた声で応じた。
「人間の霊じゃムリでしょうね。でも、存在したじゃないですか。鉄やコンクリートでも焼き尽くすような火を吐く怪物が。たしかヤツの死に場所は東京湾だったはずです。」
そして説明を締めくくるように守矢は言った。
「あれはゴジラの霊。オキシジェントデストロイヤーで滅ぼされたあの怪物の怨霊なのです。」



88 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/07/04(火) 08:59:09
駄文書きのひとりごと

ここまでの展開で「なんだ『海ほたるでの降霊会』のパクリか」と思った人がいるかもしれない。
実はあれもワタシが書いた駄文で(笑)、「G!×G!×G!」のネタを考えたとき、その前史として考えたもの。
ところが作ってみたはいいが、ガメラが出てないのでこっちのスレには投下できず、他スレに投下した次第。
ちなみに「海ほたるでの降霊会」に登場する「法螺貝しのぶ」と本編の岡田は遠縁ですが親戚という設定(笑)。
笑ってやってくだせえ。

89 :G!×G!×G!:2006/07/04(火) 12:36:42
19.
守矢は言った。
何者かの降霊術によって東京湾に眠るゴジラの霊が召喚されてしまったのだと。
霊を召喚してしまった何者かは呼び出した霊を除霊できぬまま恐らくその場で死んでおり、召喚されたゴジラの霊はアクティブな状態のままで今もあそこにいるというのだ。
「さらに始末が悪いのは……。」守矢が静かに語った。「……東京湾は東京を支える地脈の終点であり、関東一円の『霊の吹き溜まり』となっているのです。
そのため、東京湾に陣取るゴジラの霊は、様々な自縛霊、浮遊霊、動物霊などが流れ込んでいる可能性があります。」
後を受けた酒井社長は断言した。「蓄えられるだけの霊力を蓄えたら、大悪霊と化したゴジラは、今度は東京そのものを焼き尽くすに違いありません。」
「そ、そんなぁ!ワンコやニャンコの動物霊だって悪霊化したらメチャメチャ恐いッス!それがゴジラの悪霊なんて、激恐ッス!!」
だが、うろたえる岡田の前で酒井社長は大きく胸を張って見せた。
「岡田さん安心しなさい。その強大な悪霊を滅ぼすために、はるばるアメリカからスーパーリバーサーを持ってきたのです!あれでゴジラの霊を無力化してみせますよ。」
……しかし岡田の顔は晴れなかった。
何故なら、彼女にとっての「霊」とは霊安室の立場と同じ、つまり粘り強く会話を重ね、礼を尽くしてお帰りいただく存在だったからである。
実は霊安室もこれまでアクティブな状態にあるゴジラ霊をなんとか鎮めようと密かな努力を重ねてきていた。
だが、昨夜のようにゴジラ霊の被害者が出てしまったとあっては、もう穏健策をとっている猶予はない。
結局その場で守矢ら霊安室は、酒井社長の「スーパー・リバーサー」の使用に同意を与えたのだった。


90 :G!×G!×G!:2006/07/04(火) 12:39:21
20.
その翌朝、サカイエンタープライズ本社ビル最上階は作戦室となった。
臨時休業ということで社屋から退去させられる社員、そして入れ代わりに乗り込んできた霊安室の一団。
リバーサーは強力な電磁波を撒き散らすので人間が直接操作するわけにはゆかず、遠隔操作する必要があった。
その操作場所として酒井社長は本社ビルを提供したのである。
遠隔操作といっても本社ビルからは「起動」の信号を送るだけで、停止の方は「リバーサー」が自動で止ることになっていた。
運び込まれた装備はリバーサー関連の機械だけではなかった。
魔除けのお札に破魔矢や鏡、あげくは熊手まで運び込まれていて、知らない人が見たら「酒井社長は気でも狂ったか?」と思っただろうが、全てマジメな霊的防御策であった。
その他にもフロアには幾重にも魔法陣やら何やらが描かれ、ビルの正面には奇態な紋様が幾つもならんだ垂れ幕が全部で三本下げられた。
多くの作業員が出入りしての突貫作業は、日が沈むころまでかかってようやく終った。
社内社外の人物があまりに大勢出入りしたため、入館チェックが甘くなったのは止むを得ないことだろう。
だから建物に入ったままで、出てこなかった人物が一人ぐらいいたとしても……。

そして…………墨を流したような闇の中にただ満月だけがぼっかり輝く……そんな夜に作戦は開始された!


91 :G!×G!×G!:2006/07/04(火) 12:42:31
21.
「ヤツの墓は東京湾の底ですから、そのままリバーサーを使用しても海水で効果は減殺されてしまうでしょう。ですから、まずはヤツを海底の墓より誘き出します。」
酒井社長は幾つも並んだボタンのうち右端のものを押し込んだ。
暗い東京湾の向こうから何か動物の叫び声がかすかに聞こえてきた。
「ワニの吠え声にコブラやガラガラヘビの威嚇音などを混ぜこぜにしたものです。ゴジラが恐竜時代の生き残りだというのなら、必ず反応を示すはず……。」
酒井社長がそう言い終わるか?終らないか?というタイミングで、高感度望遠鏡で「海ほたる」を観察していた霊安室職員が叫んだ。
「月が出ました!最初から出ていたものと合わせて全部で三つです!」
同時に霊視班からも報告が入る!
「出ました!間違いありません!ヤツです!!」「信じ難いほどのパワーだ!」
「うろたえるな。」霊安室室長の守矢が一喝した。「……霊につけこまれるぞ。」
霊安室職員たちは冷静さを取りもどした。
「……申し訳ございません。ゴジラ霊、ポイントXまで500メートル!」
「社長!…ポイントXって何のことッスか?」酒井社長のわきに座っていた岡田が聞いた。
「スーパーリバーサーの電磁流の増幅作用が最大になるように設定されている場所のことだよ。」ボタンの一つに指を乗せたまま、酒井社長は答えた。
「ゴジラ!前進開始!………しかしこの方向ではポイントXには入りません!」
「……危険ではあるが……やるしかないか。」酒井社長は次のボタンを押し込んだ。
本社ビルの前方400メートルほどのところで、派手な閃光が立て続けに発せられた。
「…水爆実験で生まれたゴジラは光を憎み攻撃する。おそらく水爆を思い出すからだ……。」
「ゴジラが向きを変えました!まっすぐこちらに向かってきます!」
「ポイントXまであと400メートル!」
「350メートル!」
「300メートル!!」
「よし!こっちの計画どおりだ!!そのまま真っ直ぐ来い!」
だが、そうは問屋が卸さなかった。
霊視班の職員が口々に叫んだ!
「ゴジラ霊が口を!」「口を開きました!!」「熱線が来ます!!」


92 :G!×G!×G!:2006/07/05(水) 12:08:41
22.
「熱線来るッスかっ!!?」
岡田も思わず闇の彼方を凝視すると、……彼女にも見えた。三つの月が!そして鬼火に縁取られたキバが!
三つの月のうち二つが、三日月のように細くなった!そしてそこに燃え上がるのは!?
「怒りの炎ッス!!」
鬼火に縁取られた口から燐光を放つ幻の炎が吐き出された!
「ぎょええぇぇぇぇッス!!」
幻の熱線はサカイエンタープライズ本社ビルめがけ一直線に走った。
このまま二年前の「海ほたる」のように火の海に沈むのか?!
だがそのとき、社屋正面に下げられた三本の垂れ幕が怪しく光を放った!
ずーーーーーん!建物全体が震動する!
しかし本社ビルは無事!ゴジラ霊の熱線をなんとか凌ぎきった!
「遮霊幕、二本だったら危なかった。」卜部が思わず呟く。
「さすがにバケモノだな。だが……」守矢が続けた。「相手が霊なら、持ち堪えてみしょうぞ!」
観測員が再び叫んだ!
「ゴジラ霊!ポイントXまであと250メートル!!」

一方同時刻、同じビルの中。
身を隠していたロッカーが衝撃とともにひっくり返ってしまい、その中から児玉がほうほうのていで這い出した。
一度は(あの女の仕業か?)とも思ったが、(酒井社長以外の巻き添えを避けたいあの女がこれほどの騒ぎを起すはずが無い)と考えなおす。
そうであるならば、この衝撃は酒井社長の計画によるもののはず。
事態は物凄いスピードで展開し始めている!
たぶんあの女も動き出しているに違いない!
(こうしちゃいられないぞ!)
児玉はロッカーが幾つもひっくり返り、書類が散乱する中を掻き分けて、人気の無い廊下に忍び出た。
1階には警備が配されているのだろうが、途中階には幸運なことに誰もいなかった。
廊下の端から非常階段に出ると児玉はビルの最上階を目指した。


93 :G!×G!×G!:2006/07/05(水) 12:11:51
23.
「ゴジラ霊!ポイントXまであと200メートル!」
「意外と早いな。」呟く卜部。
「遮霊幕の力を上げよ。」守矢が後ろに控える霊安室職員たちに命じる。
「ゴジラ霊!ポイントXまで150メートル!」
プレッシャーを感じているのか酒井社長は体を左右に揺らしているが、指はリバーサーの起動スイッチから動かない。
「……あと少しッスよ社長。」
「ありがとう岡田さ……。」
社長が礼を言い切るより僅かに早く……ずぅうううううううん!
腹に堪える鈍い震動が走った!
卜部が叫ぶ「ゴジラの攻撃か!?」
「違います!ゴジラからではありません!」
「ではいったい!?」
混乱する作戦室!
そこにもう一発!……どおおおおおおおおおおん!
「なんだとぉ!?」「ゴジラでなければ何者だというのだ!?」
口々に叫ぶ霊安室職員たち!
そして「ゴ、ゴジラ霊!あと100メートルです!」という声に被さるように……ぼおーーーん!……どおおおおおおん!!
今度は続けざまに二発!
「社長!こ、これってどうなってるんスか?!」
「以前ボクを狙撃したヤツだろうね。」酒井社長は冷静なままだった。「……やっぱりきたか。」
そのとき、廊下に配されていた霊安室職員が部屋に飛び込んで叫んだ!
「エレベーターが上がってきます!」


94 :G!×G!×G!:2006/07/05(水) 12:15:11
24.
「誰が乗っているのだ?行って確認しろ!」
卜部の指示で数人の霊安室職員が廊下に飛び出した。
34……35……36……エレベーターが上がって来た。
そのドア口を霊安室職員たちが固める。
……37……38……。
皆の注意がエレベーターに集中した瞬間、岡田はある奇妙なものに気がついた。
屋上から何か……ロープで繋がれたナップザックのようなもの……が下がってきたのだ。
……39……40……チーン!
エレベーターが開いた!そして!
パーーーーーーーーーーーン!耳をつんざくような高周波の爆発音と閃光が駆け抜けた!
音と閃光によるショックで敵兵を一時的に麻痺させる爆弾(スタングレネード)だ!
「やはりエレベーターはオトリ。ホンモノは……」
酒井社長がそう言うと同時に、バンッ!!ナップザックが爆発!正面のガラスエリアはコナゴナに!
そして高層のビル風が作戦室に舞い狂うのと同時に、何者かがまるでターザンのように飛び込んで来た!
風が金髪を嬲る!ボディラインは間違いなく女だ!
襲撃者は手にした雨傘を酒井社長の胸に突きつけると、迷うこと無く引き金を引いた!
ブンッというくぐもった音。
だが…………倒れたのは最初の狙撃のときと同じ。
やはり岡田だった。
ただひとつ大きく違ったのは、酒井社長が岡田の体を盾に使ったことだった。


95 :G!×G!×G!:2006/07/05(水) 12:17:54
予想外の事態に襲撃者が凍りついた瞬間!
「つめが甘いぞ。」
酒井社長の手が手をかざすと、ばんっ!!見えない巨人に突き飛ばされたように襲撃者は後ろにふっ飛んだ。
「社長無事ッスね?」人間の盾として使われながら、岡田は恨み言一つ言わなかった。「……そんならよかったッス。」
だが、酒井社長はそんな岡田の言葉など聞いていない。
「………ゴジラは、どうやらポイントXに入ったようだな。」
思いがけない酒井社長の言葉に、岡田は傷の痛みも忘れて言った。
「しゃ、社長、霊能力者でもないのに、なんでゴジラ霊の居場所が判るんスか?」
「……答えは簡単。ボクにも見えるからさ。ゴジラ霊がね。」
答えと同時に、酒井社長の体から白い霧のようなものが染み出しはじめた。
「酒井社長!!あんた一体何者だ?!」山門の仁王様のような顔で卜部が飛び出した。
「その質問に答えるその前に……これをやっておかないとね。」
酒井社長はリバーサーの起動スイッチを押した。
たちまち目には見えない電磁流の竜巻がうねりだす!
これでゴジラ霊は消滅……するのか?
「……さてと、さっきの質問だがね。実はオレも死霊なのさ。死んだのは前世紀の初めのころだがね。」
「そ、そんなのうそッス。」苦しげにそう呻くと、岡田は気を失ってしまった。


96 :G!×G!×G!:2006/07/05(水) 12:20:21
26.
「我ら霊安室まで、生物であるかのごとく謀った(たばかった)のか!許さん!!」今にも飛びかからんとする卜部。
だがそのときゴジラ霊の観測員たちが大声で叫んだ!
「ゴ、ゴジラ霊のパワーが上がっています!」「この霊力上昇はいったい!?」
彼らの言葉と同時に、それまで普通の人間には見えなかったゴジラの姿が闇に青白く浮かび上がった!
「ふ……ふ……ふははははははははは!」酒井社長は突然狂ったように笑い始めた。
「………我に支点を与えよ!さすれば………ふははははは!我は支点を得たぞ!ついに支点を得たぞ!はははははははははは!!」
「企んだな。」霊安室室長守矢が静かに前へと踏み出した。「リバーサーのパワーを、ゴジラ霊の霊力を消すのでなく、逆にパワーチャージするのに使ったのだな。」
「な、何と!?」驚く卜部。「ゴジラをリバーサーで強化したと!?」
「そうじゃ。……見よ!」守矢はゴジラを指さした。「霊でありながら殆ど物質化しておる。あヤツの津波のような霊障を感じぬか!?」
気がつくと、作戦室内にいた霊安室職員は、抜きん出て霊格の高い守矢と卜部を除き、尽く白目を剥いて倒れている。
「卜部!」守矢の表情がにわかに鬼の形相に変わった。「女性2人を守ってここから脱出せよ!このバケモノはワシが引き受ける!」
「しかし…!」
「行くのだ!この者たちを巻き添えにしてよいと言うのか!」
鬼の形相の守矢とニヤニヤ笑う酒井社長を残し、卜部は襲撃者と岡田を抱えるようにして作戦室を出た。
廊下に出るとエレベーターが開いており、まだスタングレネードによる麻痺から脱しきれていない霊安室職員、そして児玉が乗っていた。
「おい!アンタもモタモタしてないで早く乗れ!」
「エレベーターは危険だぞ!」
「心配いらん!下りだけの重力エレベーターだ!」


97 :G!×G!×G!:2006/07/05(水) 12:22:59
27.
卜部と岡田、そして気を失ったままの「襲撃者」がエレベーターに乗り込んでドアーが閉まりきる寸前、作戦室から一人の男が悠然と歩き出した。
酒井社長だ!
……守矢は敗れたのか。
怒りと悲しみに顔をゆがめた卜部を閉じ込めてエレベーターは重力ブレーキによる降下を開始する。
重力ブレーキは下りだけの片道キップのため、卜部は守矢の仇討ちに戻ることが出来ない。
本社ビルに更に接近したゴジラ霊が再び熱線を吐くとビルの上半分は粉微塵に吹き飛ばされてしまうが、それは間一髪児玉たちが脱出した後だった。
児玉たちは卜部に導かれ、国家霊安室本部へといったん撤退。
そして意識を取り戻した「襲撃者」は、酒井社長にとりついていた悪霊の正体について語りだした……。


98 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/07/05(水) 23:08:10
期待してまーす。


99 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/07/06(木) 07:19:20
期待されても困りまーす。
だって仕事の合間にチョコチョコっと書いてるだけだし(笑)。

100 :G!×G!×G!:2006/07/06(木) 07:26:38
28.
「襲撃者」=「スカートの女」は、自らメアリー・アドラーと名乗った。
児玉の想像どおり白人女性。
普通のスニーカーを履いているにも関わらず、身長は175センチ以上ある。
年齢は20代後半だろうか?もっとも白人は日本人よりも老けて見えるから二十歳そこそこかもしれない。
痩せて見えても、身のこなしから推察するにただのダイエット痩せではない。
服の下はきっと体操選手みたいだろう。
そして顔は………なんと不思議な顔だろうか?
間違いなく美しい顔なのだが、角度によっては「猫」のように見えたり「鷹」のように見えたりするのだ。
目は児玉の顔を見ながら、同時に児玉の顔を通り抜けて何処か彼方の世界を見ているようにも見える。
(まちがいない。こいつのこの顔は……狩人の顔だ。だがこの顔はどこかで……どこかで……)
児玉には確信があった。(こいつのこの顔、オレはどこかで見ているぞ!)と……。

「一年半ほどマエ、ヤツの霊の眠る地にヒコウキが墜落しましタ。」俯くことなく、卜部や児玉の目を真正面に見つめながらメアリーは語った。
「一年半前の航空機墜落事故っていうと…」記者というだけあって児玉は事故を記憶していた。「…例のスイスの山奥に落ちたあの事件だね。場所は確かラインヘン………」児玉の言葉が突然止った。
「どうしたッスか??」岡田は腕を包帯で吊っていた。「児玉さんひょっとして、ひょっとして、ひょっとして、何か知ってるんスか??」
「知ッテルんですネ。あそコがどんなヤツの墓なノか……。」岡田とは対照的な冷静さでメアリーは言った。
「まさか、そんな。………事故機が滝壷だけじゃなく地獄まで突き抜けたとでもいうのか!?」そして児玉は絶句した。
「そうなのかもしれまセン。」メアリーは静かに続けた。「……偶然の事故によって墓から解放されたヤツは、タマタマ事故見物に立ち寄った日本人旅行者のサカイ氏に憑依したのデス。」
シビレをきらしたように卜部が口を開いた「で、何者なのです?その滝壷から甦った悪霊というのは??」
「最凶・最悪のソンザイ、『暗黒世界のナポレオン』の悪霊デス。」
そこまで喋ってメアリーが言葉を切ると、引き継ぐように児玉が言った。
「ヤツは……悪の天才、ジェームス・モリアティー!」


101 :G!×G!×G!:2006/07/06(木) 07:31:20
29.
ジェームス・モリアティ。
アインシュタインに匹敵するとも凌駕するとも言われた天才数学者であり、同時に全ヨーロッパと南北アメリカ大陸に渡る大犯罪組織の首魁であった男。
彼の組織はシャーロック・ホームズと兄マイクロフト・ホームズらの活躍で壊滅させられたが、モリアティー自身は逮捕の手を免れ、スイスの山奥までシャーロック・ホームズを追跡。
ラインヘンバッハの滝の上でホームズに一対一の対決を挑むが敗れ、滝壷へと姿を消した。
ホームズ曰く「暗黒世界のナポレオン」。
その男が、悪霊となって返ってきたのである。

卜部が、バン!と机を平手で叩き言った。
「あの代議士狂乱事件を引き起こしたのもヤツだったのか。それをゴジラ霊の仕業ということにしてリバーサーの使用許可をとった。」
「アタシは最初からその証人に選ばれてたッスね。」岡田は泣き顔だった。「アタシ、『悪霊は海ほたるの方から来た』なんてことまで言っちゃったッス。」
児玉は泣きじゃくる岡田の肩に手をかけた。
「泣くな。モリアティーはシャーロック・ホームズと互角の頭脳を持つ天才犯罪者なんだ。オマエが騙されたって仕方ないさ。」
「でも……でも……。」
それでも泣き止まない岡田の顔を、児玉は両手で上向かせて言った。
「起きてしまったことを振り返るな。いま一番問題なのは……ゴジラ霊を手駒に使って、モリアテイーが何をしようとしているのかってことなんだ。」
そのとき、モニターで地上の様子を監視していた職員が振り返って叫んだ。
「卜部(うらべ)副長!ゴジラの上陸を阻止するため、自衛隊が防衛出動してきました!」


102 :G!×G!×G!:2006/07/06(木) 07:34:26
30.
「卜部(うらべ)副長!上陸したゴジラに対し、自衛隊が防衛出動してきました!」
霊安室本部のモニタースクリーンには白く朧に見えるゴジラ霊の姿が映し出されている。
テレビ局では「白いゴジラ」をまさか「霊」とは思わず、「アルビノ・ゴジラ」と呼んでいた。

《 みなさん見てください!空自の精鋭部隊がアルビノ・ゴジラに襲い掛かります!1954年の上陸では、我が国にはゴジラに対抗できる兵器はありませんでした。しかし、今は……》

翼を翻し降下すると、空自の戦闘機隊は次々とミサイルを発射…………しない!?
「あたりまえだ。」半ば吐き捨てるように児玉は言った。「……どうやって幽霊をロックオンするっていうんだよ。」
「それよりマズイぞ!」卜部が立ち上がった。
ゴジラのセビレが青白く輝きだしたのだ。

《 ゴ……ラの………レが青白…光り……ま………。………………では熱線を………前…れ 》

「電波状態が悪くなっタ?」メアリーが眉を寄せると、岡田が言った「違うッス!……これは霊障ッス。」
音声だけではない。画像も大きく乱れはじめた。
「まてよ、おい!霊障で電波が乱れるなら……。」児玉も思わず立ち上がった。
「障壁を最大域で展開せよ!!!」大声で指示を出す卜部!
「了解です!」誰かが応えるのと同時に、ゴジラの体から何かが放たれた!

《 ひぃぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! 》

実況のアナウンサーが絶叫した!
ズタズタになった中継画像では、戦闘機が異様な軌跡を描いて飛び、空中衝突や墜落を繰り返す!
最後の瞬間横転したカメラは、目鼻から血を噴出した男の顔を大写しにしたのを最後にぷっつり途絶えてしまった。


103 :G!×G!×G!:2006/07/06(木) 07:36:45
31.
負の霊的エネルギーによって発生する各種障害。
それが《霊障》である。
具体的な作用は人の死亡や発狂から機械類の誤作動にいたるまで様々だが、最悪の霊障は……。

「障壁展開、ギリギリ間に合ったか。」
「卜部さん、『障壁』って、なんのことです?」児玉が尋ねた。
一瞬躊躇しているようだったが……、腹を括ったか卜部はとんでもないことを話しはじめた。
「靖国神社はもちろんご存知ですね?児玉さんも含め一般人はあそこを戦没者慰霊目的のただの神社だと思っているのでしょうが……。」
「違うのですか?卜部さん。」
「違います。確かにもともとは戊辰戦争の戦没者を慰霊する目的で創建された神社です。しかし、真珠湾攻撃の一ヶ月ほど前、新たな目的が追加されたのです。」
「その『新たな目的』とは?」記者の目で問いただす児玉。
「………米英が霊的兵器を使用してきた場合に備えた、霊的防御システムです。」
「はぁ?霊的兵器!?霊的防御システム???」児玉の目がリアルに点になった。
「そうです、日本国のため命を投げ出した英霊の魂を源とし、帝都全体を霊障壁の傘で覆い護る。それが靖国神社のもうひとつの役目なのです。」
「Oh!ヤスクニ・バリヤーね!」
東洋志向が強いのか素直に関心するメアリーと、それとは対照的に呆れ顔の児玉。
卜部はもちろん真顔のままだが……。
だが「これでとりあえずは安心」というムードは、小型モニターで障壁の展開状況をモニターしていた職員の一声でコナゴナにうち砕かれてしまった。
「副長!障壁が東京全体をカバーできていません!」
卜部の顔色が変わった。「なんだと!?どこが障壁からはみ出しているのだ!?」
「このエリアです!」
モニター画面に東京全図が映し出され、そこに重ねて円が表示された。
「円からはみ出してる部分って随分あるッスよ!」騒ぐ岡田!
「そうか!」児玉が叫んだ。「ヤスクニ・バリヤーは戦争中の東京をカバーするように作られてるんだろ?だから戦後埋め立てなんかで拡大したエリアはカバーされていないんだ!」
「しまった!」卜部が呻いた。「それでは最悪の霊障が発生してしまう!」
まさにそのとき!予想された最悪の報告が飛び込んで来た。
「シオドメ・エリアに死霊発生!」「新橋で死体が立ち上がったそうです!」


104 :G!×G!×G!:2006/07/06(木) 07:39:59
32.
死霊や「歩く死者」の徘徊。それが最悪の霊障である。
つまり、「類は友を呼ぶ」のだ。強大な死霊の徘徊は、他の死霊を呼び寄せるのである。
ヤスクニ・バリヤー=靖国の霊障壁からはみ出した戦後の埋立地で次々と死者が立ち上がり、あるいは死霊が荒れ狂い始めた。
死霊は実体が無いので陸自や警察の装備する火器ではダメージを与えることが出来ないが、悪霊である以上靖国の霊障壁を越えられない。
一方『歩く死者』とはいわゆるゾンビであり、陸自の装備する銃火器でもダメージを与えられるが、そのかわり靖国の霊障壁を越えてしまう!
卜部の指示により、「障壁」起動に必要な最低限の人員のみ霊安室に残し、他は霊障の酷い地域に展開して陸自や警官と協力、死霊や「歩く死者」に対抗して住民避難をサポートすることとなる。
だが……。

「ゴジラはどうすんだ?」児玉が言った。「死霊やゾンビを発生させてんのはゴジラなんだろ!?ゾンビや死霊を何体かたづけたってきりがねえぞ!?」
「なんか方法無いッスか!?卜部さん!」
ゴジラは凄まじい勢いで、前面に展開した霊障壁に挑みかかっていた。
モニターに表示された障壁カバーエリアの一部が大きく押し込まれると、地下の何処からか聞こえてくる祈りの声が勢いを増してゴジラを押し返す。
一進一退の攻防だが、果たして何時まで保つのか……。
ゴジラが霊障壁を破れば、霊障は一気に都内全域に及ぶだろう。
「ゴジラをなんとかする方法はないのかよ!?」
苦しそうに黙り込んでいた卜部であったが……やがておもむろに口を開いた。
「方法はある。極めて危険な方法だが。」


105 :G!×G!×G!:2006/07/06(木) 12:22:55
33.
「岡田さん。アナタなら知っているでしょう。イザナミ神とイザナギ神がどうやって子供を生み出したかを。」
イザナミ、イザナギは「天の御柱」の周りを互いに回り、出会ったところで互いに声を掛け合って子の神々や日本の島々を産んだという。
「あれと同じです。男女が同一地点から出発して東京湾の周囲を終点目指して一方は右に、他方は左にまわる。終点では女が先に、男が後に通過するのです……。」
「あれ?それって逆じゃないッスか?」さすがに岡田は知っていた。「女神であるイザナミが先に声をかけたんで失敗して……。」
「そう、骨が無いとも言われるヒルコ神が生まれました。つまりワザと女性が先に終点を抜けることで、ゴジラの悪霊をヒルコ神のように解体するのです。」
現在の事態になる以前から、ゴジラ霊の怒りを鎮めるため、卜部ら霊安室は東京湾のグルリに一種の霊場を設けていた。
その霊場を利用して悪霊解体の儀式を行おうというのである!
「そんな方法があったッスね!さっそく実行に移すッスよ!」
「待て岡田。……卜部さん、さっきアナタはこの儀式を極めて危険な方法だと言ったな?いったい何がそんなに危険なんだ??」


106 :G!×G!×G!:2006/07/06(木) 12:26:27
33-2.
厳しい顔で児玉は尋ねた。
「待て岡田。……卜部さん、さっきアナタはこの儀式を極めて危険な方法だと言ったな?いったい何がそんなに危険なんだ??」
「……それは……。」
悪霊解体の儀式。その危険性とは……。
「まず第一に、霊障壁内では車を使えても、霊障発生エリアでは機械は機能しなくなるから自分の体力で移動しなければならない。
第二に、霊障発生エリアでは多数発生した死霊や『歩く死者』の中を抜けていかなくてはならない。」
第三に、「終点」はゴジラ霊が最初に呼び出された術式の場所でなければならないので、『海ほたる』とせざるを得ない。
そして最後に……ワタシの部下は住民避難の援護と霊障壁の展開で手一杯、この儀式に割ける人員は無い。つまり、儀式を実行するなら……。」ここで卜部は大きく間をおいた。「……実行するなら、ここにいる4人でやるしかない。以上だ。」
卜部は話を終えたが、しかし誰も口を開かない。
死霊やゾンビの群れをかわして東京湾を半周し、ゴジラの出現でところどころ崩壊している東京湾アクアラインを抜けて「海ほたる」まで辿り着かなければならない。
その途方も無い困難さが皆の口を塞いでしまっていたのだ。

数秒以上も続いた沈黙を破ったのは、さきほどから障壁の展開状況をモニターしていた職員の言葉だった。
「アナタの言うとおり……これは確かに変ですね……。」



107 :G!×G!×G!:2006/07/06(木) 12:29:09
34.
皆が気付くと、モニター担当の横にメアリーが立って画面を覗き込んでいた。
「……やっぱり狂いが出てルノね。」
「一体何が狂っているというんだ!?」
「ああミスター・ウラベ、都内と近郊各県にヤスクニ・バリヤーの展開エリアも被せて表示してたカラ、GPS機能もアルんじゃないかと思ったのヨ。そうしたら………。」
霊安室職員が困惑顔であとを受けた。「……この数分間の間にもどんどんデーターが狂ってきてるんです。」
「狂ってきてるだと!」
「そうよミスター・ウラベ。普通は何万年かの周期で起ルような地軸のブレが、数分のあいだに起ってルの。」
そしてメアリーは児玉に向かって言った。
「『我に支点を与えよ。さすれば……』あとに続く言葉、知ってる?」
「知ってるさ。『我に支点を与えよ。さすれば地球を動かしてみせよう』。」児玉の言葉が不意に止った。「…そう言えば……酒井社長、モリアティーがそんなこと喚いてたよな。それからさっきの……」
「地軸のぶれッス!それって現に地球が動いてるってことッスよね!?」
「キーワードは…」メアリーは指折りしながらあげていった。「…ゴジラ、支点、動き出した地球……。そしてその解答は……。」
突然児玉が叫んだ。「わかったぞ!!答えはモリアティーが生前著した論文!タイトルはたしか………そうだ!『小惑星の力学』だ!」
「正解よ。あの論文はモリアティーの死後、革命的な内容にも関わらず英国の学会によって闇へと葬られたノ。イマでは『ネクロノミコン』以上の禁書ヨ。何故だと思ウ?」
メアリーは児玉を除く二人、卜部と岡田の顔を順に眺め渡した。
「禁書とされた理由は……書かれた内容がトンデモナイものだったからヨ。……表面上はたしかに『小惑星の力学』を扱っていたワ。でも、その背後で本当に論じていたのは……。一個の惑星を小惑星レベルにまで破壊し尽くす方法の論考だっタノヨ!」
まるで戦いの女神のようにメアリーは雄々しく立ち上がった。
「あの論文を執筆したころモリアティーはマダ普通の人間ダッタ。だから地球破壊も空想してたダケ。でもいまヤツは悪霊なの!死んでるの!だから、生きていたころデキナカッタことを、実行しようとしてるの!そのための『支点』が、ゴジラ霊なのヨ!?」


108 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 07:46:39
35
「こうなる前になんとかモリアティーを滅ぼしたかったのだけど……。」
そう言いながら、メアリーは傘に偽装した空気銃をテーブルの上に置いた。
「モーラン大佐が使ったのと同じタイプの銃だな。だが、こんなもので悪霊が……。」
「弾頭に十字架が刻み込んでアルの。だからキリスト教圏の悪霊なら倒せるはずだったけど……もう弾が……」
その瞬間、関東一円を震度5強の自身が襲った!
地軸の急激なブレ、そして地震の発生は、モリアティーが既に「地球破壊のテコ」を動かし始めた証拠だった!
一刻も早くゴジラの霊を消滅させなければ、地球はアステロイドベルトに変わり果ててしまう!
もう躊躇しているひまは無い。
4人は卜部とメアリーの組、そして児玉と岡田の組に分かれ、東京湾の北端からそれぞれ自転車で「海ほたる」を目指すことになった。
卜部とメアリーの組は西側から、児玉と岡田の組は東側からそれぞれ「海ほたる」を目指す。
ただし、霊場の通過はメアリー→児玉か岡田→卜部の順番でなければならない。
順番を間違うと、霊解体の儀式は失敗してしまうのだ。

「まず全員このスーツを装着してくれ。」
それはスーツというより一種の戦闘服だった。
両胸と両腰にたっぷりしたポケットがあり、突起物に引っ掛けないような細部デザインになっていた。
これで迷彩柄だったら間違いなく戦闘服なのだが……。
児玉とメアリーが相次いで素っ頓狂な声を上げた。「なんだ!?この柄は???」「Oh!ジャパニーズ・ユカータ!」
スーツの柄は、一面の経文だった。
「浴衣ではない。浴衣ではないぞ、メアリー。これは『エイチ・オー・ワン型特殊作業服』といって、装着した人間の姿を霊障から守り、更に死霊には見えなくする効力をもっているのだ。」
「エイチ・オー・ワン………HO1、要するに『耳なしホーイチ』ってことッスね。」
「いやそれはあくまで偶然であって……。」
……こうして卜部、児玉、メアリー、岡田の4人は「ホーイチ・スーツ」に身を固め霊安室本部を出発した。
一方は西に、他方は東に。
行けるところまでは軽四輪駆動車で進み、霊障エリアの直前で積み込んで来た自転車に乗り換えると、地球の命運を賭けたツーリングの始まりだ。


109 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 07:48:25
36.
*……駄文的にはここからはアクションが増えるのだが、書きだすとキリが無さそうなのでさっと流す。
それぞれの組は、霊能者であり見霊能力のある岡田と卜部を先頭に霊障エリアを突破して行く。
霊障の少ない東コースには戦闘能力の低い岡田と児玉が回った。
一方危険のより大きい西コースは卜部とメアリーが進む。
死霊に出会えばホーイチ・スーツの法力でかわし、ゾンビに出会えばスピードで振り切るが……、途中避け難い小競り合いの最中、卜部が傷を負ってしまう。
ホーイチ・スーツは死霊の視覚を遮るが、生き血の臭いは遮らない!
流れたばかりの血の臭いを死霊たちに感づかれ、卜部とメアリの組は次第に死霊を振り切れなくなっていく……。

一方、霊安室の本部にも訪問者があった。
侵入者を避けるため動力を切ってあるハズのエレベーターが降下して……中から酒井社長ことモリアティーが姿を表した。
自分が死霊であることを卜部や守矢の目からも隠し遂せたほどのバケモノにとって、霊安室本部への侵入など容易いことだったのだ。
「なるほど、ここでバリヤーを張ってるわけか……。」
悠然と歩き出すモリアティーに次々挑みかかる霊安室職員たちは片っ端から返り討ちとなり、血の海に沈んでゆく。
やがて動く者が自分自身以外はいなくなると、モリアティーはおもむろに手を振りかざした。
たちまちいたるところから炎が巻き起こる!
パイロキネシスだ。
霊安室本部が炎に包まれたのを見届けると、モリアティーは悠然と立ち去っていった。
靖国の霊障壁が消滅したことにより、ゴジラ霊の前進を妨げるものはなくなった!
同時に、ゴジラ霊の霊障領域が一気に内陸へと拡大する!

霊安室地下本部に残されたのは……血と炎、そして無念の死を遂げた霊安室職員たちの亡骸。
壁や天井にまで飛び散った鮮血の雫に炎が怪しく照り映える。
そしてやはり血にまみれた祭壇が炎に包まれたとき、周囲の炎の色が紅から紫へと一変した!


110 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 07:49:38
37.
一方、卜部とメアリはついに死霊の群れに捕捉されてしまっていた。
突然の霊障壁消滅により新たに発生した死霊の群れと遭遇してしまったのだ。
前には新手の死霊、後ろからはこれまで追跡してきた死霊。
完全な挟み撃ちである。
生き血の臭いの主を求めて徘徊する死霊の輪は、次第に卜部とメアリに迫ってくる。
「靖国の障壁が破られたということは本部が襲撃を受けたということだ。」
「つまりはワタシたちが最後の希望ってワケね?だったらモタモタしてないで一かバチか強行突破にチャレンジしてみない?」
「いや、それよりもっと確実な方法がある。」言うが早いか、卜部は自分のホーイチ・スーツを引き破った!
「オレが襲われているあいだに、オマエ独りで行けーーっ!」叫びながら卜部は死霊とゾンビの中へ、メアリーからはできるだけ離れたところへ駆け出した!
たちまち死霊とゾンビが卜部へと殺到……………しない?
死霊もゾンビも何故か、触覚のとれたアリのように呆けた脈絡の無い動きをするだけなのだ。
「ミ、ミスター・ウラベ!」
振り返るとメアリーもなんとその場から動いていない!
「バカものめ!何故さっさと……。」
だが卜部の叱責など耳に入らぬ様子で、メアリーは夜空を指差した。
「ナンなの!あの百人一首に出てくるミタイなヤツは?」


111 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 07:51:54
38.
(ん?ゾンビどもの動きが変だ!?)
児玉がそう思ったときだった。
それまで快調に走っていた岡田が短く「あっ!」っと叫んで自転車を止めた。
「おい!止るな岡田!ゾンビどもに囲まれるぞ?」
だが岡田は、言葉では答えずに東京湾の彼方を指差した。
児玉の目にも。闇のなか青白い炎の渦と紫の炎の渦が睨み合うように燃え盛るのが見えた。
「……青白い炎はゴジラ霊だが……紫のは……いったいなんだ?」

「なんだコイツは?」霊安室を強襲したモリアティーは、廃墟と化したサカイエンタープライズ本社ビルからそれを見上げていた。
「………どうやらワタシと同じく死霊のようだが、こんなヤツがこの国にいたとは…………。そうかヤツは霊安室が封じていた怨霊だな。たしか『日本最大の祟り神』とかいう……。」

東京上陸寸前のところでゴジラ霊の前進が止まっていた。
ゴジラの前方100メートルほどの虚空に忽然と漂い現れた存在によって行く手を阻まれたのだ。
紫の鬼火が無数に飛び交う中、悠然と宙に浮かぶその姿はまさに雅な「百人一首」!
ただゴジラに匹敵するほど身の丈がある。
そしてその顔は……凶相が刻み込まれたおぞましい死霊にほかならない

「あれは、まさか……まさか……」
搾り出すようにそこまで言うと、卜部は座り込んでしまった。
「……崇徳上皇さまが甦ってしまわれた。」


112 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 07:55:37
39.
霊安室本部が破壊されてしまったため、鎮撫されていた「祟り神」崇徳上皇が解き放たれてしまったのだ。
ゴジラと崇徳上皇という二大悪霊の猛威により、東京は地獄と成り果てるのか?
だが!?
上皇の指から紫の雷撃が迸り、ゴジラ霊を攻撃したのだ。
ゴジラもこれに応戦して熱線を吐くが上皇は瞬間移動でこれを回避。
出現と同時に再び雷撃を放つ!
「祟り神などと言いながら、何故ワタシの邪魔をするのだぁ!?」吠えるモリアティー。
瞬間移動、分身、融合、鬼火を操っての全方位攻撃!
攻撃の多彩さで崇徳上皇はゴジラを次第に東京湾内へと押し返して行く!

「祟り神の上皇さまが、怨念を捨て民草のために戦ってくださる!ゴジラの悪霊と!民のために!国のために!」祈るような姿勢で叫ぶ卜部。

祟り神対破壊神の戦いは霊障現象にも激しい混乱を巻き起こした。
死霊は目標を見失ない、ゾンビはオコリにでも罹ったように痙攣して動けない。
「すごいッス。崇徳院さまがゴジラを押し返してるッス!ゾンビや死霊が動けないのも院のお力ッス!」
「おい……その……崇徳上皇がゴジラを湾内に押し返してるってんだな?」
「そうッス。」
「………そりゃマズイぞ!上皇とゴジラの戦場が湾内深くに移動したら、アクアラインにも影響が及ぶかもしれん!」
「げ!?まじッスか?」
「アクアラインが崩落したら、ゴジラ霊解体の儀式は成立しなくなるぞ!」
児玉と岡田はこれまでに増したスピードで自転車をぶっ飛ばした!
急げ!「海ほたる」へ!!

一方、卜部とメアリーも動きのおかしくなった死霊とゾンビの囲みを突破して自転車を疾駆させていた。
新橋、品川、大森、蒲田を駆け抜け玉川も一気に突破すると、もうそこは川崎。
アクアラインの一方の端はもうすぐだった。
たが、祟り神と破壊神の戦いもアクアラインと「海ほたる」のすぐそこに迫っていた。


113 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 08:00:44
40.
児玉と岡田はついにアクアラインへと自転車を乗り入れた。
行く手では大海蛇がのたうつように紫の雷撃が海面を走り、それと交差するように熱線が飛んでいる。
雷撃の何条かがアクアラインを跨いだ向こう側に落ちた!
大波がときおり橋の上にまで達するのだろう、路面が海水をかぶっている!
「岡田!気をつけろ!橋から弾き出されたらアウトだぞ!」
「わかって……」
その瞬間、関東一円を再び地震が見舞った!!
アクアラインがリボンのように波うち、安定を奪われた岡田と児玉の自転車は乗り手を荒馬のように放り出した!
「岡田っ!」猛スピードで転がる岡田の腕を児玉が間一髪のところで捕まえた。
なんとか立ち上がってみると、猛スピードで道路わきに叩きつけられた岡田の自転車はフレームまで曲がってしまっており、もう乗ることはできない。
一見無事のような児玉の自転車も、よく見ればチェーンが切れてしまっていた。
「もうすぐそこだから」と二人は自転車を諦め、「海ほたる」への最後の距離を徒歩で突破することにした。



114 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 08:02:31
40−2
児玉と岡田が「海ほたる」のすぐそこまで辿り着いていたころ、祟り神対破壊神の対決にも変化が生じていた。
ゴジラのパワーが崇徳上皇のワザを上回り始めたのだ。
いかに強大であろうとも上皇は人間の霊。
一方ゴジラはもともと強大な怪物であり、さらにスーパー・リバーサーによるパワーチャージも受けている。
パワーの総量が違うのだ。
ドオーーーーーン!!
火柱を上げ、海に落ちる上皇!ついにゴジラの熱線が上皇を捉えた!
体制を立て直し再び舞い上がる上皇だが、そのまわりに2発3発と続けざまに熱線が着弾する!
上皇も鬼火による全方位攻撃で反撃するが、ゴジラは攻撃の手を休めない!
ゴジラの吐いた何発目かの熱線がついに川崎側の橋脚をかすめると、その一瞬後、地震で脆くなっていた橋はガラガラと崩れ落ちてしまった!

「しまった!向こう側のルートが無くなった!?」「卜部さんたち、もうこっち側に渡って来てるッスか?!」
「海ほたる」へと駆け込む児玉と岡田。
不安な思いで辺りを見回せば……。
手直しされた駐車場の真中に一組の男女が立っている。
「あっ!大丈夫ッス!先に着いてるッス!卜部さぁーーん!メアリー、どうしたッスかーー??」手を振る岡田。
「ほぉ…………お客さんか。」
……モリアティーが振り返った。


115 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 08:04:38
41.
「しっかりしろメアリー!」
小柄な卜部だが腕は鉄筋入りらしく、破壊個所にぶら下がっていたメアリーを軽々と引き上げた。
「ありがと、ミスター・ウラベ。」
橋が崩れ落ちる寸前、卜部とメアリーは決死のジャンプを試みたのだ。
「なんの。もし東ルートを通った岡田くんの身に何かがあれば、キミが最初に『終点』を通らねばならないんだからな。」
やはり自転車を失った二人は、徒歩で「海ほたる」を目指すが……。
「観戦するなら貴賓席でと思ってここに降りたのだが、……相次ぐ思わぬお客さんだな。」
そこで待っているのはモリアティー。しかも「終点」のすぐ近くに立っている!
少し離れた場所に倒れているのは児玉。
「終点」通過を試みてやられたのだろう。
そしてそれを庇うように岡田がいた。

上皇とゴジラの対決は決定的にゴジラ優位の状況となっていた。
上皇さえ仕留めてしまえば、ゴジラの前に立ちはだかるものはいない。
なんとしてもゴジラが上皇を倒す前に、霊解体の儀式を完成させてゴジラ霊を滅ぼさねば!
だが、「海ほたる」にある「終点」にはモリアティーがいる!
ギシギシという橋脚の軋み音が地殻の身動きを間接的に伝え、もう夜明け近いはずなのに空は暗闇に閉ざされたままだ。
大気層にすら変動が及んでいるのか、熱帯地方に降るスコールのような土砂降の雨が突然「海ほたる」を襲った。
「暗黒世界のナポレオン」の野望達成はすぐそこに迫っていた。


116 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 12:10:40
42.
「モリアティーっ!!」
いきなり卜部が前に飛び出した!
「とおおおおおおおっ!」
密教修行の成果、助走無しで10メートル近くの距離をひとっ飛びして一気に距離を詰める!
右手には破魔の御札、左手には儀式用の木剣!
木剣がモリアティーの右鎖骨のあたりに深々と柄まで突き刺さった。
「滅びよ!悪霊!!」
だが、破魔札を振りかざした右手は、モリアティーにがっきと捉えられた。
「くず紙なら、チリガミ交換にでも出したらどうだ?」
卜部の腕を掴んだモリアティーの手が青白く光った!
パーーーーーーン!という乾いた音とともに卜部の体が弾けて飛ぶ!
モリアティーの注意が卜部に集中したと見えた瞬間、こんどはメアリーが空気銃を棍棒のように振りかぶって突進したが、この行動も完全に読まれていた。
振り下ろした空気銃をきれいにかわされてメアリーの体が泳いだところを衝撃波が襲った!
「ぐうっ!」卜部とは反対の方向に吹き飛ばされるメアリー。
メアリーをかたづけると、モリアティーは体に突き刺さった木剣をおもむろに引き抜いた。
「この体は借り物でねえ……返さなきゃならないんだ。もっとも持主のサカイとかいうヤツはとっくに死んでるんだがね。なぜってワタシが殺したからなんだが……。……こんなにしちゃって、どうしてくれるんだよ?」
世間話のような口調でそんなことを言いながら、モリアティーは指先から続けざまに電撃を放った。
そのたび、卜部の体がコメツキムシのように弾け飛ぶ。
「……やれやれこれでこっちは片付いた。あっちの方もようやく片付きそうだな。」
モリアティーがゴジラと上皇の戦いを肩越しに振り返ったスキに、岡田は卜部に駆け寄った。
「卜部さん!」
岡田が駆け寄ってみると、卜部は既に虫の息だった。
苦しい息の下、搾り出すように卜部は言った。
「岡田……さん、頼みが…ある。」


117 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 12:12:43
43.
視界がどんどんと暗くなってゆく。
卜部には、すぐそこで自分を見下ろしているはずの岡田の顔すら見ることができない。
死は……すぐそこに迫っていた。
だが、彼は死など恐れていなかった。
いや、むしろ死を望んでいたのだ。
(虎は一日で千里をゆくが………人が一日千里を行かんとすれば……)
自分にできる、最後のことをするために……。

ゴジラと崇徳上皇の激突もモリアティーの存在も忘れ、岡田は全身全霊をもって卜部に頼まれた「儀式」を執り行った。
人の耳には聞こえぬ詠を冷たくなってゆく卜部の耳へと囁き聞かす。
それは死霊送りの邪法。相手のもとに死霊をおくることで呪殺するという、法螺貝一族に伝わる邪法だ。
すると……呼吸のとまった卜部の体から、小さなホタルのような光が矢のように飛びだした。
かすかな光は一瞬のうちに千里の距離を越え、西へ、西へ……西の海へと飛び込んだ……。
そしてその数秒後……。
突如ゴゴゴゴゴという海鳴りが始まったかと思うと、大海原を真っ二つに切り裂いて回転する炎の輪が飛び出した!



118 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 12:15:48
44.
東京湾でのゴジラ対崇徳上皇の対決は終盤に差し掛かっていた。
ゴジラが熱線を連続発射!
最初の一発は瞬間移動でかわし、次の一発は念力で軌道を捻じ曲げたが、三発目の熱線が上皇に命中。
さらに四発目、五発目、六発目が続けざまに命中した。
上皇が雷撃で反撃するが、ゴジラも更に熱線放射!
雷撃と熱線が至近距離で正面衝突し大爆発!
上皇は大きく後ろに吹き飛ばされ海へと落ちるが、ゴジラはただの一歩も退がらない!
海中に落ちながらもなんとか体勢を立て直した上皇めがけ、ゴジラは最大級の熱線放射を身構え……。
だが、ゴジラが熱線を吐くより一瞬早く……
ドゴーーーーーーン!!
……何処からか飛来した紅蓮の火球が、唸りを上げてゴジラに炸裂した。

「ン?また邪魔者だと!今度はいったい何者だ!?」
モリアティーの見上げる空から、雲を抜け回転する炎の輪が飛び込んで来た!
「オカダ!あれは……イッタイなに!?」
「あれはギャオスの大群と差し違えになったガメラの霊ッス。死んだ卜部さんが、呼びに行ってくれたッス。」

ゴジラをけん制するようにプラズマ火球を数発連射すると、ガメラは盾になるように崇徳上皇の前に降下。
紅蓮の霊火をまとった姿をあらわした。



119 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 12:17:29
45.
「あんなのがまだいたのか……。だが来るのが遅かったな。」モリアティーは冷たい哄笑を放った。
「もっと早く来ておれば、2対1で我がゴジラと戦えたものを。今ごろのこのこ出て来ても、ストクインはもう戦力にはならん。ははははは。」
高笑いするモリアティー。
「ガメラとやらの単独では我がゴジラには勝てぬ!霊力が違うのだ。見よ!さっきの火球も直撃したが全く堪えておらぬわ!」
霊力の違い。それは誰の目にも明らかだった。
青白く光るゴジラの姿は輪郭もハッキリしているのに対し、赤く燃えるガメラの姿はボンヤリしているのだ。
「今ごろ出てきても、ワタシの作業が少しばかり遅れるだけ……。」
モリアティーの言葉が驚きで止まった。
ガメラの後ろでよろめくように立ち上がった崇徳院の体が、砂絵が崩れるように流れ出したかと思うと、前に立つガメラの体に流れ込み始めたのだ。
姿がどんどんぼやけていく崇徳院。
反対にガメラの姿はどんどんはっきりと明確になっていく!
「崇徳院さまが、ご自分の最後の霊力をガメラにチャージしてるんス。」岡田がモリアテイーに言い返した。
「上皇様は決戦の命運をガメラに託したッス!」
「リバーサーでチャージされたゴジラ霊」!対「崇徳院の霊力をチャージされたガメラ霊」!
二大霊獣による史上最大の心霊戦が始まった!


120 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 12:20:00
46.
ガメラとゴジラの霊獣激突のまさに足元で……。
「海ほたる」の駐車場に横たわった児玉は、つい数分前から地鳴りが止っていることに気づいていた。最後の大激変の前触れにちがいない。
そして、卜部とメアリーの一見自暴自棄な特攻の意味にも気づいていた。空振りした攻撃の瞬間、メアリーは「終点」を通過したのだ。
(問題は………最後の瞬間が来る前に、オレが「終点」を抜けられるか?……だ。)
児玉はモリアティーから見えない側になっている腕にそっと力を入れてみた。
そのとたん駆け抜ける激痛を必死でかみ殺す。
これで立って歩いたりしたららどれほどの激痛がやって来るか、見当もつかない。
(けど、選択の余地は無しか……。がんばれ!オレ!痛くてもがんばれ!!)

(ガメラは強い。あるいはゴジラを倒せるかも……。でもそれでは間に合わない!)
メアリーも本能的に気づいていた。
破滅の時はもうすぐそこまで来ているということに。
(破滅の時が来る前に、「終点」前に陣取るモリアティーを排除し、コダマに「終点」を抜けさせなければ。)
児玉がかすかに腕を動かすのは、メアリーの側からは見えていた。
(ジョーコーはガメラに全てを託しタ。だからワタシも……コダマに全てを託そう。)
メアリーは決心した。
(最後のカードをきってヤル!)
吹き飛ばされたとき破損した空気銃を杖代わりに、よろめきながら立ち上がると、大望成就を確信する悪霊に向かって叫んだ!
「モリアティー!!!」

121 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 12:21:46
47.
「はははははは、勝った、勝った!ワタシはワタシ以外の全てに対して勝利したぞ!ふはははははははは!」
体を左右に揺すりながら狂ったように哄笑するモリアティーの悪霊。
「神が創造したというこの世界を、ワタシは宇宙のチリへと変える。つまりワタシは、神にも勝ったということだ。ははははははは。」
そのときモリアティーの狂気の哄笑をも上回る絶叫が「海のほたる」に響きわたった!
「モリアティーーーーーっ!!」
悪霊が振り返ると……女狩人のように力強く、あるいはダンサーのように優美にメアリー・アドラーが立っていた。
「……いま自分以外の『すべてに対して勝利した』と言っタナ!?ウソをつくな!オマエは明らかに敗北者じゃないカ!」
「この私が敗北者だと?」《敗北》という言葉を耳にしたとたん、モリアティーの体の揺れがピタッと止った。
「いったい誰に私が負けたと……」
「(ヤツに考える時間を与えるな!)しらばっくれるツモリでもそうはいかないゾ!」メアリーはすぐさま言い返した。
「…ワタシはチャンと知ってるんダ!オマエは敗北した!あの名探偵シャーロック・ホームズとの戦イデ!」
メアリーの口からシャーロック・ホームズの名が出たとき、一瞬だけモリアティーの顔が呆けた老人のような顔に変わった。
「た、たしかにあのシャーロック・ホームズだけはワタシに勝った……、だがそれとて今のこの状況を考えれば、終局における勝者はこのワタシ……。」
「終局における勝者ナンテ詭弁だ!オマエは負ケタ!そして負けたことを認めたくナイからそんなロジックでごまかしてるんダ。」
「ワ、ワタシは負けてなどおらん!」見せかけの余裕をかなぐり捨て、モリアティーが叫んだ。
「ワタシは誰にも負けぬ。何故ならワタシが天才だから……。」
憑かれたように叫ぶモリアティー。だが、それを更に上回る大きな声でメアリーが絶叫した!
「オマエなんか、ヒイオジイチャンに負けたじゃないカーっ!!」


122 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 12:23:18
47−2
「オマエなんか、ヒイオジイチャンに負けたじゃないカーっ!!」
まさに《最後の一撃》を受け、モリアティーの言葉がぴたりと止った。
「私はメアリー・アドラー!ヒイオバアチャンはアイリーネ・アドラー、そしてヒイオジイチャンはオマエに勝ったシャーロック・ホームズだ!!」
一瞬の沈黙のあと………モリアティーの怒り、憎しみ、恥辱といった負の感情が一気に爆発した!
「ぬぁんだとぉぉおおおお!!」
モリアティーの顔が憎悪で真っ黒に染まる。
「キサマがあのホームズの子孫だとぉ!」
「そうだ!シャーロック・ホームズはワタシのヒイオジイチャンだ!オマエに勝ったヒイオジイチャンだ!!」
「…………ぎ、ぎぃいいいいいいいいいいいっ!ヤツの代わりに、このツメで引き裂いてやるぅっ!!」
モリアティーが一瞬で人の姿をかなぐり捨て、憎悪・悪意そして狂気を体現する「汚泥のような何か」へと一変、メアリーめがけ奔流となって襲いかかった!
だがこの瞬間を待っていた男がいた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」意味を成さない雄叫びをあげ跳ね起きると、激痛の塊と化した体にムチ打って児玉は猛然と走り出した。
(な、なにをやる気だ!?)危険を察したモリアティーが向きを変えた!
だがもう遅い!!
モリアティーが戻るよりも一瞬早く、児玉は「海ほたる」に設けられた「終点」を駆け抜けた!


123 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 15:08:12
48.
「儀式が成ったッス!!」岡田が叫んだ!
児玉が「終点」を駆け抜けた瞬間、闇に沈んだ東京湾の向こう、児玉やメアリーたちが出発した「始点」のあたりに光の柱が立ち現れた。
そして更にもう光の柱がもう二本、一本は最初の柱の東に、もう一本は西に立ち上がる!
東京湾を取囲むように、西と東から次々たち現れる光の柱。
それが東西から「海ほたる」に迫るのを見て、モリアティーはその意味を直ちに見破った!
「ゴジラよ!アクアラインを踏み越えて南に出よ!」
「えっ!?アタシたちの通った輪の外に出られたら、儀式が不成立になっちゃうッス!」
「ゴ、ゴジラを止める方法ハ!?なんかナイの?!」
「無いっ!そんなもん無いっ!!」
ゴジラの足がアクアラインの橋脚を蹴り折った!
「出、出しちゃだめッス!」
アクアラインを踏み越えたゴジラの足が、再びアクアラインの北側に踏み戻る!
ガメラがゴジラの尾を掴んで引き戻したのだ!
「邪魔をするな!い、急げゴジラ!」叫ぶモリアティー。
アクアラインのギリギリ北側でゴジラとガメラが争い、ゴジラの体がアクアラインの線上を南北に往復!
外に出ようとするゴジラ、出すまいとするガメラ。
ついにアクアラインの東西の両端に光の柱が立った。あとは、ここだ!
「は、早く!早く出よ!」モリアティーが焦って叫んだそのとき!
(チャンスだ!ヤツはゴジラしか見ていない!)
児玉は最後の力を振り絞ってモリアティーを、自分がさっき通り抜けだばかりの場所、「終点」に向かって突き飛ばした!
「な、なにいっ!?」
モリアティーが終点に立ったその瞬間、最後の光の柱が出現!
「ぎえおおおおおおおおおおおっ!」
光の柱に飲まれたモリアティーの悪霊は、まるで熱湯をかけられたツララのように消滅した!


124 :G!×G!×G!:2006/07/07(金) 15:11:00
49.
最後の光の柱が「海ほたる」に出現するのと同時に、光の柱を繋ぐように東京湾全周ぐるりを取り囲む光の壁が出現!
光の壁の向こうでゴジラ霊とガメラ霊の争いは続いているが、その音は何故か全く聞こえない!
不意に光の輪の中で争っているゴジラとガメラの姿がブレだした。
次第に色を失い、形を失い……意味をも失い……。
放送終了後のテレビに流れる「砂の嵐」のようになっていく。
「霊の解体ッス!ゴジラ霊の解体はガメラ霊も巻き込んで……でもガメラはゴジラを掴まえて話さないッス!」
ゴジラとガメラの姿が消えた後も「砂の嵐」は数分ほど続き………やがて光の柱が一本、また一本と光を失い消えていった……。
光の柱が消えるに従って砂の嵐も静まり始め……、入れ代わりに戻って来た。
波の音が、潮風の香りが、海鳥たちが、そして……黒雲退いて……。
「……朝日だ。なんとか間に合ったみたいだな。」児玉が呟いた。
「死者の支配する時間は終わったッス。ほら、あそこに……。」岡田が指さす方ではカモメが一羽、翼を広げ「海ほたる」へと舞い降りてくるところだった。
「カモメも帰ってきてくれたッスね。でもゴジラやガメラは……、それから上皇様は……。」
「ワカンナイわよ。」メアリーが岡田の肩をそっと抱いた。「……クサバのカゲから見守ってくれてるんじゃないかしラ?ミスター・ウラベといっしょに……。」
「………そうあってほしいもんだな。」

*画面は讃岐の白峰神社に飛ぶ。開いたままだった社殿が音もなく閉まったところでエンディング。

「破壊神×守護神×祟り神(ゴッド!×ゴッド!×ゴッド!)」
お し ま い


125 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/07/07(金) 15:17:04
駄文作者のあとがき

名探偵シャーロック・ホームズが唯一愛した女性であるため、「実はアドラーはホームズの身近にいた」とする説は昔からありました。
有名な説だと「ハドソン婦人=アドラー説」。
これはアドラーの登場する「ボヘミアの醜聞」でだけ、ホームズが下宿している下宿屋の女主人の名前が違っていることを根拠とする。
それからホームズの相棒であるワトソン博士についても「鳥目説」だの様々な説があるが、有名なものとしては「ワトソン博士=女性」説
がある。
これはワトソン婦人であるメアリーが作中で夫を「ジェームス」と読んだことを根拠としている。
ワトソン博士のファースト・ネームは「ジェームス」ではなく「ジョン」なのだ。
これによりメアリー婦人を架空の存在と推理して内縁関係にある女性の存在がバレないようにするため、カモフラージュ目的で「ワトソンという男」にしたと推理する。
さらに以上二つの説の結合説として「ワトソン博士=アドラー」説も登場する。
この説だと「ボヘミアの醜聞」にアドラーとワトソンが両方出てくるのは、別人であると見せかけるためのインチキであると解釈する。
なんといってもホームズものの作者はワトソンなので、インチキはしたい放題なのだ(笑い)。
…と、いうわけで本駄文に登場する「シャーロック・ホームズの曾孫」の名前がメアリー・アドラーなのは「ワトソン=アドラー」説に基づいているからです。
とんでもないスレ違い、まことに申し訳ない。

それから駄文の最後に登場する社殿が京都ではなく讃岐であるのは、「崇徳上皇が恨みを捨てた」という意味です。
上皇の恨みは都を追放されたことですから、「あくまで都にこだわり恨みを捨てない」ならば、上皇は京都に帰るはず。
でも自分の死んだ讃岐に帰ったということは………という意味のつもりでした。



126 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/07/08(土) 12:24:38
GMKもオカルト風な味付けがされてたけど、ゴジラ、ガメラが霊体として描かれた点は
新鮮でした。物語終盤のゴジラ・ガメラの姿は、禁断の惑星のイドの怪物とダブったけ
ど、多少意識されてたのでしょうか?
次回作も期待してます。

ガメ男さんや他の皆さんも、ボチボチ充電が終わった頃では?

127 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/07/08(土) 19:32:12
同じ書き手なのに今までと違って信じられないくらいすごく読みやすくなってる。
散漫に飛びやすいストーリーをもう少しガメラとゴジラに絞ってみると
かなり読み応えもでてくるんじゃないかなって
やっぱり期待してしまいまーす。


128 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/07/10(月) 07:46:35
>>126
もともと私は「特撮板」から流れてきた者なので、「禁断の惑星」はもちろん頭にありました。
で、「禁断の惑星」に今回の駄文の絵を当てはめてみると……「ゴジラ」「ガメラ」「崇徳上皇」と霊体が三体も登場するため視覚的に判り難いということがわかりました。
そこで識別し易いよう「ゴジラ=青白」「ガメラ=赤」「上皇=紫」としました。
ただ、最も強く念頭にあった作品はR・マシスンの「ヘルハウス」です。
「リバーサー」関係や最後にメアリーがモリアティーを挑発するくだりが強く影響を受けてますね。
>>127
いままでは「掲示板」であることを意識して、それに相応しい文体を模索しながら書いていたんですが、今回は余計なことは考えず普通に書きました。
やっぱり普通に書いたほうが読みやすかったですか(笑)。


129 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/07/10(月) 12:36:35
「G!×G!×G!」の投下が終了したので、前段に当たる駄文をこっちにも投下しておくべし。
ガメラが出ないのでココには投下しなかったが、いまなら関連性が判るでしょう…。
と、いうわけで……。

130 :「海ほたるでの降霊会」(再録):2006/07/10(月) 12:39:38
「あれが東京湾アクアラインのサービスエリア。通称『うみホタル』だ。」
「サービスエリアじゃなくてパーキングエリアでしょ?」
「どっか違うのぉ??」
「法律上サービスエリアはね……。」
4人しか乗っていない車の中は、団体旅行みたいに騒がしかった。
わいわい五月蝿いのはいつものことだが、今日は運転席の後ろからバリバリいう音もひっきりなしに聞こえてくる。
僕らは××大学の心霊現象研究会+1だ。
ハンドルを握る僕の名は寺井。そしてサービスエリアだかパーキングエリアのことで混ぜっ返した理屈っぽい男は清水。 その違いを尋ねた山本は当会唯一の女性会員。
そして今日は「+1」。僕のすぐ後ろの席で絶え間なく何かしら食べつづけている怪女=清水のやつがバイト先で知り合った霊感女もついてきていた。
僕たちの目指す先は「うみホタル」。
目的は、そこで降霊会を開くこと。
そう、あれは三日前の昼だった。
……
「東京湾は、東京が生みだした『あらゆるもの』のふきだめだ。」
「それを言うなら『ふきだめ』じゃなく『吹き溜まり』でしょ??」
「それとも『掃き溜め』と言いたかったのか?」
些細な言い間違いだったが、すかさず山本さんと清水が突っ込んで来た。
まあいつものことだ。
「だ、だから僕の言いたいことはだ!」机をバンと叩いて僕は立ち上がった。「…東京湾は霊障現象の吹き溜まりに違いないってことだ!」
いつもの無駄話ならそこまでのはずだったが…今回はそれだけでは終らなかった。
「あのさ、バイト先で知り合ったんだけどね………。」
清水の知り合いの霊感女、それが法螺貝しのぶだった。
代々霊感が強く、イタコや霊媒、神社の巫女さんなどを輩出した家系の女という触れ込みだった。
昔から「名は体を表す」と言う。
「しのぶ」という名前にちょっとだけそそられたが……。
実際会って見たら、「体」を表していたのは「法螺貝(ほらがい)」の方だった。



131 :「海ほたるでの降霊会」:2006/07/10(月) 12:41:52
「言っとくけど、この輪っかの中から出ちゃダメだかんね!」
海ホタルの駐車スペースのなるべく目立たない隅っこで、僕らは小さな車座になって座っていた。
周りには法螺貝さんがチョークを使い、奇妙な紋様の連なりから成る「輪」を描いてある。
そして輪の中心には何本かの蝋燭と護符。
彼女はその輪の中から出るなと言っているのだ。
「……そんじゃ始めるわよ。」
厳かにそう宣言すると、法螺貝さんは太平肥満の体をブルブルッと揺さぶった。
そして精神統一………。
髪型と体型のせいで頭部と胴体の区別が判然としない法螺貝さんが、半眼を開いて地べたに腰を降ろした姿は、まるで巨大な「蟾蜍の女王」のようだ。
「……のな……ごが…ごが……のな……ごがごが、ふ…ふしゅうううぅ………。」
言葉というより呻き声のようなものが法螺貝さんの口から漏れ出し、潮風に乗って夜の海を渡っていく……。
精神統一のためギュッと閉じていた瞼をこっそり開けてみたら、キョロキョロしていた山本さんの視線とぶつかってしまった。
ズルしたのを母親に見咎められたときのような気がして、慌てて目を閉じる。
だが、肝心なことは判った。
僕だけではないのだ。
空気の中に異様な気配を感じ取っているのは……。

「まずい!人が来た!」
儀式が始まって数分ほどたったころ、小さな声で寺井が叫んだ。 さっきの僕と同じく、アイツも薄目を開けていたに違いない。 目を開けるとたしかに人影がやって来る。
(見つかったらヤバイな!)
だが、慌てて立ち上がろうとした僕たちを、法螺貝さんは鋭く叱責した。
「動かないでっ!よく見なさい!」
「え?…よく見ろって……。」
よく見ろと、言われて初めて気がついた。
髪型が…、いやそれだけじゃない。服装から何からみんな変だ。
やって来たのはボロを纏い髪も髯も茫々に伸びた、垢だらけの男だった。しかも、その足元には?!
山本さんが小さく叫んだ。「影がないっ!」
「……判ったでしょ?霊よ。いいから皆、座りなさい。」


132 :「海ほたるでの降霊会」:2006/07/10(月) 12:43:42
東京湾は確かに「霊の吹き溜まり」であった。
ボロを纏った霊の出現が皮切りで、それからは一気だったのだ。
様々な時代、様々な姿の霊が、何十、いや何百と物影からまろび出た。
それが痩せこけた手を差し伸べて、僕らが車座になっている方へとヨタヨタとやって来る。
清水が小さな声で「ひいっ!」と悲鳴を上げた。 僕と手を繋いだ山本さんの手も震えている。
「恐がらなくてもいいわよ。ヤツラはアタシが描いたこの輪の中には入って来れないから。」
僕らの動揺を鎮めるように、落ち着き払った声で法螺貝さんは続けた。
「……降霊儀式の型も崩れてないから、どうしても危ないようなら、霊界に追い帰せばいいの。」
法螺貝さんのその言葉で、僕らが少し落ち着きを取り戻しかけたたときだ。
「きゃああああああああああああああっ!!!」
駐車場の向こうで、鋭い悲鳴があがった。
「しまった!」
悲鳴を耳にして真っ先に叫んだのは、今度は法螺貝さんだった。
「きっと霊が他の人に襲い掛かったのよ!」
「そうか!」つづいて僕も叫んだ。「……ボクたちは法螺貝さんの輪で守られてるけど、他の人たちは!」
別の方でもう一声、さらにもう一声と悲鳴が続いた。
「……早く悪霊たちを追い返してください!」と清水も叫ぶ。
言われるまでもなく、法螺貝さんは両手で印を結ぶとくぐもった声で呪文の詠唱を始めていた。
再び呪文が潮風を渡り始めると、悪霊たちは潮が退くように退散していった。
もう駐車場には悪霊の姿は無い……。
だが……。
「お、おわったの?」
「いや、まだだよ山本さん。」
僕は強張る人差し指で中天を指差した。
星空を背に、大きな、とてつもなく大きな黒い影があった。そしてその中に朧な光点がふたあつ、じっと海ホタルを見下ろしている。
清水が呻ように呟いた。
「コイツも……霊?」
「そのはず……よ。」と法螺貝さん。
だが、影の巨大さと描き出すシルエットは明らかに人間のものではない。
「こんなバケモノが、いるはずは……。」そこまで口にしたところで、僕は思い出した。
こんなバケモノがいたことを!


133 :「海ほたるでの降霊会」:2006/07/10(月) 12:44:53
あれは1957年。
僕がまだ生まれていないどころか、僕の父さんと母さんが出会ってすらいなかったころのことだ。
水爆実験の影響で目を覚ました一匹の怪物が東京に上陸。辺り一面を紅蓮の焦熱地獄へと変えたすえ、いまも原理がよく判っていない化学兵器で倒された。
その場所が東京湾だ!
「アイツだ!アイツが呼び出されてしまったんだ!!」
「アイツ!?アイツって何よぉ??」と山本さんが叫んだ。
清水は……清水はボクと同じ存在に思い当たったに違いない。
棒でも飲んだみたいに突っ立って、「ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴジ……」と繰り返し続けている。
「なんでよ!定式どおりに追い帰してるのに、なんであの霊は帰らないの!?」法螺貝さんが目の玉をひん剥いて叫んだ。
「なんで!帰らない……。」
「無駄です。」僕が答えて言った。「……アレは、元々ボクたち人間の手におえるもんじゃなかった。だからたとえ悪霊になったとしても……。」
そのとき!巨大な影が、一声吠えた。
同時に、僕らの車座の中央に立てられた蝋燭の火が一斉に消え、逆に護符は燃え上がり、周りに描かれた「輪」は見る見る彩りを失っていく!
儀式は破られたのだ。
力づくで。
全てが破られたいま、僕らは、そして、電飾煌めく東京も、ヤツの前に裸同然だった。

再び、怪獣王の悪霊は夜空に咆哮を解き放った。
……朗々と。
49年間の呪いを込めて……。


お し ま い


134 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/07/11(火) 07:43:13
しかし随分書いたものだな。
第一スレの途中で乱入してからこっち投下した駄文は……
「ゴジラ×ガメラ×ギララ」「並行世界の怪獣王」「ゴジラvsガメラvsメカゴジラ(産軍共同体)」
「童謡・ゴジ・ガメの争い」「いかすぞガメラ」「ビンタ」「シャドウズ」
「トリノへの道/地球代表トーナメント編」「弔問に来た客」「トリノへの道/本戦トーナメント編(未完}」
「再生の日」「『ソラリスの日のもとに』のもとに」「G!×G!×G!」「海ほたるでの降霊会(再録)」
いま構成中なのがなんと15作目(笑)。
昼休ぐらいしか使わんでよう書いたものだ。

135 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/02(水) 14:20:56
期待age

136 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/04(金) 07:59:26
特撮板に投下予定の駄文を構成中のためちょっとタンマ。
ちなみにこっちに投下予定の駄文タイトルは「ゴーレム」ね。

137 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/04(金) 15:48:51
「太古のむかし地球を支配した存在は、星の配列が変わったため、そのまま在り続けることができなくなったんだそうです。」
「クトゥルー神話ですね。……でも、それが何か??」

人類発祥の地アフリカ。
悪夢はそこから甦った。

地下深く眠りつづけてきた古代遺跡。
「これは………王の墓だ。」
そして王たちのミイラ総てに共通する奇妙な特徴。
「妙だな……」「……なにがですか?」「このミイラには……すべて小指が無い。」
王墓深くに隠されたなぞの物体。
「これはいったい……」「王たちが死した後も護りつづけようとしたものだ。王は王であると同時に番人たらんとも欲したのだよ。」

再び大量発生した怪獣ギャオス!
そしてガメラ出現!
だが………!?
「なんで!?なんでガメラが!??」
一方同時刻、ロスアンゼルスにゴジラが上陸!
地球の怒りか?人類を粛清するかの如く荒れ狂う怪獣たち。

だが、本当の敵は………。
……「ゴーレム」
近日?投下予定。


138 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/06(日) 17:19:05
楽しみっす!

139 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/17(木) 20:50:06
ゴジラ対ガメラで四神ネタって良くあるけど
真ん中の黄竜にギドラを添えた作品ってあんまり見ないね。

140 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/08/21(月) 12:40:19
もう随分前だがこの第一スレに、東宝系怪獣しか存在しない「ゴジラ世界」と大映系怪獣しか存在しない「ガメラ世界」があって、並行する二つの世界が急接近した結果ゴジラとガメラが対決するっていう駄文を投下したことがあった。
あれで並行する二つの世界が何故接近したのかという問題があって……。
二つの世界から追放された「悪魔」が狭間の世界でじっと辛抱強く待っている。
ゴジラとガメラはそのトビラの番人であり鍵でもある。
だから二匹がある限り「悪魔」はどちらの世界にも入って来られない。
だが「悪魔」はとても狡猾だった。
「自分が二つの世界に入っていけないなら、世界の方を自分の側に引き寄せてしまえばいい。」
……ってなわけで引力光線を用いて二つの世界を引き寄せた。
二つの世界を衝突させ、狭間の世界を消滅させるために。
この「悪魔」の設定が「頭が八つあるキングギドラ」(笑)。
結局この形では、駄文は完成しなかったのだけれども……。


141 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/19(火) 00:49:54
もう一ヶ月もレスがないのかここ

142 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/28(木) 20:29:40
保守

143 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/09/30(土) 22:02:50
ゴジラとガメラは体重が違いすぎるとか、クロスオーバーは結構難しいキガス

144 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/16(月) 01:17:25
バーチャルなゴジラとリアルなガメラの差かも 
でも、ここの脚本家はそれを見事に融合させてるからすごいですよ。 




145 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/10/16(月) 17:55:50
ゴジラ復活はいつなんだろうね・・・

146 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/11/05(日) 01:30:12
いつまでもお待ちしております。

147 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/11/16(木) 12:45:09
保守

148 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/11/27(月) 11:04:53
この前「ガメラ トト」をDVDで初めて見ました。
子供向けの作りでしたね。あれはあれでいいんでしょうけどね・・・
平成3部作が良すぎたせいか何か物足りない印象を受けました。
子供たちは感銘を受けたのでしょうかね・・・
何も怪獣物で作る必要があったのかな・・と。
日本の特撮(怪獣)物もこのままでは韓国に抜かれますね・・

149 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/11/27(月) 16:04:30
ガメラの正統な続編は是非見たいが、『地球生態系の守護者』というポジションとそれに対する人間の認識のギャップ&ギャオスを初めとする敵の存在。
という基本設定だけでは遠からず息切れもするだろうし、ジャンプ漫画のように『強さのインフレ』を起こして飽きられてしまう恐れがある。
三作で完結(?)したのはそれを見越した英断だったかも知れないが、あと三作くらい『絶対強者』の登場を暗示させて三話完結の物語として製作するとか、或いはガメラが人類の敵に回るような可能性を秘めた話でも作ってみて欲しい。

150 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/11/27(月) 21:57:43
いいっすね、それ。ロードオブザリングのようにto be continueで
ガメラ3部作にしちゃう。その絶対強者こそもう一匹のG…。

151 :さわりだけ:2006/11/28(火) 08:26:01
忙しすぎて完成するのを待ってたら年が明けそうだ。
……忘れたワケじゃないと言う意味でサワリだけ投下。

深夜鳴り響くサイレン。
しかし都市は灯火管制に入るどころかなおいっそうその耀きを増し、さらに5本・10本と超高性能サーチライトの光柱も立ち上がってゆく。
窓辺で女が言った「綺麗……ですね。」
「その目的を考えなきゃね。…さ、危ないから窓から離れて。」
光柱が夜空を蠢き、上空に一瞬何かの影を浮かび上がらせた。
「10メートルくらいのヤツだな。あれぐらいの成長度合いなら、まだ光を嫌うから街までは降りて来られないはずだ。」
ぱぱっと閃光をあげて曳光弾が空に撃ち上げられると、サーチライトに追われていた影は身を翻して飛び去った。
「防空部隊の連中、この半年のあいだに随分上手くなったな。ヤツラが都市上空に入ってくると強力サーチライトで牽制しながら曳光弾で上空に追い上げる。そうすると……。」
東からやって来た轟音がゴオオオオオオオオッ!と夜空を横切りった!
「……ナイトイーグル隊だ。」


152 :さわりだけ:2006/11/28(火) 08:30:21
東からやって来た轟音がゴオオオオオオオオッ!と夜空を横切った!
「……ナイトイーグル隊だ。」
轟音はドップラー効果により低音へと変化し、そのまま夜戦隊は西の彼方へと消えた。
「やっつけられるの?」
「判らないな。小さいヤツでないとイーグル隊じゃ落せない。でも小さいヤツはすばしっこいからね。」
「大きいのが来たら?」
「大きいヤツは遠くからでもレーダーで捕捉できるから、そのときは……。」
「……地下室に逃げるのね。」
でも、地下室に逃れたところで、大型ギャオスの殺人音波なら普通のコンクリート製地下室などワケなく貫くだろう。
(逃げ場は無いのね……)女は足もとに散らばったニュース原稿に目を落とした。
そこには「新型インフルエンザ猛威止らず!ワクチン効果無し!」という見出しが躍っていた。
人間社会は内側から新型インフルエンザ、外からはギャオスという二重の脅威の前に、崩壊の危機に瀕していた
(……あそこよ。きっとあそこから総てが始まったんだわ。)
危険な窓辺から離れようともせず、彼女は闇を見降ろしていた。そうだ。あの夜も、彼女はこのように闇を見降ろしたのだ。

女の視界の彼方、遥かな西に連なる山々のそのまた向こうに、火の玉となって何かが落ちた。
落ちたのはイーグルか?それともギャオスなのか?
二人のいる放送局のビルからは全く判らなかった。

*闇夜に燃え上がる炎の中にタイトル出現
「 エ ニ グ マ 」(*ゴーレムを改題)

153 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/11/29(水) 00:49:33
未完成だったら私も載せられるんだけどね・・・

154 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/11/29(水) 00:50:50
×未完成だったら
○未完成でよければ

155 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/06(水) 17:20:19
SSじゃなくても怪獣の考察とかはOK?

例えば・・・

GMKゴジは太平洋戦争で死んだ怨念の集合体とされているけど
所詮は人間の集まりなんだから集まっても人の形にしかならないはず。
やはりあの形になったのは被爆して突然変異した恐竜の憎しみに同調して
怨念体が合体した結果ではないのかと考える。
だからあのゴジラは血も出るし心臓があるのではないだろうか。

みたいなね。

156 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/07(木) 18:33:27
>>155 いいんじゃないかな。それを誰かがヒントにストーリーでも
舞台設定でも何でも繋がっていけばいいし。

157 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/08(金) 02:33:05
>>152 

面白そうね  

158 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/13(水) 20:09:09
まとめサイトとかないの?

159 :嫁は無慈悲な夜の女王:2006/12/14(木) 00:26:46
ガメ男氏の個人HPならある。
氏の2作目が加筆訂正されてあるけど、他にガメラやゴジラ関係のコンテンツはない。
ttp://hw001.gate01.com/mogehi/
彼はどうやらアマチュアミュージシャンみたいです。

160 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/23(土) 16:53:19
ここで書いてる脚本家三人は凄く良い味出してます。 
プロ以上って感じですね。 




161 :ガメ男:2006/12/24(日) 02:39:52
ありゃ、久しぶりに覗いたら私のHPが晒されてる・・・
デスノスレからばれたかなw
まぁ、NET上にHP公開してる時点で誰に知られようと文句は言えませんが・・・ちょっとびっくりしました。

私も来年になったら何か駄文を書くかもしれません。
今年は30日まで仕事です・・・orz

メリークリスマス&良いお年を。

162 :A級戦犯:2006/12/27(水) 08:08:57
やっぱり越年したか……。
でも最大の問題に解決がつけられた。
あるオーパーツの移動と、多大な犠牲を強いられるにもかかわらず敢えてそれを使用する動機が描けた。
これが描けなかったら駄文以下だったから……。
悪夢を抜けた先に明るい展望を描ける見込み。

と、いうわけでよいお年を。

163 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/29(金) 01:24:36
みなさん、あたらしいストーリーを楽しみにしています。 

164 :名無しは無慈悲な夜の女王:2006/12/30(土) 03:28:32
考えれば考えるほど正反対だよなゴジラとガメラって
対立する理由を考えるのに全然困らない

165 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/01/02(火) 18:42:51
同時に存在したら必然的に戦うだろう。

166 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/01/09(火) 00:43:31
帯に怪獣とSFの融合って書いてある本売ってたから、読んでみた。
未来獣ヴァイブってやつ。
俺には合わなかったようで、全然意味分からなかったしつまらなかった。
自分の読解力の無さが恨めしい…。

167 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/01/09(火) 08:54:47
最近バカでかい長編ばっかりになってるが、べつにここは小説投下スレじゃないよな?
昔みたいな他愛も無い一発ネタとかはダメなんか?

168 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/01/09(火) 12:21:29
いいんじゃないの?たまたまそういうタイプの書き手がいなかっただけだと思うし。
(いや、俺が仕切っちゃいかんのかもしれんけど)。

169 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/01/23(火) 07:34:50
う〜む、2ch最後の日?までに完成投下できなかったか。
ちょっと凝りすぎた。
残念。

170 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/02/04(日) 22:51:25
今まで投下された作品のまとめサイトは無いのか?

171 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/02/04(日) 23:30:51
ないんじゃない?
誰か作れ。

172 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/02/06(火) 00:38:45
軍板に投下した物に手を加えて

わが部隊はもうギャオスを戦う力は残っていない。30分以上戦闘を続けて数え切れないギャオスを
撃ち落したが、味方の損害も大きい。同期の駆るイーグルに離脱許可が下りて三沢に向かう。かなりの
損傷だ。エンジンが1基死んでいる。
ギャオスの群れは傷ついたイーグル目掛けて襲い掛かってきた。なんて奴らだ。弱ってる内に叩くという
知恵をつけている。戦友目掛けて超音波メスを撃たんとするギャオスにバルカン砲を40発ほど叩き込む。
そいつは散り散りになって落下していった。

先の戦いでミサイルは使い果たしてしまった。迫り来るギャオスをバルカンで追い払うが数が多い。
うかうかしていると護衛機まで超音波メスの餌食になりそうだ。俺たちは必死にイーグルに襲い掛かるギャオスに
弾をぶち込む。燃えない戦闘機イーグルほどタフではない。しかし、弾は残り二百発余り…ギャオスは
何匹いるのか見当も付かない。
不意に真後ろ6時からギャオスの突撃を受ける。ブレーク。ギャオスの翼端がキャノピーをかすめる。
こっちの機首をかじり取るつもりだったようだ。命拾いをしたと思った瞬間、同期のイーグルから離れて
しまった事に気付く。
見ると彼の背後から新手のギャオスが接近し超音波メスが背景を歪めて蛇の舌のように狙っている。
機体を直して奴を照準の真中に持っていかなくては・・・機動性に優れるF15の旋回性能さえも苛立つほど
遅く感じる。ギャオスが大きく口を開ける。間に合わない!
同期の死を覚悟した瞬間、ギャオスは炎を上げて爆発し、バラバラになった。無線から叫び声
「ガメラだ!」

173 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/02/06(火) 01:46:51
ふとゴジラで検索して辿り着いて、
>>159を読ませて頂きました。
これの他に2作もあるって?
ぜひ読みたす

174 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/02/19(月) 17:21:53
テーマ上のヤマと構成上のヤマ、双方とも突破。
あと必要なのはエンディングに持ち込むクソ力だけ(笑)。
総レス数は散々カットしても100以下には納まらず、過去14駄文のうちで最大最凶の一本がまもなく完成(笑)。

やれやれ

175 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 07:57:27
1−1.夜を見つめて
深夜鳴り響くサイレン。
しかし都市は灯火管制に入るどころかなおいっそうその耀きを増し、さらに5本・10本と超高性能サーチライトの光柱も立ち上がってゆく。
窓辺で女が言った「綺麗……ですね。」
友の残した大学ノートから目を上げて男は促した「その目的を考えなきゃな。…危ないからさっさと窓から離れろ。」
光柱が夜空を蠢き、一瞬何かの影を浮かび上がらせた。
「10メートルくらいのヤツだな。あれぐらいの成長度合いなら、まだ光を嫌うから街までは降りて来られないはずだ。」
ぱぱっと閃光をあげて曳光弾が空に撃ち上げられると、サーチライトに追われていた影は身を翻して飛び去った。
「防空部隊の連中、この何ヶ月かのあいだに随分上手くなったな。ヤツラが都市上空に入ってくると強力サーチライトで牽制しながら曳光弾で上空に追い上げる。そうすると……。」
東からやって来た轟音がゴオオオオオオオオッ!と夜空を横切った!
「……ナイトイーグル隊だ。」
轟音はたちまちのうちに低音へと変化し、そのまま夜戦隊は西の彼方へと消えた。


176 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 07:59:03
1-2.
「やっつけられるでしょうか?」
「判らないな。小さいヤツでないとイーグルじゃ落せない。でも小さいヤツはすばしっこいからね。」
「大きいのが来たら?」
「大きいヤツは遠くからでもレーダーで捕捉できるから、そのときは……。」
「……地下室に逃げるんですね。」
でも、地下室に逃れたところで大型ギャオスの殺人音波なら普通のコンクリート製地下室などワケなく貫くだろう。
(逃げ場は無いのね……)女は足もとに散らばった古いニュース原稿に目を落とした。
そこには「新型インフルエンザ猛威止らず!ワクチン効果無し!」という見出しが躍っていた。
人間社会は内側から新型インフルエンザ、外からはギャオスという二重の脅威の前に、崩壊の危機に瀕していた
(……あそこよ。きっとあそこから総てが始まったんだわ。)
危険な窓辺から離れようともせず、彼女は闇を見降ろしていた。そうだ。あの夜も、彼女はこのように闇を見降ろしたのだ。

女の視界の彼方、遥かな西に連なる山々のそのまた向こうに、火の玉となって何かが落ちた。
落ちたのはイーグルか?それともギャオスなのか?
二人のいる放送局のビルからは全く判らなかった。

* 闇夜に燃え上がる炎の中にタイトル出現
「 エ ニ グ マ 」


177 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:00:22
2−1.暗黒大陸
……それは、わずか半年前のことだった……

「……こ、これは……。」そう言ったきり、男は息を呑んだ。
断崖の縁に立つ男の足もとには、円筒状の「大穴」がボッカリ口を開いていた。
底は、窪地の内部に鬱蒼と茂った草木のせいでよく見えないが、たぶん数十メートルは下だろう。
「プロデューサー。」後ろで双眼鏡を覗いていたズングリした体型の男が言った。「ざっと見渡したところでは…ほぼ真円。つまりは伝説のようだね。」
「プロデューサーって呼ぶのは止めてくれよ藤田先生。大塚でいい。」
「じゃあアンタも俺を『先生』づけで呼ぶのを止めてくれ。」
「うししし!」そのとき下品な笑いとともに、絵に描いたようにオタク然とした小男が藪を分けて姿を現した。
「……いやあ凄いですね。岩肌に掴まるところが一つも無い。これではヤモリでもない限り登れませんな。」
断崖に立つ男はディレクターの大塚、ずんぐり体型の男は文化人類学の藤田、下品な小男は生物学者の万石そして……。
「あの……これから降りるんですか?その……下に?」
崖っぷちからたっぷり10メートル以上離れたところに、痩せた長身にショートカットの小さな丸顔が乗った若い女、レポーター役の小川が立っていた。
彼女は本来裏方なのだが、大学で考古学専攻だったのが買われて参加していた。
「いや、今日は降りないよ。降りるには簡易リフトを設置する必要があるが、もういい加減遅くなってるからね。」
そう言いながら大塚が指さした太陽は、すでに西の密林に傾きかけていた。
「今日はここでキャンプする。降りるのは明日以降だ。」
現地雇用のスタッフたちがキャンプ設営の準備を始めていたのだろう。背後の開闢地から、地面に杭を打ち込むカンカンという音が聞こえてきた。



178 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:02:24
2−2.
大塚、藤田、小川、そして万石と大勢のスタッフたち。
彼らは、10月の番組改編期に流す予定のネイチャー系スペシャル番組の撮影チームだった。
人類の旅路を逆に辿って南米アマゾンから北米大陸・アラスカ・中国・東南アジアと巡り来た彼らは、黒い大陸アフリカで奇妙な伝説と出くわしたのだった。
その伝説とは……。

「密林の奥地に、巨大な落とし穴のような窪地があり、今は滅びてしまったある部族が護っていた。」
「あるとき悪い白人がやって来てその部族から窪地のことを聞き出すと、部族の者たちを皆殺しにして窪地へと向かった。」
「神の怒りにふれたか?それとも悪神に魅入られたのか?悪い白人たちは、それきり二度と、戻って来なかった。」

いかにもな感のある作り話と思われたが、とある村の古老が「悪い白人の名前」を覚えていたところから、様相が一変した。


179 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:04:58
2−3.
「カァネルバナーウォレスだって!?大塚さん!その爺さんは本当にそう言ったのか!?」
「…確かにそう言った。それより藤田先生、あんた、その名前心当たりあるのか?」
「……ああ……バーナード・ゴードン・ウォレス大佐。昔パキスタンで遺跡発掘してたときに聞いたことがある。……とんでもないクソ野郎さ。100年以上たっても名前が覚えられてるくらいにな。」
藤田の聞いた話によると、ウォレス大佐とその手下は、英国陸軍大佐の身分を隠れ蓑にして現在のインド、パキスタン、アフガニスタン、バングラディシュ一帯で、強盗・殺人・強姦・恐喝・阿片販売と悪事の限りを尽くしたのだという。
「僕の専門畑で奴が絡んでくるのは盗掘さ。」顔を顰めて藤田は言った。「副葬品漁りで遺跡や墳墓をメチャクチャにした挙句、買い手がつくなら埋まってた死体まで売っ払ったんだと。」
「でも、ちょっと待ってくれよ。帰って来なかった『悪い白人たち』がウォレス大佐の一味だったとするなら……、伝説の窪地ってのも実在するんじゃないかな?」大塚の口調が急に熱を帯びてきた。
「宝探しでもしようっていうんですか?うししししし。」
「そうですよ、万石先生。そのウォレス大佐が藤田先生の言うような男なら、何も無いところにノコノコ出かけたとは思えないじゃないですか!」
「うぅむ……」腕組みをして藤田も言った。「……確かに有り得ない話じゃないですね。」

そして彼らは探索の果てにとうとう伝説の大穴を見つけ出したのだった。



180 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:06:12
3.人影
キャンプの設営が終ったところで太陽は西の森へと沈み、そして月の晧晧と明るい夜がやってきた。
ジャングルを抜ける強行軍とそれに続くキャンプの設営作業に疲れ果てた男たちがボロ雑巾のようになって眠っているなか、小川は一人起き上がると、月明かりを頼りに大穴の縁へと歩いていった。
(もうすぐこの中に降りるのね。………なんか嫌だな。)
彼女は、実は最初からこの「大穴」が気に入らなかった。
猛獣が入れられた檻?それとも落ちたら出られぬ落とし穴?……ともかくそんなものを上から覗き込んでいるような、そんな気がしてしようがなかったのである。
覗き込んだ大穴の底は、半分には月の光が行き渡っていたが、残る半分は穴の縁が落す半円形の影の中に沈んでいた。
(…あれれっ?)
光と影のちょうど境のあたりに、「それ」は立っていた。
二本の足で立つ影、それはゴリラやチンパンジーではなく明らかに人間だった。
光と影の境に立って、黒い彫像のようにじっと動かない。
ただ黒いシルエットだけで顔も視線も見えないにも関わらず、小川は「あれはこっちを見ている」と絶対的に確信した。
(でも、だれが?どうやって穴の底に??)
それを確かめようとしてか?小川は足を踏み出した。
(……あんな穴の底にいったい誰が?)
……そう思いながら更に一歩踏み出したとき、月の光でもを反射したのか?足もとの何かが不意に緑の光を放ち、その拍子に小川はハッと我に返った。
気がつくと、彼女の足は既に大穴の縁ギリギリのところまで達していた!?
(もう一歩を踏み出していたら、今ごろ……!)
そう考えると両膝がガクガク震えだし、小川はその場にへたりこんでしまった。
それでも人一倍好奇心が強い彼女は、今度は這うようにしてもう一度大穴の底を怖る怖る覗き込んでみた。

恐々覗き込んだ大穴の底に、人影はもう見えなかった。


181 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:11:13
4−1.闇の底へ
40メートル以上ある絶壁を下って来た小川の乗るリフトを、興奮に上ずる声が迎えた。
「いやすごいね!まさに大穴だよここは!」と大塚。
「さてと……。伝説のとおり『大穴』はありました。あとは……」努めて冷静さを装いながら藤田が言った。「……姿を消した探検隊と謎の財宝です。」
リフトから身軽に飛び降りると、小川は大穴の底から上の世界をぐるりと見上げ、思わず呟いた。
「大穴……なんてもんじゃないですね。」
「ワタシと同じことを考えてるみたいですね、小川さん。」不意に万石が笑顔で話しかけてきた。
「うししし……周囲は傾斜角ほぼ90度の岸壁。しかも最下部は100度前後、つまり垂直以上のオーバーハングになっています。
岩は硬く、手掛かりになるところも無し。おまけに岸壁に沿った部分には刈り取ったように木が生えていないから、樹木の枝伝いに登り降りするのも不可能。これでは単に『大穴』というより『落とし穴』か……『牢獄』と言ったほうが相応しいでしょうな。」
出っ歯を突き出して万石は笑った。
「牢獄?」
その言葉の持つ暗い響きが、小川に昨夜見た人影のことを思い出させた。
昼の光の中では「寝ぼけたすえの幻」と思えていたものが、この大穴の底ではリアリティを備えて甦ってくる。
(牢獄………それじゃあ昨日の夜の人影は……囚人?)
彼女の背筋を冷たいものが走った瞬間、辺りを探っていたスタッフの一人が大声をあげた。
「ちょっと来てください!こんなところに洞窟があります!」

182 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:13:29
4−2.
「…こりゃ自然にできた洞窟じゃないぞ。」洞窟を覗き込みながら大塚が呟いた。
驚いたように藤田も続けた。「酷く磨耗して入るが……階段らしきものが残ってる。間違いなく人工のものだ。」
「とすれば、この奥に何かあるのは確実というわけだな。……………よし!入ってみよう!!」
「お、おい待てよ!大塚さん!!」
藤田の止めるのも聞かず、大塚は懐中電灯を片手にズンズン洞窟内へと踏み込んでいった。

洞窟の内部は、岩壁を削り込んだ道具の跡がそこここに残っており明らかに人工のものだったが、最後に人の手が加わったのはかなり前であると察せられた。
懐中電灯で足もとを調べていた藤田が言った。
「中央部分の一番低くなったところだけゴミやホコリが拭き取られたように無くなってるよ。雨でも降ると水が流れるんじゃないかな?」
「でも『大穴』の底には池は無かったですけど…。」小川が不安げに言葉を返した。
「……底まで降りればわかるさ。」
大塚は再び歩き出した。
下降はそれから30分以上も続き……気がつくと一行は、それまでとは違う空間に立っていた。


183 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:33:44
4−3.
天井の高さは変わらないが左右方向に空間が広くなっており、あちらこちらに岩が柱として掘り残されて低い天井を支えている。
その光景は日比谷あたりの大きな地下鉄駅の構内を思わせた。
先頭を進んでいた大塚の懐中電灯が、奇妙なものを照らし出した。
「なんだ?……これは?」
光の中に浮かび上がったのは、細長い長方型の石のブロックだった。
ライトの光の届く範囲だけでも、ざっと数えて5つのブロックが並んでいる。光の届かない部分にはもっとあるであろうことが察せられた。
「これは………なんだ?」
「オレの感に狂いが無ければ……」立ち尽くす大塚に代わって藤田が前に出ると石のブロックに手をかけた。「……これは石棺だ。」
しばらくはブロックの表面を撫でるように滑っていた藤田の手が動きを止めたかと思うと、ぐいっと力が込められた。
「みんな手を貸してくれ!」たちまち数名のスタッフが藤田のそばに取り付いて加勢すると、ゴリゴリ音を立てながら、石のブロックの上部が僅かに持ち上がった。
「よし!あと少しだ!……それ!いち、にの……さんっ!!」
ズ……ズ……ズズ…………ズゥン!
石の蓋がついには藤田らの力に屈して石棺の上から音を立てて滑り落ちると、たちまち何本ものライトの光が石棺内部へと差し込まれた。
「おお…」誰かが思わず声を漏らした。
石棺の中に横たわっていたのは、金糸を纏い王冠とも兜とも見えるものを被った大男のミイラだったのだ。


184 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:36:45
4−4.
屈みこんでいた四体目のミイラ上から立ち上がって、藤田は言った。
「頭蓋骨の特徴からみて黒人だね。それから……小指が根元から無いのも前の三体と同じだ。たぶん生前に切断したものだろう。」
既に石棺は次々暴かれ、スタッフたちは憑かれたように五つ目の石棺にとりかかったところだった。
「…装束はアフリカでも中東でも見たことが無いデザインだ。今はボロボロに褪色しているが、作られたばかりのころは他の色も使っていたんだろう。今判別できるのは金糸だけだがね。」
「なあ藤田先生!冠は?材質は何だい?」好奇心に目を耀かせて大塚が尋ねた。
「金を期待してるんだろうが…。残念、四体とも金じゃないよ。デザインは……なんだろう?古代オリンピックの月桂冠に似てるが、こんなにトゲトゲしてはいないし……。」
「いばらの……」
「えっ!?」自分の肩越しに発せられた呟きに、藤田は驚いて振り返った。
「……い、茨の冠です。」振り返った藤田の勢いに、慌てたように小川は言い直した。「あの…、キリストが処刑されるとき頭に被せられたっていう茨を編んで作った冠です。」
「なるほど、確かにそんな感じですね。」ミイラに視線を戻して藤田も言った。
「でもこれが伝説に言う『王』のミイラだとしたら……」異議を述べたのは大塚だった。
「おかしいじゃないか?なんで王様に茨の冠なんか被せるんだ?」


185 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:38:16
4−5.
「おかしいじゃないか?なんで王様に茨の冠なんか被せるんだ?」
困ったような顔をして奥に引っ込んでしまった小川に代わり、藤田が答えた。
「キリストは総ての人間に代わってその原罪を引き受け死んだことになっている。だから茨の冠はある意味キリストが引き受けた罪の象徴なんだ。
そしてキリストはキリスト教徒にとっては『神の子』であり『王の中の王』だった。つまり『茨の冠』と『王』であることとは矛盾しないよ。」
「茨の冠の件はわかった。だが、小指の切除は刑罰じゃないのか?なんで王様が刑罰なんかを?」
「それも必ずしも刑罰とは……」
だが、藤田が最後まで言い終わらぬうちに、五つ目の石棺を暴いていたスタッフたちが「うわあっ!?」と派手な悲鳴を上げた。
「ど、どうした!?何があった!?」尻餅をついているスタッフたちのところに大塚はとんでいった。
恐怖に強張る口調でスタッフの誰かが大塚に言った「石棺の中に……中に、死体が……。」
「死体が在るのは判ってる!それがいったいどうしたっていうんだ?!」
言葉ではそれ以上答えようとはせず、スタッフの一人が自分のもつライトの光を五つ目の石棺の中に投げこんだ。
「こ、こりゃ……いったい……。」大塚も五つ目の石棺の中の様子にはそれ以上の言葉を失ってしまった。
五つ目の石棺には、死体が二体、詰め込まれていたのだ。


186 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:40:17
4−6.
五つ目の石棺に入っていたのは、いままでのものと同じようなミイラともう一体、白々とした白骨死体だった。
「ミイラの方はこれまでのものと同じだ。だが…」藤田はもう白骨死体を指さした。「こっちは違う。頭蓋骨の特徴からして黒人じゃない。それに小指もある。」
「じゃあいったい何人(なにじん)なんだ?」
「よく調べてみんと断定できんが……、コーカソイド系……たぶん白人だと思う。」
誰もが、あの伝説の最後のフレーズを思い出した。

「神の怒りにふれたか?それとも悪神に魅入られたのか?悪い白人たちは、それきり二度と、戻って来なかった。」



187 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:42:06
4−7.
手持ちの懐中電灯とカメラ撮影用ライト以外光の射さない地下洞窟の中を、不気味な沈黙が支配した。
(そうだ、これだ)(そうにちがいない)(そんなまさか!?)だれもが同じことを考えていた。
沈黙を破り、乾いた声で大塚が言った「そうか……これが例のウォレス大佐の……。」
「まだそうは断定できんよ。」興奮を必死に抑えているような口調で藤田が遮った。
「この白骨が白人のものとは、現状では断定できない。また例え白人のものであったとしてもウォレス大佐の隊のものとは断定できない。……そうだ、断定はできない。」最後の部分は自分自身に言い聞かせているようだ。
「でもこんな地面の下にたまたま通りがかった人がいるとでも?」「僕らみたいな探検隊かもしれないだろ!?」「たまたま通りがかりの探検隊か?」
皆が堰を切ったように騒ぎ出したなか、まの悪いスタッフがポツリと呟いた。
「まるで犬がしゃぶった骨みたいだ。」
小川が耳を塞いで叫んだ。「怖いこと言わないでください!」
一瞬で皆が再び黙り込む。
まだ開いてない石棺は幾つも残っている。それらの中には、いったい何が押し込まれているのだろう?肉のしゃぶり尽くされた白骨死体?それとも、骨をしゃぶった悪神か?
不安にかられたスタッフたちは、仲間の顔を無意識に確認しあった。互いの無事を確かめるように……。
このとき不意に、小川はある人物の顔を先ほどから見ていないことに気づいた。
「あの、万石先生は?」
「そうだ、万石さんは?」「そう言えばさっきっからあの『ウシシ』笑いを聞いてないぞ!?」「万石さんどこいったんだ?」「万石さぁーーん!」
大塚や藤田も口々に万石の名を呼び、洞窟内は万石を呼ぶ不安な声で満ちた。
すると…………。
「みなさぁ〜〜ん。ワタシならこっちですよぉ〜。ちょっと来てくださぁ〜〜い。」
洞窟の更に奥から、確かに万石の声が返って来た。


188 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:43:14
5.緑光のドーム
万石の声の聞こえた方に行ってみると、なんとまた地下通路が口を開いていた。
墓所は地下道の最奥ではなかったのだ。
だが………「変だな?明るくなってないか?」大塚の言を待つまでもなく、辺りは段々と緑色に明るくなってきていた。
地下の奥へ奥へと進んでいるはずなのに……。
日の光ではない、炎のように揺れてもいない。もちろん懐中電灯の類の光でもない。
(この光……あのときの光に似てる……)次第に強さを増す光は、昨夜大穴に転落する寸前のところで小川を救ったあの「緑の光」とそっくりだった。
あれとよく似た不思議な緑の光が、地下通路の奥から発せられている。
緑の光は奥に進むにしたがって強さを増し……やがて大塚たちは広大なドーム状のエリアに辿り着いた。
フロアーの広さは直径100メートルほどで、さっきの墓所とは違って天井が高く、巨人でも背を屈めずに歩けそうなほどだ。
緑の光は壁そのものから発せられており内部は光で満ちている。そしてそのど真ん中に、万石が笑いながら立っていた。
「万石先生!こんな場所での単独行動は危険過ぎます!そんなこといちいち言わなくたって…」思わず大塚が怒鳴りかけたが、万石はそんなことさっぱり意に介さなかった。
「さっきの場所が王墓だとは思えなかったんですよ、ワタシにはね、ウシシシシ。だって装飾もなにも無くって殺風景過ぎたじゃないですか?」
「お、王墓ではない?」
「がっかりしないでくださいな、大塚さん。屍衣も、金糸なんか使って煌びやかですが、でもワタシには王というより近衛兵みたいに見えたんです。」
「近衛兵?衛兵だと?……でもいったい何を護って……」そこまで言って、大塚もはっと気がついた。
「気がついたようですね大塚さん。宮殿であろうと墳墓であろうと、もっとも価値あるもの、護らるべきものは、最奥部にこそあるものです。見ての通り、これより奥には通路はありません。ここが最奥です。」
万石は大仰に両手を広げ、芝居がかった身振りでくるりと回って見せた。
「ですから、『価値あるもの』は、ここにあるはずなんですよ。うししししし……。さて皆さん、ちょっと上を御覧いただけますか?」
一同は万石に促されるまま天井を見上げ、おもわず「あっ!」と声をあげた。


189 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:46:37
6-1.天井画
「こ……、これは!?」天井を振り仰いだ姿勢のままで藤田が絶句した。
他は誰一人驚きの声すら出せない。
いったいどうやってあの高さに描いたのだろうか?高い高い遥かな天井には、巨大な絵とそれを囲んで文字のようなものが一面に描かれていた。
だが、藤田たちを驚かせたのはその精緻さではなかった。
驚きのあまり掠れ気味の声で小川が言った。「あれって……ギャオスですよね?」
「間違い無いね。それからこっちはガメラだ。」「ゴジラもいますよ、うしししし。」
ドーム天井の高み壁面に限り無く写実的に描かれていたのはゴジラ、ガメラ、ギャオスという三匹の怪獣だったのだ。
そして三匹の中央にもうひとつ………。
大塚が困惑気味に呟いた。「あの真ん中のは……なんだ?」
右にゴジラ、左にガメラとギャオスと配された、その中心にあるのは『幹の無い柳が大風に吹き嬲られている』とでもいうか、『無数のヘビを詰め込んだ穴を真上から見たところ』というか……、ちょっと言葉では表現できないようなものだった。
「竜巻?それとも渦潮?」「次元の裂け目とか……」「あれから何か出てくるんじゃないかな?」「なんだか判んないけど気持ち悪い……。」
皆が口々に中心にある「それ」の表現を試みたが、その言葉の脈絡の無さが、かえってその存在の形容し難さを物語っていた。
「奇妙な絵ですね。」万石の声で皆の視線が天井から引き剥がされた。
「これまで互いを避けるように決して顔をあわせなかったゴジラとガメラが顔を合わせています。さらにはこれまで宿敵同士と考えられてきたガメラとギャオスも向きを同じくして描かれていますね。これはいったいどういう意味なのでしょうか?」


190 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 08:48:36
6−2.
「ゴジラとガメラとギャオスがキャンプファイヤー囲んでるんだ!」スタッフの一人がわざとおどけたことを言ったが、笑ったのは万石だけだった。
「あの中央にある『変なもの』をキャンプファイヤーだと言うんですね?なるほど……」万石だけは、さも可笑しそうに笑い、そして天井の一部を指さして言った。
「……これが怪獣たちのキャンプ大会の絵だというなら、あの天井の一番奥に描かれている絵は『引率の先生』というところでしょうか?」
万石の指さすところにあったのは、何か星のように見えるものを高くかざした「人間」のシルエットだった。
「やっぱりそうか!」突然藤田が叫んだ。「大塚さん!あの人間の指を数えてみろ!」
「指の数?……ひとつ、ふたつ、みっつ……ん??」大塚の眉間に立てジワがよった。「……指は四本しか……。」
「判ったろ!?」勢い込んで藤田はしゃべりだした「さっきのミイラたちと同じさ。つまり小指の切除は刑罰なんかじゃないんだ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ藤田先生。オレにはアンタの言ってることが…。」
「いいかい大塚さん!」目をかっと見開いてまくしたてる藤田。その表情は抑えきれぬ興奮がもはや丸出しになっている。
「たぶんあそこに描かれている人型はミイラたちが生前仕えていた神なんだ。古代世界において王は神官と近かった。つまりあの王たちは神官として己の使える神と同じ姿になろうとして小指を切断していたんだよ。」
「神と同じ姿になるため自損行為をしたって言うのか!?」
興奮気味の藤田とは対照的な静かな声で答えたのは万石だった。「現代でも信仰の証としての自損行為は珍しくありません。……ワタシも藤田先生の意見に賛成ですね。うしししし……。」

191 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:13:10
7.再び夜を見つめて
(あれからたったの半年……)
まだ危険な窓辺に立ったままで、小川はレポーターとして自分も参加したあの探検行を思い返していた。
(なにかがあそこに閉じ込められていた。それを私たちのせいで、外に逃してしまったんだわ。)
「おい小川!窓の近くは危ないって言ってるだろ?早く離れるんだ。」
大塚が小川の肩に手をかけた。
「防空ライトがあるからって油断しちゃだめだ。ギャオスがその気になったらこんなガラス……。」
(……ひとたまりもない。)
そんなこと言われるまでもないことだった。
彼女もギャオスの脅威を目の当たりにしたのだから。
半年前の夜、アフリカで。


192 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:14:24
8.夜が来る…
残念ながら緑光のドーム内には、大塚の期待したような「テレビ写りのいい宝」=「高価そうなもの」は何一つ残っていなかった。
ドーム内にあったのはガラス?かなにかでできた、中が空になった直径1メートルほどのボールの割れたもの、それからその台座であったと思しき、やはり透明な材質でできている三脚式の台座のみ。
どちらも驚くほどの透明さを備えた物質で出来ており、間近まで来なければそこにあることすら気がつかないほどで、おそらく台座の上に透明なボールは載せられていたのが、何らかの理由で台座から落ちて割れたものであろうと思われた。
また、ドームに入ってすぐ右のところには、壁そのものから削りだした小さなテーブル?が設えられていた。
部屋に入ってすぐのところにあることから、そこに到るまでの闇の通路で必要だったはずのランプでも置いたのではないかと藤田が推測したが、それらしき物は何も見当らず、推論が当たっているか外れているかは確かめようもなかった。
「なにかあったにしても、ウォレス大佐の探検隊あたりが既に持ちだしたのではないか?」と言ってキャンプへの撤退を主張する藤田に対し、大塚は「まだ総ての石棺を開いていない」と調査の続行を主張した。
だが万石に時刻を示され、「この地の底で夜を迎えたいんですか?」と言われるとしばしの沈黙ののち大塚も地上への帰還に同意した。
実は彼も怖かったのだ。
天井画とその周囲を囲む碑文を慌しくカメラに収め、一行が長い地下洞を逃げるように地上へと戻ると、太陽は大穴の縁にまさにその姿を消そうとするところだった。
交互に上下する構造の二つのゴンドラをピストンし、最後の2人を載せたゴンドラが大穴の底を離れたまさにそのとき、大穴の底に一足早い夜が訪れた。

この闇のなか、大穴の縁へと登るゴンドラをじっと見つめる者がいたとしても、夜を見透かす目をもたぬ現代人には見えるはずもなかっただろう。
そして再び、夜が巡ってきた。


193 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:15:40
9−1.大穴の底から
その夜も、小川は寝つかれなかった。
奇怪な地下の探検で体はすっかり疲れきっているはずなのに……彼女の心の中の何かが、彼女が眠るのを許さない。
そんな心と体のせめぎ合いが2時間以上も続いたあと、トロトロとした浅い眠りがようやく小川の上に訪れた。
生理的には眠っているが、自由にならない体の中で心だけがまだ目覚めている、そんな状態のなか………。
小川はふと気がついた。
(虫が……鳴いてない?)
アフリカの森林地帯の夜、しかも季節は夏である。宵の口は煩いくらいに虫がガチャガチャ、リンリンと鳴き騒いでいた。
それがいまは、声を無くしたように黙りこくっている。
やがて……まずどこかでカタンという音がして、つづいてウィィンというモーター音が聞こえてきた。
(この音は………)
小川には音の正体がすぐに判った。
(リフトが上がって来る音!……そうだわ!)
彼女は思い出した。
設置した簡易リフトはケーブルカーなどと同じ構造になっていて、小さな二つのゴンドラが交互に上下する構造になっている。
つまり一方が大穴の上にあるとき、もう一方は大穴の底に放置されているのだ。
その大穴の底にあった方のリフトが……上がって来る!
小川の心に、昨日地下洞窟で誰かが言った「まるで犬がしゃぶった骨みたいだ」という言葉が甦った。
ウォレス大佐らを真白い骨に変えた悪神が、小川たちを捕らえるため、大穴の底から上がって来るとでもいうのか!?
小川は恐怖に目を見開き、大声で大塚や藤田の名を呼ぼうとした。
だが……声がでない!?
目は覚めているはずなのに、体は金縛りにでもあったように動けないのだ!?
心の中で、小川は必死に叫んだ!
(だれ!?だれなの??大穴の底から上がって来るのは誰!?)


194 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:18:10
9−2.
ウィィィンというモーターを巻き取る音が暫く続き、そして止った。リフトが大穴の縁のところまで上がりきったのだ。
それからしばらくは音無しの状態が続いた。リフトの周囲には踏みつけて音のするようなものは何一つない。
そんな状態がずいぶん続き、小川が(大穴の底から上がって来た何かは、キャンプとは別の方向に行ってくれたんじゃないかしら)と期待しかけたときだった。
パキッ!
小枝を踏みつける音がすぐそばで鋭く響いた!
(…いる!)
耳を澄ますと確かに聞こえる!土を踏みしめる音が。草を踏みしだく音が。
大穴の底から上がって来たものは、皆の寝静まったこのキャンプの中を歩き回っている!
うろつく気配は、キャンプの中で何かを、いや、誰かを探しまわっているようだ。
(私を探してるんだ!昨日の夜、逃がしてしまったから。今度こそ掴まえようと思ってるんだ!)
今度こそ小川は叫ぼうとした。
だがやはり声がでない。体はまだ金縛りにあったように動けないままだ。
(誰か!……誰でもいいから、早く!早く目を覚まして!)
みしっ!!こんどはすぐそばだ!
みしっ!次はもっとすぐそば!
月が雲に隠れているので見えないが、そうでなければテントの幕にはそいつの影が写って見えるにちがいない。
みしぃっ!重い足音が、小川のテントのしっかり閉ざされた入り口の前で止った。
(助けて!だれか助けて!)
そして……テントの入り口が開かれた。細く開いた入り口から、人ならぬものがじっと中を窺っていたが……。
「大穴の底から来たもの」は、テントの中にぬっと腕を突っ込んで来た!
「か、神さまっ!!」
振り絞るようにそれだけ叫んで小川が意識を失ったそのとき……!

ギェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!

鋭い叫びが夜空を突き抜けた!

195 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:19:18
10.ギャオス襲来!
「おい!小川さん!しっかりしろ!目を覚ますんだ!」
激しく両肩を揺さぶられて、小川は意識を取り戻した。
思わず恐怖に身を固くするが……目の前にいるのは大塚だ。
どのくらい意識を無くしていたのだろうか?テントの中を窺っていたものはいなくなっていた。
それともあれは、総て小川の見た悪夢だったのか?
小川がぼおっとしているのを「寝ぼけている」と勘違いしたのか、大塚は更に小川を揺さぶりながら低く叫んだ!
「さっさと目をさませ!急いでここを撤収する!余計な荷物は置いていけ!」
大塚の恐慌ぶりが、さきほどの小川の恐怖を甦らせた。
「……に、逃げる?それひょっとして大穴の底から来たヤツのせい!?」
「何を言ってる!?さっきの声が聞こえなかったのか!?」
そして大塚は、何かに聞かれるのを怖れるように、更に声を落として言った。
「ギャオスだ!あの悪魔がこの辺にいるんだ!」
ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
鋭い叫びが再び夜を切裂いた。


196 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:20:37
11.夜空より降る歌
5分で最低限の身支度を終えると、あとはひたすら強行軍だった。
半端な照明はギャオスを呼び寄せるだけなので使えない。
暗いままでは豹とでくわす危険もあったが、ギャオスに見つかるよりはまだましだ。
万石の提案で、ちりぢりにならないよう一本のロープを皆で握ると、蛍光コンパスだけを頼りに夜のジャングル突破を開始した。
真っ暗闇の中のでの手探り行軍が小一時間も続いたころ、大塚が足をピタリと止めた「……助かったみたいだ。追ってこないぞ。」
羽を羽ばたかせる音や、ときおり聞こえる叫びは、後にして来た大穴の上周辺から動く気配が無い。
「ワタシたちを狙ってるわけじゃ無さそうですねぇ。」トレードマークの「うしし笑い」抜きで万石も言った「大穴の周辺から離れない。何をしているんでしょう?」
「わからん。でもまだ安心はできん。ジャングルの中でしかも灯り無しじゃいくらも進めてないはずだからな。さあ、行くぞ…」
大塚が皆に再び歩き出すよう促しかけたとき、遥かな上空から突然「歌」が聞こえてきた。
バイオリンやチェロの重奏のようであり呪文の詠唱のようでもあるそれは、明らかに大穴の上空から渡ってくる。
「なんだ?この声は??」
「人間!?……いや、人間じゃない!この声は……。」
「ギャオスだ!ギャオスが何匹も一斉に鳴いてるんだ。」
まるでオペラみたいだと小川は思った。
音域が激しく上下しながら複数の声が重層的に鳴き交わすそのさまは、ギャオスの奏でる交響曲のようでもあり、歌い競うオペラのようでもあった。
ギャオスのオペラは渦を巻きながら波を起こし、互いに引き合い高めあいながら急上昇し、そして……。

「い、いかん!みんな耳を塞いで伏せてくださいです!!」

万石が叫ぶのが幸いほんの一瞬だけ早かった。
ブゥゥゥゥゥゥゥン!!
激しく唸りを挙げ何かが落ちた!
ズンと鈍い振動が走り、そして一瞬遅れてやって来た爆風がジャングルの樹木をなぎ倒す!!
巨木の根元に伏せていた小川の体も木の葉のように地面を離れた!
「きゃあああああっ!?」
小川の目の前が一瞬で真っ暗になった……。


197 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:22:29
12−1.最初の夢
……
………
「アッタ、アッタ!ミツケタ、ミツケタ!!」

大声と同時に、不意に小川の視界が開けた。
(あ……あれ?ここは…ここは……)
なんと小川がいるのは、後にして来たはずの「大穴」の底!?しかも頭上には何故か太陽が耀いているではないか!
(なんで大穴の底に戻ってるの!?何時のまに昼になったの!?)
小川は混乱を振り払らうべく顔を横に振ろうとした。
だが、視界は微動だにしない。
(どうしたの!?私どうしちゃったの???)

「なに!?とうとう見つかったか!」
混乱した小川の視野の中に、身の丈2メートル近くある白人が文字通り山のような巨躯を揺らしながら汗を拭き拭きやって来た。
ここだここだ!とインド人が指さす洞窟は、確かに小川たちも中に入ったことのある洞窟だった。
「……間違い無さそうだ。ワシの魂の不滅を危険に晒しただけの価値があればいいのだがな。」
「『大佐』殿の魂なんて、このあいだのパーティーが無くたって、とっくに地獄行き確定でしょうに……。」

「大佐」という呼びかけで小川は気がついた。(この大男が「消えた探検隊」のリーダー、悪名高いウォレス大佐なんだわ!)と。

いつのまにか大佐の後ろには頬に刀傷のある男が立っていた。
「…ワシ一人で殺したわけじゃないぞ『軍曹』。それに素直に此処のことを話していれば…。」
「……殺さなかったとでも?」
「少なくとも拷問はしなかったな。」
笑いながら振り返った「大佐」の小さな目が濡れた光を放っていた。


198 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:24:16
12−2.
小川はウォレスの濡れた瞳の奥に見た。
……泣き叫ぶ若い黒人女性……ぬらぬらと赤く光る山刀……荒縄……燃え上がる炎………襤褸キレのように絡まって転がる子供たち……断片的な景色が次々閃いては消えた。
(そうだわ!いまのはみんなこのケダモノたちが!)
激しい怒りと悲しみが、小川の心に湧きあがった。

「大佐」らはつい三日前、最寄の村で身の毛もよだつ饗宴を繰り広げたばかりだった。
その目的はふたつ。ひとつはこの秘密の場所を聞き出すこと。もうひとつは……「大佐」の個人的趣味だった。
それからこの二人、「大佐」「軍曹」と階級名で呼び合っていたが、インドでの悪行の数々でとっくに軍籍は剥奪されている。
悪行醜行の数々を無視できなくなった植民地の官憲が動き出す寸前、彼らは手下とともにインドから姿を消し、ここアフリカの地へと猟場を移したのだった。
「大佐」らは今、ある伝説の宝を追って、この密林の奥地へとやって来た。
そうした事柄をなぜか小川は既に知っていた。

(…でも、なんで?私がそれを知ってるの?)

理由は……すぐにわかった。
「大佐」や「軍曹」とは違う、冷たい知性を感じさせる声で誰かが呟いたのだ。
「妙だ………な。」
するとウォレス大佐が小川に向かって言った。
「どうかしたのか?ファン・リーテン?」


199 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:33:13
12−3.
重ねて大佐が小川に言った。
「……どうしたのだ?何か気になるのか?ファン・リーテン?」

(ファン・リーテン??……誰が??)

「……………ふしぎ…だ……生き物がいない。」大佐に声をかけられてからたっぷり数秒は間をあけて、小川の……いや先ほどの声が答えた。
「……この落とし穴のような窪地の周囲には、猿、鳥、昆虫、爬虫類……およそ考えられる限りの生物に溢れている。だが、ここには……」
そう言いながら手近の蔓草を手荒く揺さぶったのは間違いなく男の手で、小川が見たこともない小さなコインを嵌め込んだ指輪をしていた。
「…このとおり…何の反応も無い。虫一匹…落ちてこない。」
ふん!と、鼻で笑って「軍曹」がやはり小川にむかって言った。
「生き物がいないだって?ファン・リーテンともあろうものが、なんて非科学的なことを言ってるんだ?植物だって生き物だろうに?」

小川は悟った。
(私がファン・リーテンなんだ。いま見ているのはファン・リーテンの視界なんだわ。私がウォレスたちのことを知ってるのも、英語のやりとりが全部わかるのも、このファン・リーテンが知ってるからなんだ!)


200 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:34:56
12−4.
「わたしの言う意味が判っていないようだな。」
相手の嘲笑など気にも留めない様子でファン・リーテンは応じた。
「……植物は種が落ちたところに根を降ろすだけだ。だが鳥や虫は違う。気に入らない場所ならさっさと逃げる。」
「ファン・リーテン、あんた何が言いたい?昨日の村のヤツラが言っていたように、ここは忌み地だとでも言いたいのか??」
「ワタシが言っているのは単に事実だけだよ、『軍曹』。」再びファン・リーテンはあたりを見回した。「……鳥や虫たちは、ここには住みたくないらしい。」
軍曹とオランダ人の会話を耳にして、インド人たちや現地で手下に引き入れた黒人がそっと目を見交わした。
オランダ人と違い理屈は判らないが、彼らは彼らなりの感覚で辺りに何かの気配を感じ取っていた。
ただそれを一々口に出さないのは「窪地に漂う気配」以上に「大佐」が怖かったからだ。
「忌み地だろうと何だろうと、ワシに興味は無い!」
部下の有色人種たちの不安を蹴散らすように、大佐が吠えた。
「ワシの興味があるのは、この中にはお宝が在るのか無いのかということだけだ!さあ行くぞ!!」
だが、大佐が洞窟の中に姿を消し、軍曹、ファン・リーテン、そして彼らの手下たちも次々とそのあとに続いて行ったところで、小川の視界がまるで古いテレビの画像のように崩れだし、ただ意味不明なイメージが散発的に閃くだけになってしまった。
……
………限り無き飢えを抱え……(……飢え?)
…獣の王となり………貪り喰らうもの(「飢えてるもの」が「獣の王」なの?)
…………を用い……(えっ!?なに?聞こえないっ!聞こえないよ!?何を使うっていうの!?)
………………あふとぅう……あふとぅう……あふ…とぅう……

地球の裏側から届く外国語放送のように、切れ切れのイメージが遠くなったり近くなったりする夢からふっと目が覚めたとき、小川は病院のベッドに寝かされていた。
慌てて自分の手を眺めたが、もちろんそれは見慣れた自分の手であって、コインの指輪もはめていない。
もちろんもう彼女は「ファン・リーテン」ではなかったし、「大穴」の底にいるのでもなかった。


201 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:36:37
13.帰国
大塚や小川たちの探検取材はそのまま中止となって即時帰国の指示が下り、藤田を除く全員が帰国の途についた。
日本人と現地人合わせて27人のうち、命の助かったのは僅かに6人だけとあっては仕方が無いだろう。
後に万石が「殺人音波の共振爆発」と呼んだ現象は、それを発動させたギャオスも含めてあらゆるものを破壊し尽くした。
大穴を中心として半径1キロの範囲はジャングルが更地に変わった。
耳を塞ぐのが遅れた者は、殺人音波で耳と脳神経を瞬時に破壊され、強烈な爆風がやってきたときには既に死んでいた。
そして爆風とともに吹き飛ばされた大小の岩が弾丸となり、折れ裂けた木々は矢となって、土砂降りの雨のように小川たちを襲ったのだ。
……大塚、藤田、それに小川は奇跡的に無傷で助かった。
万石は左手の小指を失ったが、他2人の生き残りスタッフよりはまだましな状態だった。
藤田は、「あの遺跡についてもっとよく調べてみたい」としばらく現地に留まったが、肝心の遺跡のある「大穴」が爆発で完全に埋まってしまったとあっては成果を上げられるわけもなく、やはり遅れて帰国することとなった。
あの大爆発の夜のときと同様に、このときも藤田は運が良かった。
藤田がアフリカを離れてから僅か二週間後、アフリカを予想もしていなかった悪魔が襲ったからだ。


202 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:37:58
14.新型インフルエンザ
当初、人間世界にとって最大の脅威はアフリカに現れたギャオスだった。
ギャオスの影や叫びはアフリカ中で確認され、近隣の諸国はだちに対ギャオス戦のシフトを組んだ。
都市周辺には対空砲とギャオス避けの強力サーチライトが展開し、夜間戦闘対応の戦闘機部隊が配備された。

……だが……

「アフリカに妙な熱病が出たらしいぞ!」
「えっ!??本当ですか??」
小川が局で同僚とそんな会話をしたのは僅か5ヶ月ほど前のことだった。
報道機関でも最初のうちは興味本位の採り上げ方で「またアフリカに変な病気が出たよ」程度の扱いだったが、「罹患者の殆どが高熱のうちに一週間前後で死亡。死を免れた者も誰一人昏睡状態から目覚めない!」との情報で風向きが変わり始める。
そして「こいつは新型インフルエンザでは?」「この新型インフルエンザには、用意されていた対インフルエンザ用の薬剤も抗生物質もまるで効かないらしいぞ!」という情報でついにパニックとなるが、そのときは既に手遅れだった。
悪疫はEU域内に侵入してしまっており、フランクフルト、パリ、ロンドンといったEU諸国の大空港が更なる悪疫拡散の足がかりとなってしまっていた。
アメリカは「アフリカに未知の感染症出現!」の報と同時に、アフリカ・アジア・中近東地域からの入国を規制したが、悪疫はなんとEU域内からカナダを経由して北米に侵入。数日のうちに無防備の内陸都市デトロイトとクリーブランドを手中に収めてしまった。
ただちに大統領は非常事態を宣言、デトロイトを封鎖すると同時に、軍の対細菌戦部隊を動員し感染者隔離の徹底を図ろうとした。
同じころ極東アジアでは中国が人民解放軍を総動員して新型インフルエンザの「殲滅」を図ろうとした。しかし結果は人民解放軍内への悪疫蔓延、そして壊滅……。

「後門の敵」である悪疫の蔓延により混乱をきたし始めた人類の上に、「前門の敵」ギャオスが舞い降りた。

203 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:39:10
15.メラノーマ
「どうだ?何か見つかったか?」
「……いいえ。なにもいません。」
電子顕微鏡を覗き込んでいた若い研究員が首を横に振ると、初老の学者はガラスの向こう側に目をやった。
ガラス一枚隔てた隔離室には三人の男女が横たわり、スタッフの治療を受けている。
「………やはり見つからんか……。」
「教授、このままでは我が国は……」
悪疫が地中海を超えて以来、わずか一ヶ月のうちにフランス国内の感染者数はウナギ登りの増加を示していた。
後手にまわった政府が「新型インフルエンザ対策チーム」を立ち上げるより早く、彼らのような在野の研究者は動き出していたが、勢いを増す一方の病原体を特定できたチームはいまだ現れていない。
細菌?ウィルス?……あるいはプリオンのような非生命体なのか?
国家の存亡を賭けたデスレースが始まっていたが、いまのところ敗色濃厚なのはフランスの側だった。
教授以下スタッフの全員が、破局の近いことを感じていた。
「ん……?」何時のまにか教授のヨコに立って隔離室の様子を見ていた若い研究員が、不思議そうに呟いた「……あんなところにホクロなんかあったかな?」
「ホクロ?」
「はい…そらあの二の腕、針痕のヨコです。」
スタッフに採血針を刺されている女性患者の腕には、直径5ミリほどのかなの目立つホクロがあった。
「ホクロがどうかしたのか?」
「……あの針痕は僕が昼にうった点滴針のものですが………そのとき、あんなホクロはありませんでした。」
「ホクロは無かったと!?」
教授は隔離室内のスタッフに、患者の腕からホクロの組織を採取するようマイクロホンで指示。
隔離室内のスタッフは直ちに採血針をメスに持ち替え、患者の上に屈み込んだが……。
次の瞬間、毒蛇でも踏みつけたかのように スタッフら一斉に飛び退いた。
「どうした!?何があった!?」
マイクロホンに向かって叫んだ教授に答えたのは、ガラスのこちら側にいた若い研究員だった。
「ホクロが……動いてる。」
さっきまで点滴針痕のすぐヨコにあったホクロが、いまは針痕よりずっと上の位置にあるのだ。
「そんなバカな……」
そんな教授の呟きを嘲笑うかのように、ホクロの面積が見る見る広がりだした!

204 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:40:22
16−1.花の都
はあ…… はあ……はあ……
エレベーターを待つのももどかしく、息を切らして階段を駆け上がると、小川は「報道部」と書かれた部屋に飛び込んだ。
「大塚さん!」
「おお来たか!見ろ!あれを!!」大塚が指さしたテレビ画面には、アフリカでのあの夜と同じ暗闇が広がっていた。
ときおりオレンジ色の曳光弾が思い出したように打ち上げられている。
「フランスはパリからの中継映像だ。」
「どのくらいいるんですか?」
「画面からじゃわからないが……かなりの数らしい。」
画像はホテルか何かの地下駐車場出入り口から撮っているらしく、映し出された夜空は周囲の建物によって切り取られたごく狭い範囲だったが、その狭い夜空にときおり浮かぶ影すらも一匹や二匹の数ではない。
「あっ!何か落ちた!」
オレンジ色の火の玉が落下し、地上に炎が広がった。
「やるなフランス空軍。」「だが…焼け石に水だ。」
そう言っているあいだにも対空砲弾が光の尾を曳いて飛び、火の玉がもうひとつ落下したが、いかんせん敵の数が多過ぎる。
パリの夜空はギャオスに占拠されてしまっていた。


205 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:41:31
16−2.
パリの夜空はギャオスに占拠されてしまっていた。
「変だな…何でギャオスは降りてこない?人を食いに来たんじゃないのか?」
報道部員の誰かがそう言ったそのとき、中継画面に写ったアナウンサーらしき男が夜空を指差しながら外国語で何か喚きだした。
「大塚さん、いったいなんて言ってるんですか?」
「オレに判るわけねえだろフランス語なんて!……おい!誰か………」
さすが報道部だけにフランス語がわかる記者がいて、すぐさま小川と大塚に通訳してくれた。
「『歌が聞こえる』って言ってるよ。」
大塚が叫び、小川は呻いた。「歌だと!?」「う……歌が!」
耳を澄ますと、途切れ勝ちの中継音声からも確かに「歌」が聞こえ始めた。
あのアフリカの夏の夜、空から降ってきたのと同じ、この世のものではないあの歌だ!
「ギャオスの歌!共振爆発だ!!」思わず身を退く大塚!
「に、逃げて!!みんな逃げてーーーーーーーーーーーーーーっ!」小川は画面に向かって叫んだ!

しかし次の瞬間、画面の夜空が真昼の光に満たされた!

(冬の夜空を歌が渡ってゆく)
(……高く低く、遠く近くに鳴き交わす魔性の歌が……)
(やめて!やめて!やめてーーーーーーっ!!)
今見たばかりの爆発とアフリカでの悪夢の夜が小川のアタマの中でオーバーラップし、いま、どこで、なにをしていたのかといった事々一切を、小川は見失った!冬の昼間の放送局も、夏の夜のアフリカも、すべてがごっちゃになってつ小川へと押し寄せる!
「や、やめてーーーーーーーーーーーっ!」
細く長く叫んだ直後、小川は意識を無くしてしまった。


206 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:42:49
17−1.二度目の夢
………………
気がつくと、小川の視界に広がっているのは緑の光に照らされた地下洞だった。
そして行く手には緑の光でいっぱいの広い空間が見える。
彼女はすぐに気がついた。
(ここは……大穴の底にあった地下遺跡!……そうか、また私はファン・リーテンになった夢を見ているのね!)

突如、緑光のドームの中から、まるで猿を思わせる身のこなしで大男が飛び出した。その手には……!
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
獣のような雄叫びもろとも、大男は手にした槍をウォレスに向け投げつけた。
思わず小川は目をそむけようとしたが、ファン・リーテンの視界は動かない。
びゅんっっ……どすっ!
しかし!……唸りをあげ槍の突き立ったのはウォレスの胸ではない。
大男の投げつけた手槍は、大佐の隣に立っていたインド人兵士の胸に突き立っている!

(ひ、卑怯者!)心の中で小川が叫んだ。

咄嗟にウォレスは、近くの手下を引き寄せて自分の盾代わりにしたのだ。
「残念だったな。」歯を剥き出し、狒狒のような顔で笑うウォレス。
「軍曹」と呼ばれていた男が叫んだ!「撃ち殺せ!」
ババババババン!!!
地下洞が爆発音で満たされ、見えないハンマーで一撃されたように大男は背後に弾けとんだ。
「槍で真正面から銃に挑むとはな。」ウォレスが笑うと「軍曹」が応じた「あれが伝説に言う『王』ですかな?」

(王!?それってどういう意味!?)
だが、疑問を感じるのと同時に、小川は既にその答えを知っていた。
ファン・リーテンが知っていたからだ。



207 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:44:20
17−2.
「密林の奥に断崖絶壁に囲まれた、深い深い大穴が口を開いている。」
「穴の底には秘密の王宮があって、そこには王と彼の守る宝とが暮らしている。」
「穴の場所は××族だけが知っており、谷底に潜む王に対し縄を垂らして供物を捧げている。」
それがファン・リーテンの知っている「伝説」、小川や大塚がアフリカの古老から聞いた伝説の原型だった。

(「王が暮らしている」というのは判るわ。でも、でもなんで「宝」も「暮らしている」の?「宝」も「王」と同じに生きているの??)
小川は自分自身の体でもって「大穴」の底に降り立ったとき、万石が口にした言葉を思い出した。
「単に『大穴』というより『落とし穴』か……『牢獄』と言ったほうが相応しいでしょうな。」
(牢獄の底で、王は宝と暮らすの?……そう言えば…。)
石棺に収められたミイラは「茨の冠」を被ってはいなかったか?
(そういえば藤田先生は言ったわ……)
「……茨の冠はある意味キリストが引き受けた罪の象徴なんだ……」
(それじゃあ……「王」たちは何を引き受けていたの??)

……小川の意識がファン・リーテンの視界に戻ったとき、ウォレス大佐らの隊は「王」の蜂の巣となった遺体の側までちょうど差し掛かったところだった。
石棺のミイラが被っていたものと同じく「茨の冠」を被り、空を掴む左右の手の平にはどちらにも小指は無い。
(……間違い無いわ。やっぱり「王」よ。)
小川がそう思ったときだった。
ウォレス大佐が「王」を蔑むように死骸の顔にペッと唾を吐きかけた。
次の瞬間、死んだはずの「王」の両眼がカッと見開かれた!

208 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:46:02
18−1.夜の訪問者
「きゃあああああああっ!」
恐怖の叫びを上げ小川が飛び起きると、そこは局の医務室だった。
小川の悲鳴をアフリカでの経験が甦ったショックだろうと思い込んだ大塚は、「無理するな。今晩はまだ日があるうちに家に帰れ。」と小川を家に返す。
少しでも小川の神経を休ませてやろうという大塚の配慮だったが……。

……神経はボロボロに疲れ果てていたにも関わらず、小川はなぜかどうしても眠ることができなかった。
(……大穴の縁で過ごした夜がちょうどこんなふうに眠れなかったな……)
とうとう眠ることを諦めた小川はベッドスタンドの明かりだけ点けると、ノートと鉛筆を取り出した。
どちらも、アフリカで「ファン・リーテンになった夢」を見てからこっち、また不思議な夢を見たときに記録をとっておこうと枕もとに用意していたものだ。

(一連の事件は、私たちが発見した遺跡と何か関係がある!そうよ!絶対に何か関係があるんだわ!)
右手にペンを持ち、気になった事柄をメモりながら記憶をたどってゆく……。
………まず……「遺跡」
(そうよ。ここがきっとパンドラの箱だった。総ての禍がここに封じられていたに違いないわ。)
小川はあの夜、大穴の底から上がってきて自分のテントの中を覗きこんだ何かのことを思い出した。
(あいつが死神、あいつが禍の元だったのよ…)
小川は「遺跡」という書き込みから矢印を引張って「死神」と書き込んだ。
……「ギャオス」……
(そうだわ、遺跡の天井には確かにギャオスが描かれていた。)
そして……「四本指の人間」………
(遺跡の石棺に眠っていたミイラもみんな小指を取り除いて四本指になっていた。ということは、天井に描かれていたのはあのミイラたちの姿?それとも、大穴の下から上がって来たのが「四本指の人間」なの??)
だが、小川は自分の見た天井画を思い出しているうちに、おかしなことに気がついた。
(………怪獣たちの姿はリアルに描かれてるのに、「四本指の人間」はなんでシルエットだけだったのかしら?……そう言えば……。)
小川はリアルに描かれていないもうひとつの物を思い出した。
(ゴジラやガメラ、ギャオスの中心に描かれていたあの……ぐちゃぐちゃしたもの……あれはいったい何なのかしら??)

209 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:47:17
18−2.
……「共振爆発」……
小川は万石の仮説を思い出した。
「音とは空気の振動です、ギャオスはこの振動を収束させることにより、鉄をも切裂く殺人音波を放ちますですね。
複数のギャオスによりこの音波の収束を空間上のある一点に対し発動することにより、大気を超圧縮し自然爆発させる。
この際、ギャオスが互いに爆発の臨界点を探り合うのが、あの上下する歌なのでしょうな。でも不思議なのは……」
(……共振を発動させたギャオスも爆発に巻き込まれて死んでしまう。なのに何故、ギャオスは共振爆発を発動しようとするの?)
………「ファン・リーテン」……
(私は……いいえ、ファン・リーテンは遺跡に降りて行き、「王」を殺した…。いいえ、「王」は死んではいなかった。「王」がカッと目を見開いて……そのあとは……どうなったの??)
夢の続きを見たくもあり、また見るのがとてつもなく恐ろしくもあった。
……そして「新型インフルエンザ」……
(遺跡には病気のことは書かれてなかった………。いいえ!違うわ!ドームの天井には絵の他にも何か文字みたいなものが書かれていた。ひょっとしたらあそこに伝染病のことが書いてあったかも?)
遺跡に書かれていた碑文……だが、その記録はまるで残っていなかった。
ギャオスの共振爆発によって遺跡そのものは地中深くに封印されて、碑文を撮影した記録も破壊されてしまっている。
(………肝心な碑文が残っていないなんて………)
それまではどうしても眠れなかったのに、落胆したらとたんに眠気が襲ってきた。
……………
…………
………カチャッ
微かな金属音を耳にして、小川はハッと意識を取り戻した。
(今の音は?……)
じっと耳を澄ます小川……
すると………カチャ
(ドアノブだわ!)
こんどはハッキリ玄関からカチャッと音がした!誰かが小川の部屋のドアを開けようとしている!
部屋の住人が起きていることを示そうと小川は部屋の明かりを点け、玄関に向かって叫んだ。
「だ、誰ですか!?そこにいるのは!?」


210 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:54:50
18−3.
「誰ですか!?そこにいるのは!?」
そう叫んだあと、ドアノブはもう二度と音を立てなかったが……
……そのあともずっと玄関ドアと睨めっこをしたまま、小川は朝を迎えた。
(気のせい?……そうよ、絶対に気のせいよ。)
ドアの前から誰かが立ち去るような気配は感じなかったし、何者かが今もって玄関前に立ち尽くしていると考えるのもあまりに非現実的だ。
(……でも……でももし……)
………結局、小川が自分の視線を玄関ドアから引き剥がせたのは、目覚し時計がけたたましく鳴り出してからだった。
ベル音と同時に小川の体に自由が戻り、全身からどっと汗が噴出した。
半ば痺れたような体を引き摺るようにして、小川は寝室に戻ると目覚ましを止める。
目覚ましをセットしていた時刻は6時ちょうど。
メモをとり始めたのは2時半ごろからだから、3時間前後も玄関前に釘付けになっていたことになる。
(……あれは誰だったの??ギャオスが出るかもしれない夜だというのに……。それとも……やっぱり夢??)
やはり夢と考えるのが合理的だ。
どこからが現実で、どこからが夢だったのか?それを確かめようと昨夜とったメモに視線を落としたとき、小川は妙なことに気がついた。
「遺跡」から矢印を引張って書き込んだ「死神」の語の横に、もうひとつアルファベットを使って言葉がかきこんであるのだ。
……「Wallace」と。
(ワラス?…………ああ、ウォレスって読むのね。でもどこかで聞いたような…………そうだわ!思い出した!あの消えた探検隊の隊長よ。)
夢で見た貪婪そうな顔をした残忍な白人を思い出し、小川の背筋に震えが走った
(でも私、いつのまにウォレスなんて書いたの?)


211 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:56:34
19−1.運び屋
パリの壊滅は、国際社会に大変な衝撃をもたらしていた。
「新型インフルエンザ」の脅威の前に、すっかり脇役になっていたギャオスが再び主役の座に返り咲いたのだ。
「ギャオスは人を食う」
そのこと事態は、程度の違いこそあるが人食いのトラやオオカミと同じ次元の問題だとも言えた。
だが、パリという大都市が丸ごと吹き飛ばされたとなると話が全く違ってくる。
さらに、この主役の交代劇には、ある男が一役買っていたのだ。


212 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 12:58:27
19−2.
「……それでは……先生はまず当面の作戦をギャオス殲滅に集中すべきだと、そうおっしゃるのですな?」
背広姿の十数名の男が居並ぶ中、40代前半と見える男が問いただした。
「そのとおりです。」と頷いたのは、大塚や小川らとともにアフリカ探検取材に3科していた男、藤田である。
「その根拠は?」と、尋ねたのは……こちらはもっと若く30代かもしれない男だ。
「根拠はあります。……まずその一つ目は……」藤田は、世界地図に細かな数字の書き込まれた紙を一同に手渡した。「……『新型インフルエンザ』の蔓延と『ギャオス』の出現がリンクしていると考えられることです。」
最初の男が尋ねた「この……上下二段に記されている数字は?」
「上段が『その地域においてギャオスが確認された最初の日付』、下段が『新型インフルエンザの発生が確認された最初の日付』です。」
別の40代ぐらいの男が言った「@、Aとあるのは……そうか世界全体での発生順だな。」
「そのとおりです。まず最初は中部アフリカ。私は奇しくもその場に居合わせました。」
「例の……最初の共振爆発の事件ですね。」と、30代?の男が言った。
「そうです。まずギャオスが現れ、そして例の『新型インフルエンザ』が出現しました。そしてアフリカ全土でギャオスが確認。少し遅れてアフリカ全土に新型インフルエンザが蔓延しました。」
「そして……次はヨーロッパ……か。」
藤田が無言で頷いた。「……ヨーロッパで最初に新型インフルエンザが発症したのがフランスです。侵入経路はアフリカからの不法移民ではないか?などとも言われていますがしかし……。」
「……ん?」額に皺を寄せ、最初の男が尋ねた。「藤田先生は伝染病の侵入経路について……別の意見をお持ちなんですか?」
藤田は、すぐには答えなかった。口を真一文字に引き結び、自分の前に居並ぶ一同を一通り眺め渡してから、彼はおもむろに口を開いた。

「僕は……この新型インフルエンザはギャオスが運び屋なのだと考えています。」



213 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 13:01:26
19−2.
藤田を査問でもするように並んでいた一同の中から「えっ!?」という驚きの声が漏れたが、藤田はかまわず言葉をつづけた。
「……人をエサとして狙うギャオスが都市上空に侵入することによって、空気感染する病原体も都市上空に撒き散らされているのです!」
それまで別々の脅威だと考えられていた「新型インフルエンザ」と「ギャオス」が一本の線で繋がったのだ。
その場においてただちに、「日本国は国力の総てを傾注してギャオス殲滅を図る」旨が決定された。
藤田の前に並んでいた30〜40代の男たち。
彼らこそ、日本国の非常事態臨時政府だったのだ。



214 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/21(水) 13:02:38
19−3.
「老人の最後の命の火を吹き消す病気」、それがスペイン風邪が流行った当時、このインフルエンザの一種に対しアメリカ人がつけた仇名である。
病気は抵抗力の弱い人間、つまり老人と子供を狙い撃ちにするからだが、今回の「新型インフルエンザ」もまさにそのかつての仇名のとおりだった。
どこの国でも立法・行政や司法の上層部には高齢者の比率が高くなるが、その高年齢層が集中的に凄まじい打撃を被ったのだ。
新型インフルエンザの侵入を受けた国は、例外なく行政・立法・司法の上層部に深刻なダメージを受け、機能不全をきたしてしまっていた。
統治機能の麻痺が国民に不安を生じさせ、それを鎮圧するため軍隊や警察が動員される。そしてそれがまた国民の不安を煽り、軍が投入される……。
こうして対ギャオスの防備が薄くなり過ぎたのがパリ壊滅の一因でもあったのである。

日本でも基本的な状況は同じだった。
最初の患者が確認されてから僅か一月半ほどのあいだに、国会議員のおよそ半分強、閣僚のほとんど、最高裁判所に到っては判事の全員が疫病に罹患し、非常事態宣言すら出すヒマもないままに死亡してしまっていたのだ。
ただ、日本が他の国と決定的に違っていた点があった。
なぜか社会秩序が失われなかったのだ。
遵法意識が強いのか?それとも自己判断能力が低い?からなのか?非常事態宣言も出されず、戒厳令も敷かれていないにも関わらず、基本的に日本社会の秩序はそのままだった。
バスも電車も本数こそ減り運行ダイヤは狂いっぱなしだったが、それでも止りはしない。
街角に兵士が立つようなことは無かったにも関わらず、デモや焼き討ち騒ぎも起らない
大塚や小川のような報道関係者も相変わらず仕事をつづけ、己の責務に服しつづけた。
三権分立やシビリアンコントロールといった統治機構の諸規則は崩壊しているのに、それでも「政府」はあったし、統治は崩壊していなかった。
そのため世界中で日本だけは、国内治安維持に兵力を割くことなしに、陸海空自衛隊の全兵力をもって対ギャオス戦に臨むことができたのである。


215 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 07:51:26
20−1.旧友
「藤田先生の提案を受けてからその日のうちに『ギャオス殲滅作戦』の採用を決定。諸官庁への指示命令もその日のうちだ。若手だけあって早い早い。
……もっとも連中より年嵩の議員は殆ど全滅なわけだがな。」
報道部の応接で、感心したように大塚は言った。
藤田が日本の臨時政府にギャオス殲滅作戦への全国力の集中を上申してから僅か一週間のあいだに、政府は目まぐるしい速さで次々対策を打ち出しており、
その若々しい対応の速さは、概ね国民にも行為をもって迎えられていた。
だが、向かいに座った男の感想は少し違っていた。
「たしかにあの判断の早さは素晴らしいと思うよ。しかしね……。」
「しかし?…………おいどうした天城?先を言えよ。」
その男、天城は、入社で大塚の二年先輩だが、生まれ年が同じということもあって以前から「情報交換会」と称して飲み歩く仲だった。
「ボクは若さ故の判断ミスが出やしないかと心配なのさ。藤田とかいう先生は信用できる学者なのか?」
「信用できる……と思うな。先生の論拠は結局のところは大穴の底で見た遺跡にあるようなんだが……、オレもこの目で見たからね。あの天井画を。」
「藤田氏はその天井画で怪獣どもに囲まれてた『ごちゃごちゃしたもの』こそ『疫病』の意味だと言ってるが……、自分の目で見たオマエとしてはどう思う?」
「さすがは藤田先生だと思うよオレは。」タバコのヤニで褐色に染まった報道部の天井を、あの天井画のように見上げて言った。
「……『中央の何かがごちゃごちゃしていて具体的に描かれていないのは、具体的に描きようが無いものだったから、つまりは微生物かウィルスだ』って説は、ちょっとオレには考えつかなかった。」
「藤田氏の説だと、その天井画とやらは『怪獣たちのなかに恐ろしい細菌かウィルスが潜んでいる』という意味なんだよな。」
「そうさ。そしてウィルスに侵されたギャオスは一種の病理現象として共振爆発を繰り返す。その爆発で、ウィルスは更に拡散する。スジは通ってるだろ?
そうは思わないか?」


216 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 07:53:18
20−2.
「うむ……。」短く答えた天城だが、その表情はあきらかに納得がいかないというふうだった。
「……どうした?何か気になることでもあるのか?」大塚の口調が微妙に変化した。彼は天城という男のある種の嗅覚に一目も二目も置いていた。
(こいつのこの態度には何か裏がある!)その内心が声に現れたのだ。
「おい!どうした天城?返事しろよ!?」
旧友は短く答えた。「いまは……言えない。まだ調べてみなくちゃならんことがあるんだ。確証が挙がったら……そのときはオマエに真っ先に知らせる。だから今は……。」
「そうか……わかった。」この男が、そんなふうに言ったらそれでこの話は打ち切りだ。大塚は長年の付き合いでそれを良く知っていた。
「……しかし不思議だな。世間様がもろ手を上げて政府の動きを歓迎してるってのに、このオレの周りにばかり『ひねくれもん』が二人もいやがる。」
「二人も?……ボクの他にも政府や藤田さんの見解に疑問を感じてる人がいるのか?」
「それがいるのさ。小川のやつだよ。アンタも知ってるだろ?」
「ああ、オマエご贔屓のあの娘か。」
「人聞きの悪い言い方するなよ。」
「…それで、彼女は何て言ってるんだ?」
「それが傑作なのさ…。小川のやつは今回の新型インフルエンザ騒ぎを、ウォレスとかいうイギリス人の仕業だって思ってるのさ。」
「………それじゃ小川くんはこの騒ぎをバイオテロだとでも??」
「ところがそうじゃないんだ。なにせこのバーナード・ゴードン・ウォレスって大佐は、100年以上も前に死んでるはずなんだからな。」
わっはっはと大声で、大塚は笑った。

このときは、相手が一週間とたたぬうちに新型インフルエンザの魔の手にかかるとは思ってもいなかった。


217 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 07:56:11
21−1.藤田
大塚が旧友天城と会っていたころ、小川は政府の対ギャオス・新型インフルエンザ対策センターを尋ねていた。

「……それでは藤田先生は、まずギャオスを殲滅すればこの新型インフレエンザの蔓延は防げるというお考えなんですね?」
「そうです。ギャオスが現れると少し遅れて新型インフルエンザが現れる。新型インフルエンザが蔓延しているエリアはどこでも同じこのパターンです。」
「そのことはあの失われた遺跡の天井画にも警告されていたと?」
「そうです。」小川に向かって頷いたあと、万石はおもむろにカメラ目線で語り掛けた。
「……かつてロンドンをペストが襲ったとき、ロンドン市民を救ったのはなんと『ロンドン大火』でした。多くの犠牲者を出した大火事がペストを媒介していたネズミも殺したからです。
我々も同じことをしなければなりません!新型インフルエンザを撒き散らすギャオスを、殲滅するのです。」
「……どうもお忙しいなか、本日はありがとうございました。」
小川がかしこまって頭を下げインタビューの収録は終った。
カメラが止ったとたんに、藤田の様子が親しげなものに変わった。
「いやぁ、驚きましたよ。あなたの局からの取材とは聞いてましたが、小川さんがインタビュアーだったとは…。」
小さく微笑んで小川も答えた。
「アフリカの空港でお別れして以来ですね。先生が帰国されたとき、空港までお迎えにあがれなくてすみませんでした。」
「仕事があったんでしょ。大塚さんから聞きましたよ。それより残念でしたね、あの番組、お蔵入りだそうですが。」
「仕方がありません。フィルムも無くなってしまいましたし、それになにより人が……。」
……多くの若いスタッフたちが命を落としたのだ。


218 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 07:58:31
21−2.
命を無くしたスタッフらに対し黙祷するように藤田が目を閉じると、小川もこれにならった。
二人だけの短い黙祷が終ると、小川は取材クルーとともに立ち上がりいったんは藤田に背中を向けたが、戸口のところで振り向くなり思いつめたような表情で切り出した。
「あの……先生に個人的にお尋ねしたいことがあるんですが。」
「……ん?なんでしょうか?私に答えられることならなんでもどうぞ。」
「その………ウォレス大佐について、ご存知のことを何でも教えていただけませんか?」
「ウォレス大佐について……ですか?」怪訝な顔をしながらも、藤田は応じた。「……皆の前で話した内容に付け加えるようなことは別にありませんよ。
………バーナード・ゴードン・ウォレス、英国陸軍歩兵大佐。己の欲望にだけ素直に従った男です。社会道徳や宗教、法律など糞喰らえと思っていました。………そんなところですかな。」
「それでは……ファン・リーテンという人物……たぶん男性だと思うんですが……ご存知ありませんか?」
この名前には、藤田も意表を突かれたといった風だった。
「…いいえ。そんな名前は全く知りませんね。ところで小川さん。キミの質問に答えたんだから、今度は僕の質問に答えてください。」
「は、はい、なんでしょうか?」
「小川さん。何故今ごろウォレス大佐について知りたいと思われたんですか?」


219 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 08:02:58
21−3.
「……実は私……今回の事件の裏にはウォレス大佐がいるような気がしてならないんです」
二度にわたる「ファン・リーテンになった夢」や、「ウォレス」という文字が突然現れたこと、そして未明に訪問者があった?こと……。
堰を切ったように小川は総て藤田に話してしまった。
「………で、その何者かは、その後アナタの家を訪れているんですか?」
「…いいえ。」
「そして一週間前の夜のときも、その何者かが立ち去った気配はとくに無かったと?」
「…はい」
「ドアの覗き窓から外を見てみましたか?」
「いいえ。……あの、私……、怖かったから……。」
「判ります。よく判りますよ。でも……よく聞いてくださいね。僕はやっぱり、『訪問者』の件は小川さんの気のせいだと思うんです。
まず……午前3時半か4時ごろといえば、まだ真っ暗のはずです。まさかギャオスの飛び回る真夜中に出歩く人がいるとは思えません。」
藤田の言葉を聞き、泣きそうな顔で小川は俯いてしまった。
「大塚さんにもそう言われました。ひょっとすると私……おかしくなりかけてるのかもしれません。
でも…、何かが私に警告してるような気がするんです。『暗躍しているのはウォレスだ』と。」
「でも小川さん。ウォレスは19世紀の人間です。もし今も生きていたら百数十歳にはなるはずですよ。そんなことがあると思いますか?」
「それはわかります。でも…。」
「僕は、あの石棺にミイラといっしょに押し込められていた白骨。あれがウォレス大佐たちのなれの果てだと思いますね。」
「……では、ウォレス大佐たちを殺したのは誰なんでしょう?」
「所詮は悪党同士です。仲間割れの可能性が強いんじゃないでしょうか??」
悲しそうな、しかしそれでいて安心したような矛盾した表情で顔をあげる小川。
締めくくるように藤田は言った。
「…消えた探検隊についての不気味な伝説、謎の地底遺跡と天井画、石棺に押し込まれた二つの死体、そしてギャオス……どれ一つとってもインパクトの非常に強い特異な経験です。
それらが渾然となってキミに悪夢を見せた。……僕はそう思います。………今日はこのあと家に帰るんでしょう?」
「そのつもりです。」
「それがいい。安心できる自宅で、ぐっすりお眠りなさい。」

220 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 08:04:39
22−1.三度目の夢
藤田に一礼して退去した小川だったが、しかしマンションの自室には帰れなかった。
インタビューの編集作業に手間取っているうちに、日が傾きすぎてしまったからだ。
対ギャオスの防空網が敷かれていたとはいえ、日が沈んでからの外出は好ましくない。
もともとテレビ局は不夜城であり、ギャオスが出没するようになってからは局での夜明かしは常態化しつつあったので、小川もそれに倣うことにしたのだが……。
その夜、小川はまたも不思議な夢を見た。


221 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 08:05:52
22−2.
はあっ…はあっ…はあっ……
迷路のような巨大な高層ビルの中を、黒人の男性が必死に逃げつづけていた。
白衣をまとい胸にネームプレートを着けているところを見ると医師のようだが、目が血走り涙を流しながら走るさまは只事ではない。
不思議なのは、かなり大きくモダンな作りの建物なのに、逃げども逃げども誰にも行き逢わないことだ。
「へ、ヘルプ……」
男の唇から助けを求める声が漏れたが、それに応える者は誰一人いない。
まるでこの巨大なビルの中で、生きている人間は彼一人しかいないようだ。
「ヒイッ!」
短い悲鳴を上げ、突然彼は立ち止まった。
彼の行く手の廊下に、何かを引き摺ったような赤い縞模様が走っていたからだ。
赤い縞模様は、彼の2メートルほど先にある左手のドアから出てきて、10メートルほど向こうにある右手側のドアへと消えている。
男が凍りついたように立ち尽くしていると、その右手側のドアが音もなく開いたかと思うと、中から黒い『髪の毛』か『吹流し』のようなものが音もなく漂い出てきた。
「……オォ マイ ゴッド…」
すすり泣くようにそれだけ言うと、男は元来た方へといっさんに駆け戻った。
彼が踵輪返して走り出すと同時に、その背後で奇怪な嬌声が湧き上がった。
男は叫んだ。「ヘ、ヘルプ!ヘルプ・ミー!」
だが、それを嘲笑うかのように「愉しくて愉しくてたまらない」といった感じの笑い声が、追いかけてきた。
男が前を駆け抜けると閉まっていたドアが次々開き、そのそれぞれから新たな嬌声が溢れ出す!
もう男の後ろは嬌声の洪水だ!
「ジ、ジーザス……。」
その階層の案内図の前を彼は駆け抜けたが、自分の走る先が展望用ガラスエリアとなっていて行き止まりであることに気づく余裕は無い!
……そして、彼は短い階段を駆け上がると、広大なガラスに囲まれた空間に飛び出した。
普段なら、そこから青さを競い合う空とミシガン湖の湖面が見渡せる場所だ。
だが、そのとき黒人男性が見たものは……。
広大なガラスエリアを圧す黒い巨体!僅かに湾曲した白い牙!そして巌のような甲羅!!
男のすぐ後に迫っていた嬌声が、突如悲鳴に変わる!
次の瞬間、ガメラの口から巨大な火球が飛び出した。

222 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 08:07:05
22−3.
唸りを上げて火球が飛んで来た瞬間、小川は仮眠室のベッドから飛び起きた。
(夢よ。もちろん夢よ。)
そう自分に言い聞かせるが、100メートルを全力疾走した直後のように心臓が跳ね回り、体はバケツで水を被ったように汗でびっしょり濡れている。
それに「ファン・リーテンになった夢」とは違うが、負けないくらいにリアルな夢だった。
(……だめ…、ちょっと眠れそうにないな……)
寝直すことを諦めた小川は、仮眠室で眠っている他の仲間を起さぬよう気を遣いながら、簡易ベッドの上に起き上がった。
そのとき、外の廊下を誰かがけたたましい靴音で駆け抜けた!
小川は驚いた。眠っている仲間がいるのだから、仮眠室の前の廊下は走らないのが不文律になっているはずなのに…。
だが、小川の驚きはすぐにべつのある予感に取って代られた。
タン!タン!タン!タン!
大きな靴音が一人!二人!三人!次々駆け抜けていく!
(…なにか事件だわ!!)
寝間着代わりのスウェット姿のまま小川は廊下に飛び出すと、丁度通りかかった局員のあとについて駆けだした。


223 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 08:08:59
22−4.
先を行く同僚たちの行き先はやはり報道部だった。
テレビの前は大変な人だかりで、このあいだパリ壊滅を写していたテレビが今度は巨大な高層ビルを映し出していた。
ヘリからの空撮らしく、映像がブレながら左から右に動いていく……。
突然ビルの中ほどが真っ赤になったかと思うと、次の瞬間支えを失ったビルの上部がダルマ落しのように崩れ落ち、ビルの向こうにいた巨大な姿が露わになった!
「あ、あれはガメラ!なんでガメラが!?」
小川の悲鳴に、前のほうにいた男が振り返った「そうさ、ガメラさ。つい10分ほど前、デトロイトの街を焼き払ったときの映像だよ。」
画像とともに悲鳴のような英語が流れてくる。
「『なんでガメラが!ガメラよ!おまえは人間の味方ではなかったのか!?』ってさ、もう泣き喚いてるよ。」
「冷静さを無くしたら、報道は成り立たん!」
「でも……判る気がするぜ。」いっせいにしゃべり出す同僚の局員たち。
だが彼等の言葉も、小川の耳には全く届いていなかった。
彼女の心は、いわば別世界に飛んでしまっていたからだ。
眩暈のような感覚の中で小川は何度も同じ問い掛けを繰り返していた。
(さっき私が見た夢は、……この光景だったの!?この光景をビルの中から見たの!?)

224 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 08:10:22
23−1.もうひとつの惨劇
「ガメラは……その後何処へ行ったんですか?」
翌朝早く、大塚の運転する車の助手席で小川は尋ねた。
ショックのあまり真っ青になった小川を見た大塚は、彼女に休みを取らせ、自宅まで送ってやることにしたのだった。
ハンドルを握り、前方を見据えたままで大塚は言った「……そういうことはもう考えるな。」
「すみません大塚さん……送ってまでいただいてるのに……。」
「そういうことも気にするな。」小川の横顔をちらっと一瞥してから大塚は言い足した「……多少は顔色も良くなったみたいだな。」
「……すみません。」ひたすら恐縮するばかりの小川だ。
「ここで右に曲がるんだな?」
「あ、は、はい。そうです。次の信号で左折してください。」
大塚の運転する軽四輪駆動車は大きく右に傾きながら路地へと曲がり……そこで大塚は急ブレーキを踏んだ。
曲がってすぐのところで、狭い路地はパトカーと警官に塞がれていたのだ。
新型インフルエンザが流行りだしてからというもの通勤など止むをえない場合以外、人ごみは忌避されるようになっていたにも関わらず、少なからぬ人数の野次馬も集まっていた。
「小川、オマエちょっとここで待ってろ。」
事件の臭いを察知した大塚は、一人で車を降りると交通規制していた若い警官に歩み寄り尋ねた。
「すみません。あそこのマンションの住人なんですが、何かあったんですか?」
「住人?」詮議する眼差しで警官が言った。
「いや、正確には私じゃなくて…」大塚は自分の車に向かって軽く顎をしゃくって言った「……あの娘が住人なんですが…。」
車の中で小川がペコリと会釈した。
その顔色の青さが、「事件発生に怯える住人」というふうに見られたのだろう。
警官は明らかに同情的な雰囲気になり、大塚に話す言葉も気持ち砕けた感じに変わった。
「ひどい事件が………ありましてね。」


225 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 08:11:35
23−2.
「つい1時間ほど前、マンション住人から通報があったんです……。」……と若い警官は話した。
午前5時少し過ぎ、ギャオスの出る時刻も過ぎたので近くの自販機に買い物に行こうとした住人が、一階管理人室のドアの下から鮮血が一筋細く流れ出ているのに気がついた。
すわ「ギャオスに襲われたか!?」と慌てた住人は管理人室の呼び鈴を鳴らし、かなり激しくドアもノックしたが返事は無い。
そのうち騒動に気がついた他の住人も何人か出てきて、そのうち一人が表に回って窓から除いてみたら……。
血まみれの室内が見えたので、即座に110通報したというのだった。
「管理人の老夫婦が二人とも………口じゃとても言えないよ。ゾンビにでも食われるほうがまだましだ。折角インフルエンザを免れてたのに……。」
若い警官はそれだけ言うと発作的に十字をきって口のなかで念仏を唱えた。
いつもの大塚なら「宗教ぐちゃぐちゃだぞ!」と突っ込むところだが、警官の強張った表情がそれを押し止めた。
警官の顔に浮かんでいたもの。
それは悪夢を見た幼子が見せるような、「恐怖」そのものだったのだ。

止む無く一本外の広めの通りに戻って車を止め、小川と大塚は徒歩で小川のマンションへと向かった。
さっきの警官に挨拶して道を開けてもらうと、急ぎ足でマンションのなかへ…。
惨劇の舞台となった管理人室の前は殆ど走るように抜けると、二人はおりよく停止していたエレベーターに飛び乗った。
「……すみません」
小川が呟いた。
いったい何が「すみません」なのかさっぱり判らなかったが、大塚は静かに答えた「…いいんだ。」
4F……5F……6F……7Fでエレベーターが開いて廊下に出たとき、小川はもう部屋の鍵を手にしていた。
エレベーター降りるとすぐ前が、小川にとっての安息の地、自分の家だ。
ドアに駆け寄って鍵穴に鍵を差し入れ…………ようとしたとき、小川の手が動きを止め、指のあいだから鍵が滑り落ちた。
……ドアが細めに開いているのだ!
大塚は小川の肩に手をかけて脇に寄らせると、低い声で「ここで待ってろ」と彼女に命じ、土足のままで小川の部屋に踏み込んだ。
室内は………メチャクチャに荒らされていた。明らかに何者かに家捜しされたのだ。

226 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/22(木) 08:13:29
23−3.
一階で捜査に当たっていた警察に通報し、一通りの事情聴取を受けると大塚は小川を伴って放送局へと引き返した。
得体の知れない相手に荒らされた部屋に、小川を一人で置いていく気にはなれなかったからだ。
大塚は何か引っ掛かるものを感じていた。
同じひとつの夜に、小川の部屋に何者かが侵入し、同じマンションの一階では管理人夫婦が殺された。
二つの事件は無関係に起ったものなのだろうか?
大塚は謎の侵入者が部屋を荒らしたとき、壁から落ちて壊れたと思しき掛け時計に気がついていた。
文字盤が示す時刻は三時半。
そして一回の殺人が発見されたのは午前5時。
その間わずか一時間半しかない。
それからもう一つ。
大塚はだれに言うでもなく呟いた。

「侵入者は、小川の部屋にどうやって侵入したんだ?」

素人目には鍵を外からいじったようには見えなかった。

(だが……鍵を使ってドアを開けたなら、そのとき使った鍵はどこから手に入れられたのか?

小川は自分の鍵をちゃんと持っていた。この目で見たのだから間違いない……とすれば……。)
大塚はまず警察の内部動向に詳しいある男と連絡をとり、管理人夫婦殺人事件に関する情報収集をとるよう依頼。
そして電話を切るなり、ついさっきイスの背にかけたばかりの上着を引っ掴むと、またもオフィスを飛び出した。


227 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/02/22(木) 22:46:02
やりすぎ。
ページでも作ってやった方がいいんじゃね?

228 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/02/23(金) 00:18:56
少なくともオレはwktk

229 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 08:23:38
>>227
自分でもやりすぎだと思う(笑)。
たぶん、この手の駄文を構成できるのは最後になるかと…。どうも昼休みが事実上なくなりそうで。
だからここで投下した前14作の総括であり、このスレからのサヨナラ作として構成した。
スレを私物化して申し訳なく思う。

230 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 08:39:59
24−1.万石
大塚がオフィスを飛び出したころ……。
ガメラ騒ぎで局の職員が忙しく行交うホールの隅で、呑めもしないコーヒーの入った紙コップを手に小川は小さく縮こまっていた。
もう何がなんだか判らない。
奇怪な夢。身近にヒタヒタと迫る新型インフルエンザ、殺された管理人夫婦、荒らされた部屋、そしてガメラの「裏切り」。
(……違うわ。ガメラは私たちを裏切ってなんかいない。きっとガメラは……)
小川にとって、一連の事件の中で「ガメラは裏切ってなんかいない」ということだけが、唯一すがれる真実だった。
……小川の体が更にいっそう縮こまる……その小川の肩にポンと軽く手が置かれた。
「コーヒー、飲めないんじゃなかったんですか?」


231 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 08:53:10
24−2.
「向こうの自販器ならレモンティーが出ますですけど……。」そう言って万石は廊下の奥を指差した。「……たしか好きでしたんですよね?紅茶が?」
「……いえ、これでいいんです。」
もう冷めたコーヒーのカップを手に小川が更に小さくなり、(あっちに行って)というつもりで万石に気持ち背中を向けた。
だが、拒否の姿勢を示す小川の背中に向かって、万石は更に語りかけた。
「お家に酷いことされたそうですね。さっき局の人から聞きましたです。ショックだったでしょう。」
もう万石は小川の肩に手をかけたりはしなかったが、その言葉はさっき肩にかけられた彼の手に負けず暖かだった。
「人が沢山いるところに居たいんですね。判りますよ、その気持ち」そう言って万石はとってつけたようにウシシと笑った。
「……え!?」

「人が沢山いるところに居たいんですね。判りますよ、その気持ち」………その言葉の意味に小川は気がついた。

半年前、自分や万石らが帰国したときの光景を、小川はまざまざと思い出した。
夫が手に大怪我をしたと聞き、心配顔で空港まで迎えに来た万石の妻子。
手に巻かれた白い包帯を見て泣きそうな顔をしていた妻。
「自分が持つ」と言い張って、父の手からひったくるように重い旅行バッグを奪い取った息子。
たしか……俊枝とノブユキといったはずだ。
3人がまるで一塊の存在のように見えたものだった。
だがそれから僅か一月半もたたぬうちに、小さな家族は無残に叩き潰されてしまったのだ。
疫病の魔の手によって。


232 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 08:54:11
24−3.
万石の妻子は新型インフルエンザの魔の鎌によって一薙ぎにされてしまった。
死なずに済んだのは不幸中の幸いだったのか?それとも……。
俊枝とノブユキはいわゆるインフルエンザ脳症と呼ばれる植物状態になってしまっていた。
(「……判りますよ、その気持ち……」)
小川は万石の言葉を心の中で繰り返した。
(万石先生は……いまも目覚めることのない俊枝さんやノブユキくんが収容されてる医学部の研究棟に寝泊りしながら3人で暮らしているんだ。それにくらべたら私なんて……。変な夢を見たり、家が荒らされたりしただけじゃない……)
小川は自分が随分酷い人間のような気がしてきた。「……す。すみません。」
「すみませんなんて……。…小川さん、ワタシに謝らなきゃならないようなこと、何かしましたか?うししし……」今度のうしし笑いは、さっきよりもちょっとだけホントに愉快そうに聞こえた。
出っ歯にメガネの小男、ちょっと気持ち悪い人、これまで小川はそんなふうに万石を見ていた。
(でもそれは見かけだけ……この人、ホントはとっても優しい人だったんだ……そして……とっても強い人。)
小川は大塚から聞いていた。「万石先生は妻子を介護するため、助教授の職を辞した」と。
(奥さんとお子さんが回復することだけを信じて今も独りで頑張りつづけてるんだ……。)
そう思ったら、またいつもの口癖が小川の口から勝手に飛び出してしまっていた。
「すみませ……」
とうとう万石は笑い出した。
「ふひひひひひひ………ホントに謝るのが好きな人ですね。そんな性格でよくテレビの仕事が……ひひひひひひひ。」
「ホント。変ですね、私。……ふふふふ」
ホールにいた者の何人かが驚いたように笑い声の主を見つめた。
それほどに愉しげな笑い声だった。


233 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 08:55:27
24−4.
万石がテレビ局を訪ねてきたのは、大塚が例の遺跡の天井に書かれていた碑文?の資料を持っていないか?と思ったからだった。
「……ひょっとしたら携帯の画像か何かに残してられるかもしれないと…。あの中に、この新型インフルエンザと呼ばれている病気について、何かかかれていないかと思ったものですから……。」
「そうですか……でも残念ですが。」
大塚もテレビ局も、碑文?の資料は持っていなかった。
あのとき撮影された記録は、ギャオスが起した共振爆発で破壊されてしまっていたのだ。
「そうですか……。」目に見えて落胆したようすで、万石はノロノロ立ち上がった。
碑文?の記録が残っていないなら、ここには用は無いのだ。
(……奥さんとお子さんのところに帰るのね……)
肩を落として背中を向ける万石。その姿に、小川の胸がたまらなく痛んだ。
「あの…万石先生!」
小川は自分のDバッグを胸に抱いて立ち上がると、中から取り出した何かを万石に差し出した。
「……先生、こ、これを持って行ってください。」
万石は、小川の掌に載った物を見て不思議そうに言った。
「この石は……いったいなんですか?」
「これは私の……そう、お守りみたいなものなんです。」
小川が自分のDバッグに入れたまま肌身離さず持ち歩いていた「お守り」。
それは携帯電話くらいの大きさの、平たい灰色の石だった。

234 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 08:56:57
25−1.血は流れていた…
一方……オフィスを飛び出した大塚は、その40分後には再び小川の住むマンションを見上げていた。
さっきの警官に挨拶してマンションに入ると、こんどは7Fにある小川の部屋ではなく、惨劇の舞台となった管理人室へと向かった。
管理人室のドアの前で私服の男と制服警官がボソボソ言葉を交わしていたが、制服警官は小川の部屋への不法侵入のしらべにやって来た男だった。
(やっぱりそうなのか。)
「……ん?あなたはたしか……。」
制服警官が大塚の姿に気づいたのを良い機会に、大塚は二人に歩み寄った。
「7Fの小川の家でお会いしました大塚です。…これを見せないのはフェアじゃないと思うんで……。」
大塚は自分の名刺を差し出した。
「報道関係の……。」
明らかに警戒の色を浮かべた制服警官に大塚は言った。
「今言ったように、フェアじゃないと思うから出しただけです。ここにいる私はあくまで私人。報道するためここにいるワケじゃないですよ。」
「それで……私人として何か御用ですか?7Fの小川さん宅の不法侵入ではなく、1Fの殺人に?」
「さすが鋭いですね。じゃあ……単刀直入に窺います」大塚の顔から笑みが引っ込んだ「……管理人夫妻は、小川の部屋の鍵を奪うために殺されたんじゃないですか?」


235 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 08:59:00
25−2.
(やはり……思ったとおりだった)車のハンドルを握り、局への道を走りながら大塚は考えていた。
事件のコアは1Fでの殺人ではなく、7Fの小川宅への不法侵入だった。
1Fの殺人現場に7Fの住居侵入の警官が呼ばれていたのもそのためだったのだ。

私服刑事は言った。「……家捜しの仕方から見てホシは素人。そして鍵は素人のこじ開けが難しい内溝式だ。」
私服が話しだしたのを見て、制服警官も口を開いた。「最近はギャオスの危険やインフルエンザ騒動もありますから、大抵の人が家に早く帰ります。
昨夜も、7Fの他の部屋には住人が帰っていました。ですから強引に701号室、小川さんの家のドアをこじ開けるわけにもいかなかったはずです。」
「だから犯人は……」乾いた声で大塚は言った「……管理人室のマスターキーを狙って管理人夫妻を……。」
こくりと頷いて制服も言葉を続けた。
「……一Fには駐車場と駐輪場、ゴミ置き場といった共用部分しか無く、管理人夫婦以外に人は住んでいません。しかもギャオスが出るから夜になったら人の出入りは完全に途絶えてしまいます。そこで管理人室のドアをこじ開けて……」
「……一つどうしても信じられないことがある。」私服が思い出したように付け足した。「……その手順だと管理人室に押し入るのが当然先だ。そして701号室に侵入したら、もう管理人室には用は無いはずだ。」
「当然そうでしょうね。」
青い顔をして、ゆっくりと私服が言った。「……発見者によると、ドアの下から赤いのが一筋、ゆっくり流れ出てきたんだそうだ。」
「…それが何か?」と言いかけて、大塚は私服刑事の青褪めた表情の意味に気がついた。
小川の家に不法侵入があったのは午前3時半前だ。
だから管理人夫婦が殺されたのは当然それ以前のはず。
だが…、それでは血は流れない。とっくに凝固が始まって流動性を失っているはずなのだ。
血の気の退いた顔で私服は吐き捨てるように言った。
「ヤツは戻ってき来やがったんだ。703号室を家捜しした後にな!それからゆっくり時間をかけて……心臓を……。」
気分でも悪くなったか、制服警官が口元を抑えて後ろを向いた。

「小川だ!この人食い悪魔は、小川に用があったんだ!」
小川の待つ放送局に向け、大塚は車のスピードを上げた。

236 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:25:55
25−3
局に戻った大塚を、待ち構えていたように電話が鳴った。
警察の動向を調べるよう依頼した相手からで、その答えは大塚が半ば予想していたとおりのものだった。
ある種の犯罪は連続性がある。管理人夫婦殺しに強い猟奇性を見てとった大塚は、同種の事件が起きているに違いないと予想した。
結果は……都内で二件、千葉で一件。極めて猟奇性の強い殺人事件が発生していた。
「空にギャオス、街には新型インフルエンザと殺人鬼か。アメリカにはガメラも出てきたそうだし、オールスターキャストだな。」
『……茶化すな』電話の声は言った『……ここまで狂った犯罪が都内で起ったなんて信じられん。犯人は間違いなく人体の急所というものを熟知してるそうだ。』
「プロというわけか?」返事をしながらながら大塚は、(小川の言ってたウォレスとかいうやつは確か職業軍人だったよな)と考えていた。
『そうかもしれん。一撃で相手の抵抗を抑圧しておいて、あとはチビチビ引き伸ばして楽しむのさ。そして最後は……』
「……心臓か。」
「……!!」
電話の向こうで相手が息を飲んだのが判った。
電話口で待つことたっぷり数秒……相手はやっと口を開いた。
『……知ってるのか。』
「ああ、」と大塚。「さっきの都内で発生した件数だが、二件から三件に訂正だ。」
短く礼を言って大塚は受話器を置いた。
「間違いない。テッド・バンディやゾディアックみたいなヤツだ。これからも続くぞ。」

大塚の予想したとおり、つぎの夜も事件は起こった。
ただ、それは大塚の予想もしていなかった場所でだったのだ。

237 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:29:09
26−1.出現
大塚が情報を求め都内を走りまわり、小川が万石に「お守り」を手渡していたころ……。
米国防総省は、デトロイトを壊滅させた後ミシガン湖に姿を消したガメラの行方を必死に追い求めていた。
「……まだ見つからんか?」指揮官らしき男が歯噛みしながら、側の副官らしき男に尋ねた。
「見つかりません。」
「あるいは……もうミシガン湖にはいないのではないか?」
「五大湖のほかのどれかに移動したと仰るのですか?」
「あるいはセントローレンスを抜けて大西洋に逃げたか……。」
二人の前では、通信員らしき大勢の男たちが各地に展開した米軍からの連絡を受信していた。
副官は応えた。「空を飛んではいません。飛べば我々や各地の空港のレーダーに捕らえられたはずです。それにあれだけの巨体が白昼セントローレンスを下れば、見つからないわけがありません。……ヤツは必ずミシガン湖のどこかに潜んでいるはずです。」
「ぐううっ……」
指揮官がまるで熊のような声で苛立ちを露わにしたとき、通信員の一人が指揮官を振り返るなり叫んだ。
「で、出ました!」
「うぉおっ!ヤツが出たか!?場所はどこだ!?ミシガン!?それともスペリオル?オンタリオ?」
「いえ!太平洋です。」
「た、大平洋だと!?」「なんでガメラがそんなところに!?」
狼狽する指揮官と副官に通信員は報告した。
「太平洋に出現したのはガメラではありません…ゴジラです!!」


238 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:30:17
26−2.
米海軍は、空母や潜水艦といった長期間単独での作戦遂行能力を有する艦船については、艦内への悪疫侵入阻止の観点から、洋上待機を命じていた。
そうした艦船の一隻、空母ジェラルド・フォードがカリフォルニア沖の公海上で現地時間の14時17分SOSを受信。
発信元はパナマ船籍の豪華貨客船「ビッグメロン」。
蔓延する悪疫を恐れた米国の大富豪が、洋上で篭城するため仕立てたいわば要塞船だった。
GFはただちに艦載ヘリを発進、現場に急行させたが……。
15分後の14時32分、現場海域に到着したヘリの乗員たちが目にしたものは、いままさに炎を上げながら海中に没しようというビッグメロン、そして同じく海中に姿を消した「特徴的な背びれ」だった。
「間違いありません。」
ヘリのパイロットは艦に戻って報告した。「…間違いようがありません!あれはゴジラの背びれです!ビッグメロンを沈めたのはゴジラです!」

ゴジラのカリフォルニア上陸を警戒した米軍は、東太平洋で洋上待機していた全艦体を周辺海域に呼び戻し、陸上には連邦兵と州兵を展開させた。
もちろん狙いは水際でのシャットアウトである。
空を飛べるギャオスやガメラと違い、ゴジラが内陸部まで進攻するには必ず海岸線を通らねばならない。
そこを徹底的に叩いて海へと追い返すのだ!
名前に「神」を意味する文字「GOD」を持つ怪物が勝つか?
それとも、世界最強と自負する軍隊が勝つか?
そのときは目前に迫っていた。


239 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:32:55
27-1.万石宅にて…
ゴジラの北米上陸が刻一刻と迫っていたころ……。

「ただいま。」

静まりかえった部屋に、万石の声が木魂した。
小川の勤める放送局を出たあと、少し前まで籍のあった大学に顔を出して知り合いの医学部教授と会い、ついでに大学のコンピューター端末を借りて新型インフルエンザに対する最新の情報を集め、ギャオスが跳梁し始める日沈ギリギリでなんとか自宅に滑り込めたのだ。
コートを脱いで玄関の床に放ると、万石はそのまま居間へと向かった。
以前なら、妻の俊枝が「まあ、だらしのない」とでも言いながらハンガーに掛けてくれたものだが、いまはそのままだ。
出迎えに飛び出して来るノブユキの姿もない。
南に面した家で一番日当たりの良く暖かい居間が「俊枝とノブユキの部屋」、より正確には「俊枝とノブユキが寝かされている部屋」だった。
「…ただいま」
返事を催促するようにもう一度繰り返したが、返事がないのは承知のうえだ。
そしてたぶん、もう永遠に返事が無いであろうことも……。
それでも万石は、眠ったままの妻子にその日一日あった事々を話して聞かせるのを日課としていた。


240 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:34:22
27−2.
「研究は……全く進んでいないですよ。ウィルスを発見することすらできてませんです。新型のインフルエンザと言われてるですが、ホントにそうなのか、疑わしくなってきたですよ。」万石は俊枝の枕もとに腰を降ろし話かけた。
「……例え新型のウィルスであろうと、現代科学で見つからないはずは無いんですけどね。」
「それから……」万石は途中買ってきた夕刊を広げた。「……アメリカにガメラとゴジラが出たそうですよ。デトロイトは壊滅だそうです。あそこはアメリカで最初に新型インフルエンザが入った街だったですけど、災難は続くものですね。」
薄っぺらな新聞には他に記事らしい記事も無く、話して聞かせることなどアッというまに無くなってしまった。
「それじゃボクはお粥を作ってくるですよ。……ほんのちょっとだけでも、食べてくれるとすごく嬉しいですけど…。」
……でも食べてくれるはずなどない。結局は栄養剤の注射と点滴に頼るほか無いのだ。
俊江とノブユキの枕もとから立ち上がろうとしたとき、万石はズボンのポケットに異物感があるのに気がついた。
手を突っ込んでポケットから引っ張り出してみるとそれは、小川からもらった「お守り」の石であった。
微かな笑みを浮かべると万石は俊江の枕もとに座りなおした。
「ひとつ言い忘れたことがあったですよ。小川さんという女の子から『お守り』をもらいましたです。」
話しながら万石は、灰色の石の表をそっと指で撫でてみた。オカリナのような窪みが全部で八つあるが、吹き口が無いから笛のはずはない。
「ちょっと不思議な感じの石です。小川さんがあの『大穴』の縁で拾ったんだそうで……。」

241 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:35:39
28−1.激突!?
軍事衛星、水上艦、潜水艦、対潜ヘリなど、考えられる限りの手段をもって、米軍はゴジラの所在と移動進路をほぼ正確に把握していた。
早期に「ゴジラの米本土上陸は必至」と判断した米軍は、その目標をカリフォルニア州内の原子力発電所と読み、途中の砂漠地帯に十重二十重の防御ラインを組み上げた。
日本でもゴジラ対策として有効だった放電壁、そしてその前には新兵器の電撃地雷を敷設。
電源は攻撃目標と考えられた当の原発から供給されることになっており、必要とあらば周辺地域への送電もストップすることすら許されていた。
そして電気的防衛ラインの背後には大小の火砲と戦車が展開。
戦闘機・爆撃機・対地攻撃機も滑走路上で待機体勢をとり、電撃で足止めされたゴジラを徹底的に叩くこととされていた。
世界最強の国の威信を掛けた鉄壁の防衛網。
ゴジラがやって来れば徹底的に叩きのめして追い返せるはずだった。
………だが。



242 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:36:32
28−2.
「ゴジラの進路はどうなっている!?」大統領専用機エアフォ−スワンの機内で、副大統領……いや大統領が既に病死していたので大統領に昇格していたのだが……は、国防長官に尋ねた。
「いまのところ真っ直ぐのままです。」と国防長官。
「まだ真っ直ぐなのか?そのままだと…」
「そのままだとあと5キロでサンフランシスコです。しかし、あそこにはゴジラのエサになるようなものはありません。」
大統領と国防長官の会話に、補佐官が口を挟んだ。「これまでもゴジラは単純に直線的なラインで上陸したことはありません。生物ですから必ずある程度は蛇行します。それだけに上陸地点の予測が難しいとも言えるのですが…。」
「いずれにしてもゴジラはシスコには上陸しません。」国防長官は煩そうに補佐官の言葉を遮った。「……最悪の場合はプルトニウムのカプセルをヘリに吊るして、防衛ラインまでヤツを誘導します。」
眉間に皺を寄せ腕組みする大統領。
「失礼します」そのとき無線室から空軍の制服を来た男が入ってくると、敬礼とともに大統領に報告した。「……ゴジラが移動速度を急激に上げたとのことです。」
「速度を上げた!?……進路は?!」
「……依然そのままです。」
拳でデスクを軽く叩くと大統領は命じた。
「プルトニウムによる誘導を始めてくれ。」


243 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:37:35
28−3.
ゴジラを誘導するという命懸けの危険極まりない任務を負ったヘリが空母の甲板から飛び立っていった。
パイロットはもちろん志願者であり、生きて帰ろうなどとはカケラも思っていない。
「来いゴジラ!食いついて来い!シスコ市民全員の身代わりになって名高いテメエの犠牲になれるんなら本望だぜ!」
プルトニウムと命知らずを載せたヘリは、海中のゴジラの気を曳こうと海面ギリギリの低空飛行を繰り返した。
だが、何故かゴジラはまったく食いついてこなかった。

「ゴジラの進路、全く変わりません!約30分後、間違いなくヤツはサンフランシスコに上陸します!」
通信員が地上からの連絡を伝えるとエアフォースワン内はパニック状態に陥った。
「なんでだ!なんでゴジラは進路を変えんのだ!?プルトニウムはヤツの好物のはずだぞ!?」と報道官。
大統領は叫んだ「国防長官!軍を急いでサンフランシスコに移動させるんだ!」
「ム、ムリです!」と国防長官「…航空機は問題ありませんが、陸上兵力の移動はもう間に合いません!」
「放電装置は!?」
「ダメです……移設は間に合いません。」
大統領の下顎がガックリと落ちた。
地上火力と違い航空攻撃ではゴジラをピンポイント攻撃するのは難しい。
市街にも被害が出るのは避けられないし、最悪市民が巻き添えになる可能性もある。
まずいことに、ゴジラは砂漠地帯に誘き寄せられるのものと決めつけていたため、パニックを避ける目的もあって避難命令は出されていなかった。
国防長官は叫んだ。「大統領!サンフランシスコ市民に避難のご指示を!」
大半の住人が残ったままの大都市に、30分後にはゴジラが上陸するのだ。


244 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:54:55
29−1.
「おいジェフ。なんだかやけにヘリが飛んでると思わないか?何だか言ってるみたいだが……。」空を見上げ、サンフランシスコ市警所属の黒人巡査が相棒の白人警官に言った。
「砂漠にゴジラ誘き寄せて何かやらかすらしいから、そのせいだろ?それとも特売の案内かな?」と相棒。「……ガメラだろうがゴジラだろうが、アメリカの底力、見せてやりゃあいいんだ。」
「しかし妙だな……。」納得いかない様子で黒人警官がヘリの行方を目で追ってゆくと、その姿は川を渡ったところに建つアパートの向こう側へと見えなくなった。
「……やっぱり気になる……」黒人警官がそう言いかけたとき、突然アパート三階の一室の窓ガラスが割れ、中から白い手が差し出されたかと思うとたちまち引っ込んだ。
(事件だ!)たちまち黒人警官は走り出した。
「おい!待てよロイ!!どうかしたのかよ!?」慌てて相棒の後を追う白人警官。
「おまえ見なかったのか!?いまの手を!?」
赤錆びたフェンスに囲まれた古アパートへと、二人の警官は相次いで飛び込んでいった。

黒人警官=ロイは正面玄関を抜けると、迷わず階段で三階に駆け上がった。
拳銃は既にホルスターから抜かれ、彼の右手に握られている。弾倉には357マグナムが六発、実用的な拳銃弾としては最強の部類だ。
後ろに続く白人警官=ジェフも同じく拳銃を抜き放っている。
ここぞ!と目星をつけたドアの脇に黒人警官は立つと、手だけドア前に伸ばしてノックし叫んだ。
「警察だ!このドアを開けなさい。」
室内からはなんの返事もなく、もちろんドアは開かない。
だが、そっとノブに手を掛けてみると………鍵はかかっていない。ドアはあっさり開いてしまった。
目と目を見交わす白人と黒人。
一瞬後、無言のままで呼吸を合わせ2人は室内に飛び込んだが、いざ飛び込んでみると狭い室内は明らかに無人だった。
「…おいおい、ただの鍵の掛け忘れに、警官が2人も揃って……。」
「まて!窓を見ろ。」


245 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:56:33
29−2.
「まて、窓を見ろ。」
さっきまで警官2人が立っていた場所に面する窓のガラスが確かに割れており、そのギザギザの縁と窓枠には赤い血が行く筋かハッキリ付着している。
窓のそばに立って下を見下ろすと、砕けたガラスが地面に散乱していた。
黒人が呟いた「…中から突き破ったんだ。たぶん素手で…。」
何か見つけて床に跪いていた白人警官が顔を上げた「…ここに何か引き摺ったような痕がある。」
彼の言うように、床には何かサンドバッグか麻袋のようなものを引き摺ったあとがはっきり残っていた。「引き摺った痕」は窓のから2メートルほどのところから始まって部屋を横切り、隣りのキッチンへと続いている。
死体発見を予感しながらキッチンを覗き込んだ2人だったが、やはりそこにも「生きている人」はもちろん「死んでいる人」もいない。
「引き摺った痕」はそのままダストシュートへと消えている。
外では相変わらずヘリが飛び回りながら大音量で「避難命令」を叫び散らしていたが、2人の耳には入らなかった。
2人の警官が飛び出した廊下は静まり返ったままだった。
(妙だな……なんでこんなに人気が無いんだ??)
黒人警官はちらっとそう思ったが、まずはダストシュートの先を確認するのが先決だと、そのまま一階まで階段を駆け下りた。
「ゴミ搬出口はどこに……?」
「このアパートは斜面に建ってるから、ゴミ搬出口は地下だぜ。お先にっ!」
一階で脚を止めた黒人警官を白人警官が追い抜き、先頭と後尾が入れ代わった。
だが先頭を行く白人警官の脚が、いくらも降りないうちに階段途中でつんのめるようにして止った。
「………な、なんだこれは?」
地下へと続く階段はその途中から真っ黒な、コールタールのような液体?で一杯になっていた。
「……重油でも溜まってるのか?いったい何処から湧いて来たんだ?」そう言いながら、白人警官は靴のつま先で黒い表面に触れてみようとした。
そのとき!黒い表面に小波が走ったかと思うと、黒いムチ状のものが数本飛び出して彼の足に絡みついた。


246 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:58:40
29−3.
「……お!?おわっ!??」虚を突かれた白人警官は階段に尻餅をついた。
驚く二人の目の前で、それまでガラス板のように平滑だった黒い液面が嵐の海のように波立ったかと思うと、太さも長さも様々な黒いムチが次々立ち現れ、同時にどこか媚びを含んだような女性的な嬌声が狭い階段室に溢れかえった。
黒人警官は直感的に悟った。
(コイツだ!コイツが三階のあの部屋の住人を餌食にしてダストシュートに引き摺り込んだんだ!)
一方白人警官は拳銃を構えると、彼が「黒い液体の中に隠れているに違いない」と考えた怪物めがけ立て続けにマグナム弾を叩き込んだ!
バン!バン!バン!轟音とともに立て続けに跳ね上がる銃口!
しかし、彼の靴に絡みついた黒いムチは、緩むどころか却って脈打ち太さを増したかと思うと、捕らえた獲物をズズッと引き摺り下ろした!
「ロ、ロイ!助けてくれ!!」
「待て!」
相棒の体のどこなりと掴もうと必死に伸ばした黒人警官の手がむなしく空をいた直後、白人警官の口から絶望した子供のような悲鳴が迸った。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……。」
どんどん黒い液体の中に没している白人警官。
鳩尾近くまで体が没したところで、黒人警官はなんとか相棒の右手を掴むのに成功した。
「助けてやるぞ!」
相棒の悲鳴は既に止っていたが、黒人警官は一縷の望みを込め掴んだ右手を力一杯引き上げた!だが……。
「…うわあああああっ?!」
自分が引き上げたものを目にした瞬間、黒人警官は悲鳴をあげて掴んでいた相棒の右手を放り出した。
白人警官の体は、ただ黒い液体に没しているだけではなかった。液に浸かった下の部分は、肉も皮もしゃぶりとられた白い骨だったのだ。
恐怖に見開かれた黒人警官の目の前で黒い液が立体的に盛り上がったかと思うと、みるみるうちに「黒いウミユリ」あるいは「目の無い頭が何本にも分岐した大蛇」のようなモンスターへと姿を変えた!
形容の困難な悲鳴を上げ黒人警官は一目散に逃出した。


247 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 12:59:45
29−4.
逃出した黒人警官のすぐ背中で、少女のような嬌声が弾けた。
「ひいいっ!」縺れそうになる足で必死に階段を駆け上がる警官。幸い階段部分はほんの僅かですぐ一階に辿り着けた。
体当たりで正面玄関から飛び出し、ついさっき渡ってきた橋に向かっていっさんに走りながら振り返ると…。
(!?追ってこない??)
……怪物の姿が見えない。
(ひょっとして太陽光線が苦手?……とか??)
希望的観測が頭をかすめ、彼が脚を止めかけたまさにそのとき!
ガシャァァァァァン!
アパートの窓ガラスが一斉に砕け散り、総ての窓、あらゆる通風孔から黒い触腕が噴出したかと思うと、怒涛のように警官目掛けて押し寄せてきた!
もうダメだ。逃げられない。
「……か、神さま……。」警官は死を覚悟した。だが……。
弾ける嬌声をあげ迫った怪物の動きが、警官の目の前で不意に止った。
(……なぜ……だ?)
信じられないという思いで辺りを見回すと、彼や怪物を含む辺り一帯に黒い影が落ちている。
(こんな影、さっきは無かったぞ。)
陽光を遮る物の正体を求め、彼は視線を上げた。
「ゴ……ゴォ………!」
そこにあったのは………河口近くの海中から屹立する黒い巨塔、雄叫びを上げる山。
……更に速度を上げ、アメリカ政府の予測より10分以上も早くサンフランシスコに上陸した怪獣王だった。
「ゴ、ゴジラ!!」
警官の目の前で、憤怒の形相のゴジラが口を開き、コールタールのような怪物が悔しそうな悲鳴をあげた。
ゴジラの口のなかが青白い光で満ちた!!
「ね、熱線だぁっ!」
ゴジラが熱線を放つ寸前、橋の上から川面へと黒人警官は身を躍らせた!


248 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/23(金) 13:02:36
30.
「日本時間で未明の1時30分ごろ、アメリカ、カリフォルニア州サンフランシスコにゴジラが上陸し熱線で同市街を壊滅。
およそ12分後、ゴジラは再び太平洋に姿を消しました。それでは現地からの中継映像です………」
真っ黒い煙に覆われ、炎に嘗め尽くされたサンフランシスコの映像は全世界に大きな衝撃をもって配信され、日本の新聞・テレビのトップニュースも「ゴジラ襲来!」一色に塗り潰された。
最も大きな驚きをもって受け止められたのは「ゴジラとガメラが同時にアクティブ状態に入った」という点だった。
ともに怪獣王と称されながら、顔をあわせることの一度もなかったゴジラとガメラがついに同時に、しかも同じアメリカに出現したからだ。
そのため一部では「夢の対決ついに実現か?」とはしゃぐ者もいたが、多くの人間はもっと別の暗い終末の予感をもって「ゴジラ、ガメラ同時出現」の報を受け止めていた。
ゴジラ、ガメラ、ギャオスの動き、そして止まる所を知らない新型インフルエンザの勢いに、大部分の人々は「人類包囲網」のようなものを感じていたのだ。
ひょっとして地球か、あるいは神様が、人類の絶滅を企てているのではないか?
そのためにゴジラが、ガメラが、ギャオスが、そして新型インフルエンザが荒れ狂っているのではないか?
口には出さないが、多くの人々がそう感じ始めていた。

ところで、「ゴジラ上陸」で埋め尽くされた紙面の片隅に、埋め草的に突っ込まれた記事に気がついた者は果たして何人いただろうか?
その記事とは小さな家族が、この世界から消えてなくなったということを告げるものだった。
「テレビ出演などで有名な生物学者の万石××氏宅で、妻俊枝さん(41)、長男ノブユキくん(9)の2人が殺害されているのが発見された。
2人は3ヶ月前新型インフルエンザに感染、一命は取り留めたが、以来長く昏睡状態が続いていた。
警察では失踪した夫の万石氏が何らかの事情を知っているものと考え、目下その行方を捜索中である。」


249 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 07:24:16
31.
『警察は……妻子の意識が戻らないのを悲観した万石が、錯乱状態で妻子を殺し失踪した……自分の死に場所を探して姿を消したと考えてる。』
万石失踪の報を受けた大塚は、小川のマンションでの殺人のときに調査を依頼したあの「事情通」と再び連絡をとっていた。
『……妻子の遺体はどちらもかなり傷つけられている。万石の書斎から包丁が2丁発見され、そのうちの1丁と傷の形状が一致したそうだ.』
「指紋は?」大塚は短く尋ねた「指紋はどうだった?」
『検出されたのは万石と妻子の指紋だけだ。他の身元不明の指紋は見つからなかった。』
「……そうか。」
ここで大塚は、両腕で肩を抱いた姿勢で窓に向かって立つ小川の背中を盗み見てから、彼女に聞こえないよう声を更に低くして尋ねた。
「これも……例のヤツの仕業じゃないのか?」
『いやオレは違うと思う。』相手の返答は躊躇の無いものだった。『…警察はその可能性も捨てちゃいないが、アイツと較べて手際が悪すぎる。それに被害者の心臓も………。』
(食われていないのか…。なら…ヤツじゃないな。)
嗜好性殺人者の場合、一定のパターンがあるのが普通だ。手際が悪く、パターンも崩れているなら、小川のマンションで管理人夫婦を殺したヤツではない。
(……すると、やっぱり万石先生が……)
下品に笑う万石の顔が目に浮かんだ。
(……先生は人生を楽しんでいた。その先生が、なんでそんなことを……。)
そのとき電話口の向こうで短い咳が聞こえ、大塚の嗜好は現実の世界に引き戻された。
「おい、いまの咳はなんだ?」
『……気にするな、ただの……風邪だ……』
「……本当…か?」
『…そんなことより』無理やり話題を変えるように、相手はきり出した。『……万石の書斎で発見されたのは2丁の包丁だけじゃないぞ。』
「何か見つかったのか?」
電話から聞こえる声には、嫌な話題を変えられてほっとしたような、そんな雰囲気が感じられた。
『書斎のデスクの向こう側に落ちてたそうだ。切断された万石の右手の小指がな。』

250 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 07:26:08
32.
新型インフルエンザの猛威はアフリカとヨーロッパ、オーストラリア、そして南米では止まったようだったが、本当のところは悪疫とギャオスの共振爆発によって人口が激減したために過ぎず、それらの地域では国家と呼べるものは事実上消滅してしまっていた。
感染のピークは北米とアジアに移っており、衛生状態の悪い国々では道端に病死者が回収されないまま放置されるのも珍しくなかった。
特に北米ではゴジラのサンフランシスコ上陸以後、怪獣の活動が目立って増加していた。
サンフランシスコが焼き払われた三日後にはギャオスの集団がニューオーリンズで共振爆発。
同日の昼にはガメラが再出現し、これを迎撃すべく空軍が出払った留守を見透かしたようにゴジラがロスアンゼルスを焼き払う。
そして翌日には「夜しか出ない」との人間サイドの思い込みを嘲笑うかのように、数羽の中型ギャオスがニューヨークに侵入。
発動された大爆発はマンハッタン島を地盤ごと吹き飛ばし、世界最大の都市は水の底に沈んでしまった。

日本でも新型インフルエンザ感染率は上昇の一途を続けていたが、怪獣の襲来は小型ギャオスの跳梁に留まっており、対ギャオス・ガメラ・ゴジラ用の防備を固める貴重な時間を稼げていた。
そしてさらに重要なのは、日本には藤田がいたということだった。
「戦って生き残るか!それとも座して滅びを待つか!二つに一つです!」
「たしかに戦っても勝てるとは限りません!しかし勝てる可能性はあります。何もしなければ100%破滅あるのみです!」
「例え1%でも可能性があるならば、生き残るため戦うべきです。それが人間というものではないでしょうか?!」
連日テレビ・ラジオ・雑誌・新聞紙面に登場し、「生き残りを掛けた戦い」を日本国民にむかって必死に説く藤田の姿は、次第に人類生き残りに賭けた希望の象徴と目されるようになっていった。


251 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 07:27:30
33−1.最初の場面……
事件から2週間以上が過ぎても、警察は万石の身柄を確保できないでいた。
そのあいだにも新型インフルエンザの感染は拡大し続け、病死者は増えつづけた。
バスや鉄道は本数を減らしながらもなんとか乗務員をやり繰りして運行そのものは続けていたが、最盛期は5分に一本も走っていた列車が15分から20分前後に一本まで落ち込んでいた。
小川や大塚の身近でも病死者が続いた。
例の「事情通」とも連絡がとれなくなり、大塚の旧友である天城もある日突然高熱を発したかと思うと僅か一昼夜でこの世を去ってしまった。

人気のめっきり少なくなったテレビ局の通路を、小川は大塚の姿を求めて歩き回っていた。
(……みんな私を置いて逝ってしまった。)
アフリカでの取材に同行したスタッフたちも、藤田へのインタビューに出かけた同僚、そして軽い挨拶を交わす程度の知り合いも……。
照明こそギャオス避けの目的で晧晧と眩しいほどに照り輝いているが、床には様々な紙切れが散乱し、コーヒーの紙コップなどのゴミが転がったままだ。もう局内を掃除してまわる者などいないのだ。
自宅マンションでの殺人事件以来、身の安全のためずっと局内で寝起きしてきた小川だったが、このテレビ局も安住の地ではなくなるのは時間の問題だろう。
小川は思わず両肩を抱いて、細身の体をさらに細くした……。
新型インフルエンザ、ゴジラ、ギャオス、ガメラ、そして正体不明の殺人鬼。そのうちのいずれかに、自分は掴まってしまうのだろうか?
そのとき、小川はどこからか自分に注がれる視線を感じて思わず振り返った。
廊下には誰もいなかった。ついひと月前までなら、こんなことはなかったのに……。
軽く身震いすると、小川は目指す部屋へと脚を速めた。
「……ここね。」わざと声に出してそう言うと、小川はドアをノックした。


252 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 07:29:26
33−2.
「あの……失礼します。」
ドアを引き開けると、室内は廊下同様にギャオス避けの光で溢れており、夜を写す広大な窓を前にして大塚が独り立っていた。
「……ん?ああ、小川か、オレに何か用か??」振り向いた大塚はネクタイもしておらず、こけた頬を無精ヒゲがだらしなく飾っている。
「あの……お、お友達がインフルエンザで亡くなられたとうかがいましたが……」
「天城のことか?……気にするな。アイツも取材で外に出る以上、感染の危険は覚悟してたんだ。」疲れた声でそう言うと、大儀そうに首をぐるぐるまわしながら最後の部分をもう一度繰り返した。「……そう、覚悟してたはずなんだ。天城のヤツはな。」
大塚の横のデスクにはそっけない白い箱が置かれている。
「その箱は天城さんの……?」
大塚は答えなかった。新型インフルエンザが発症するととりあえず隔離されるが、特に治療法があるわけでもなく死んだら何人分も一纏めにして焼却。
その灰の一部が小さな箱に入れられ、遺族のもとに返却される仕組みになっていた。
「天城は、感染を避けられるようにと、女房子供を田舎に疎開させててな。オレが代理で引き取ってきた。」
そして大塚は再び窓に視線を戻して闇と向かい合った。
(……疲れてるんだ、大塚さんは……)
そんな大塚を、小川は見たことがなかった。エネルギーいっぱいで動き回っている大塚しか小川は知らない。
(……でも、それでも大塚さんに話を聞いてもらわなくちゃ)
覚悟を決めると、小川は大塚に話し掛けた。
「ちょ、ちょっと大塚さんに聞いて頂きたいことがあるんです。」


253 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 07:31:44
33−3.
「聞いて欲しいこと?」大塚が奇妙に虚ろな表情で振り返った。
「あの……ガメラがデトロイトを襲ってから後の怪獣たちの動きを、時系列を追って調べてみたんです。そしたら……変なことに気がついたんです」
「……続けて…」
「ゴ、ゴジラがデカメロンを襲った事件なんですけど……あの、SOSが発進されたのは14時17分ですよね。それでヘリコプターが船を発見したのが14時32分。」
「そうだ。アメリカ政府の発表だとそういうことになってるが……。それがどうかしたのか?」
「14時17分にゴジラに襲われてSOSを発信したなら、15分間もゴジラは何をやってたのかな?って思ったんです。随分大きな船みたいですけど、ゴジラが襲ったなら沈めるのに15分もかからないと……。」
大塚の目がすうっと細くなった。
「………小川、オマエなにが…言いたい?」
自分に注がれる大塚の視線に、いつもなら臆して黙りこんでしまう場面だが、今夜の小川は違っていた。
ごくっと唾を飲み込みこそしたが、すぐに大塚の目を真っ直ぐ見返して言った。
「SOSとゴジラは無関係なんじゃないかと……。もっと別の何かについてSOSは打たれたんじゃないかと思うんです。」


254 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 07:34:09
33−4.
「SOSとゴジラは無関係なんじゃないかと……。もっと別の何かについてSOSは打たれたんじゃないかと思うんです。」
「別の何か……」
「そうです!別の何かです!それがデカメロンの船内に現れてSOSは打たれたんじゃないかって。」
「『現れた』……か。」その意味するところを吟味するように、大塚は小川の言葉を繰り返した。「『発生した』じゃなく、キミは『現れた』というのか。その言い方だと火災や事故ではなく、何か未知の怪物が出現したみたいに聞こえるが……。」
「そ、そうです!私たちの知らない怪物です!ビッグメロンだけじゃありません!パリもデトロイトも、怪獣たちが滅ぼした町には総てその未知の怪獣が潜んでいたんです!私たちの知らない何かがアフリカから……。」
大塚の瞳に浮かんだ何かが、小川の言葉を途切れさせた。
「…またアフリカか。ちょっと前までウォレス大佐だったのが、今度は未知の新怪獣に昇格したわけだな。」
「…………やっぱり信じていただけないんですね………。失礼しました。」
ぱっと頭を下げると下を向いたままで小川は大塚に背中を向けたが……その背中に思わぬ言葉が投げかけられた。
「待て小川!!話は最後まで聞け。…オレは信じないとは言ってないぞ。」
「え!?」驚いて小川が振り向くと、大塚は思わぬことを言い出した。
「実はな、オマエに負けないくらい荒唐無稽なことを言ってるヤツが、もう一人いる……」大塚は白い箱の横に無造作に置かれた大学ノートを手にとった。
「……天城のノートだ。ざっとでいいから目を通してみろ。」

255 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 07:35:29
33−5.
小川の指は、パソコン全盛のこの時代に万年筆でびっしり書き込まれた手書きのノートを1ページ1ページめくっていった。
「マジメな感じの文字ですね。」
「……あいつはこんなコンピュータ全盛の時代でも、本当に大事だと思ったことはペンで書き留めてたんだ。」
一画一点といえどもおろそかにしない、正確な筆致が天城の性格を忍ばせる。
書き込まれていたのは、新型インフルエンザについて発表された様々な研究データと自身の脚で集めたデーターだった。
ウケ狙いの無い地味な内容だったが、もし人類がこの災禍を潜り抜けることができたとき貴重なリアルタイムの資料となるであろうことは、小川の目にも明らかだった。
書き手の真摯な人柄に答えようと、一枚一枚丁寧にページをめくっていた小川の指が急に止った。
「……あれ?このページだけ……」
そのページだけ、正確無比なはずの天城の筆跡がかなり乱れている。
書かれていたのは、「新型インフルエンザの職種別分布」だった。厚生労働省が流行初期に発表したものを下敷きにしたデータにいくつか天城が独自に調査した職種が付け加えられていた。
最後に「浮浪者」とあって、そこから乱暴に引張った線の右には「0人」と書かれている。
さらにその下には更に乱暴な筆遣いでアンダーラインと「?」マークが殴り書きされていた。
「これ……どういう意味ですか?」


256 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 07:40:33
33−6.
「昔オレが取材した番組での話だが……、東南アジアで売春婦のあいだにエイズが大流行してたんだ。でもエイズはもともと感染力が高くないはず。なのに何故大流行したか?理由が判るか?小川??」
小川が首をヨコに振ると、それ以上もったいぶることなく大塚は答えた。
「売春婦はな、不規則な生活や劣悪な栄養状態などで病気に対する抵抗力が落ちてるからなのさ。」
「不規則な生活………劣悪な栄養状態………抵抗力の低下………それがこの天城さんのノートとどういう関係が………?」
そこまで言って、小川は小さく「あっ!」とさけんだ。
「そうだ小川。」頷きながら大塚は言った。「……天城が気づいたことに、オマエも気がついたようだな。」
小川は天城がアンダーラインの引いた個所を凝視していた。
浮浪者………0人
「0だなんて…そんなハズは…!?」
「そうだ、不規則な生活、劣悪な栄養状態、浮浪者こそ真っ先に感染しなきゃおかしいんだ!」
「でも…でもそんな……」
「……オレたちは世界各国で統治機構が壊滅したのは『高齢者の構成比率が高いからだ』と考えて、別段何も疑問には感じてこなかった。でも壊滅的な被害を受けていいはずの浮浪者が、被害者0(ゼロ)人なんてハズは絶対に無いんだ。」
みるみる青褪めていく小川に向かって大塚は言った。
「答えはひとつ。誰かが人為的に選別して、世界各国の統治機構を壊滅させたんだ。ちなみに天城の見解は、もう四〜五枚めくったページに書いてあるよ。」
大塚の言うところの「天城の見解」はすぐ見つかった。
もう罫線も何も無視するようにデカデカと大きく斜めに書きなぐられていたのだ。
一言、「バイオテロ」と……。


257 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 12:22:35
34−1.あふとぅう…
日が昇ると同時に大塚と小川は、藤田に会うべくシオドメにある「新型インフルエンザ対策センター」へと車を飛ばしていた。
景気づけにと大塚はカーラジオのスイッチを入れたが、景気の良くなるような番組などどこの局でもやっておらず、無音状態が続くばかりだ。
「こんなに無音の状態が続いたら、ちょっと前なら放送事故だな。」
小川は答えぬまま、車窓から町並みを眺めていた。
2人の乗った車はちょうど銀座のあたりに差し掛かっていたが、早朝だったせいもあって街を歩く人影は一つも無い。
東南アジアや中国の一部のような、回収されない死体が路地に転がるような事態には到っていないが、その代わり車が一台、街路樹にぶつかるようにして斜めに止った状態で放置されていた。
速度を落として放置自動車を避けながら大塚が言った。「……死体が転がる代わりに車か……経済大国の最期には相応しいのかもしれん。」
思わず首を竦める小川。
「……さてと、どこまで話したっけ?ああ、思い出した。」
さっきの車を避けるので中断した部分から、大塚は話を始めた。
「……天城は疫病が蔓延する外で午前いっぱい調査をつづけ、午後になって局に戻る途中で発病。その翌日には死んじまった。」
「ずいぶん早いですね。」
「早すぎだ。この病気は発病してから死ぬまでの期間の相場はざっと一週間弱だ。一晩てのはいくらなんでも早い。」
「……実はもっと早く発病してたんじゃないんですか?」
「最後に訪れた先が『新型インフルエンザ対策センター』なんだぞ?天城が既に発病してたとしたら、センターの連中の目を誤魔化せたはずがない。」
「でもそれじゃ、天城さんの急死の説明が……。」
「以前天城はオレに『確証を掴んだら話して聞かせる』と約束してくれた。天城は掴んだんじゃないかと思うんだ。その確証ってヤツをさ。」
「確証を掴んだ?あの…バイオテロ説の確証をですか?!………それじゃ、大塚さんは天城さんが…」
「消されたんじゃないか?と、思ってる。……あくまでカンだがな。でもそれだと説明がつくと思わないか?天城の死が早すぎる原因がさ。」
大塚はハンドルをきると、広大な埋立地へと車を乗り入れた。


258 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 12:24:23
34−2.
検疫上の理由から、「新型インフルエンザ対策センター」は未開発の埋立地の突端部分に設けられていた。
「バイオ・テロねえ……。」頭を横に振りながら、藤田は口を開いた。
「その『浮浪者の罹患者数』が『(ゼロ)人』というのは信頼できる数字なんでしょうか?僕の知る限り、浮浪者の罹患率のデータを取った機関は無いと思いますが。…それに……」何か反論しようと口を開きかけた小川を制して、藤田は言葉を続けた。
「……もしこれがバイオ・テロだとして、これで誰がいったい得をするでしょうか?得をするものなど誰もいません。まあ、あれを御覧なさい。」
藤田はデスクのパソコンを立ち上げた。
「…我が国は、感染蔓延を阻止するためいち早く対ギャオス防衛網を構築したのが功を奏したんだと思いますが……。」
…ディスプレイに浮かび上がったのは所々表示が反転した世界地図だった。
「……反転されているのは国家や文明が事実上壊滅した地域です。このとおり、アフリカ、ヨーロッパ、南米、そして日本を除くアジアは壊滅状態です。
アメリカは……断末魔の苦しみにのた打ち回っているような状態ですね。新型インフルエンザとゴジラ、ガメラ、ギャオスの集中攻撃を受けています。」
「自分も含む人類そのものをこんな状態にして得をするテロリストなどいるはず無いということですか。」
「そうです。」
「で、でも、犯人は人間じゃないかもしれません!」
小川は自分が気づいた、客船デカメロンがSOSを発信してから実際に沈むまでの時差の問題を説明した。
「……つまりSOSはデカメロンを襲った何かに対して……」
「デカメロンを襲った何か?……『何か』って何ですか?ゴジラやガメラ以外にもさらに未知の怪物がいると?」
小川に対する思いやりからか?口にこそ出さなかったが、藤田の顔からは「バカバカしい」という本音がハッキリ読み取れた。
悲しそうに口を閉ざす小川。だが、今度は藤田が妙なことを言い出した。
「でも、藤田先生。未知の怪物のことを言ってるのは、実は小川だけじゃないんだ。」

259 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 12:26:02
34−3.
「えっ!?私だけじゃない!?」この話は小川にとっても初耳だった。
「ごめん小川、この話は別にオマエに隠してたわけじゃないんだ。なんせネタもとがネットで流れてるゴシップなもんでな。」
慌てたように小川に誤ってから、あらためて大塚は言った
「……その話ってのは……『ゴジラはシスコを焼きに来たんじゃない。地下に隠れてた黒いバケモノをやっつけに来たんだ!』と言ってるヤツがいるっいうのだ。なんでもサンフランシスコ市警所属の警官だとか。」
「地下に隠れている黒いバケモノですか!?」藤田の声にはいくぶん呆れたような響きが含まれ、口の端も皮肉に曲がっていたが、大塚は構わず続けた。
「なんでも『頭が幾つもにも別れたヘビ』か『化石のウミユリ』みたいな姿で、人を食うんだとか。……あと、街娼みたいな声で笑うんだそうです。」
(……街娼みたいな声で笑う??)
その言葉を耳にした瞬間、小川はガメラの出てきた三度目の夢のことを思い出した。
(泣きながら逃げる医師……床に走る赤い縞模様……宙を漂う真っ黒い髪の毛のようなもの……そして………追ってくる嬌声!少女のような笑い声!!)
夢の中での禍禍しい嬌声を思い出し、サンフランシスコの警官の話との不吉な符合に呆然となる小川。
すると彼女の小さな脣から無意識のうちにとある言葉が漏れ出した。

「……あ ふ とぅう…」

「ん!?…小川さん、いま何と言いました?」驚き顔で尋ねる藤田。
「え?」ぽかんと口を開いて小川は答えた。「…わ、私何かいいましたか?」
不思議そうな顔で大塚も言った「ああ、確かに何かいったぞ。『ああふぅと』とかなんとか…」
「す、すみません。私何か言った覚えなんて全然無いんです。」
小川の言葉にウソは無かった。彼女はそんな言葉を口にした覚えは全くなかったのだ。


260 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 12:27:28
34−4.
結局、藤田は本当に浮浪者に新型インフルエンザ罹患者が出ていないのか、調べてみることを約束してくれた。
「2人とも勤め先の例の局で寝泊りされてるんでしょう?何か判ったら僕の方から連絡しますよ。」
2人はテレビ局に戻ると、例の「黒いバケモノ」についての情報をネットで集めながら、藤田からの連絡を待つことにした。
人類が滅亡の危機に瀕しているというのに、あるいは滅亡の危機に瀕しているからこそなのか?
ネットへの書き込みは異常な件数だった。
情報の海に飲まれ、「黒いバケモノ」についての情報収拾はいっこうに捗らないままに、やがて日は傾き……。
……そして夜がやって来た。
恐ろしい夜が……。


261 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 12:31:16
35-1.警告
「ん!?こ、これは……」
「何か見つかりましたか?大塚さん??」
「いや、違う。オレの勘違いだ。例のバケモノの情報じゃないよ。」
大塚は素早くパソコンの画面を切替えると、ワザとらしく背伸びし、時計の針を声に出して読み上げた。
「10時45分………。小川、オマエは仮眠室に退がったらどうだ?オレはもう少しここで調査を……」
「……エッチなサイトの調査ですか?」
すっかりバレていた。
「いや…、ああ、別にエッチなサイトなんか…」
一瞬どぎまぎした大塚だったが、やがてゲラゲラ笑い出した。
「なにが可笑しいんですか?」
笑いを堪えながら大塚は言った「いや、なんと言うか…もうじき40に手が届こうっていうオヤジが20前半の若い娘に問い詰められて焦ってるという場面を客観的に見たら……な」そして大塚はまた笑い出した「……可笑しくってたまらなくなった。」
奥歯まで見せて大笑いする大塚を見ていると、小川もだんだん可笑しくなってきた。
クスクス笑いがケラケラ笑いに変わるのを感じながら、小川は(この前こんなふうに笑ったのは、何時のことだったろう?)と考えた。
(そうだわ、この前笑ったのは局で万石先生がいらしたときだった。笑って、お守りを差し上げて……それから……)
自宅に帰ったその夜、万石は失踪したのだった。
妻子の遺体を自宅に残して……。
小川の顔から静かに笑みが消えた。
席から立ち上がると窓辺に立ち、小川は窓のカーテンを開け放った。


262 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/26(月) 12:34:51
35−2.
「おい小川!ギャオスに襲われたらどうする気だ!?」
だが小川は闇に向かって開かれた窓から離れなかった。
闇夜には相変わらず様々な光が耀いていたが、以前よりも暗いままの窓が増えている。
灯りを点ける住人がいなくなってしまった部屋だ。
(万石先生はいまどうされているのだろう?どこかの倉庫の隅にでも隠れているのだろうか?それとももう……)
……死んでしまったのか?
(万石先生……)
そのとき……ルルルルルルッ!ルルルルルルッ!小川の携帯が鳴った。
最初は藤田からかと思ったが、プライベイトの番号なのでごく限られた相手にしか教えておらず、そのなかに藤田は含まれていない。
不審に思いながらも小川は電話に出たが…、彼女が「もしもし」すら言い終わらぬうちに、押し殺したような生気を感じさせぬ声が一方的に喋り出した。
『逃げなさい!』
「えっ!?い、いまなんと?!」
『そこにいると命が危ない!早く逃げなさい!』
「ここにいるとなんで命が……」
『逃げなさい!一刻も早く!!』
それだけ言うと、電話は切れてしまった。


263 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/02/26(月) 22:55:26
デカメロン!?
>>238ではビッグメロンだったが…

264 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/02/27(火) 08:12:18
>>263
しまった(笑)。
そうあの船の名前の元ネタは「デカメロン」。つまり「でかいメロン」だから「ビッグメロン」ね。
「疫病から逃れようと大富豪が立て篭もる」船って設定が、もろ「デカメロン」でしょ?
ついうっかりそのまんま書いてもうた(笑)。
カミュの「ペスト」、ポーの「赤き死の仮面」、ボッカチオの「デカメロン」は駄洒落的にでも入れたかったので。
「フランスの研究者チーム」や「サンフランシスコの警官コンビ」それから、これから出てくる「小川の勤めるテレビ局の局員二人」みたいなパートは、実は他にもありました。
「ビッグメロン船内」のパートもあって、「たっぷりした衣裳を纏い、頭からフードをかぶった人影が船内を徘徊してる」という展開(つまり「赤き死の仮面」)です。
不審に思った船員がフードを取り除けると、「……かろうじて保っていた人の形が崩れ落ち」ってことになる。
でもってSOSを発信するが……。

ちなみに「ペスト」の方は、もろに「……『ママ、あそこでネズミさん寝んねしてるよ』『(あら嫌だ、管理人にちゃんと掃除するように言っとかなきゃ)触っちゃだめよ!ボウヤ!』」という展開でした。
そして次第に悪疫は……という展開でした。
どちらも長くなり過ぎるからカットです(笑)。

265 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 08:20:34
36−1.迫り来る「死」
ウウ、ウィィィィン……カシャーーッという機械音に続いて紙切れが落ちるパサッという軽い音がした。
その紙切れをメガネの男が無造作に拾い上げ素早く目を通し、「……なんてこったい」という言葉とともに、イスに腰を下ろしていた無精ヒゲの男に手渡した。
「どうした?……………共振爆発に巻き込まれて大統領専用機が墜落!?」
「確か大統領本人が副大統領上がりで、新しい副大統領の指名もまだだったから、大統領が空席のままってことか。アメリカももうお終いだな。」
脱力したような溜息とともに、無精ヒゲの男は手にしたファックス用紙を丸めてクズ籠に放り込んだ。
「お、おい、なんてことするんだよ!」メガネはクズ籠からファックス用紙を拾い上げた。
「こんなニュース流せると思うか?ヨーロッパ、アフリカは死んだ。南米はアマゾンが天然の障壁になって疫病を食い止めると言ってる学者もいるがアテにはできん。アジアは……中国からは一週間前の連絡を最期に音信が絶えたままだ。」
「そんなことは判ってるよ。」
「それじゃこれは判ってるか?アメリカを滅ぼした怪獣どもが、次ぎは何処を襲ってくるか?!世界にはもうこの国しか、日本しか残ってないんだぞ!」
「日本には対ゴジラ、ガメラ、ギャオス防衛機構がある!これまでもヤツラの活躍でギャオスを排除してきたからこそ、新型インフルエンザの蔓延も最小限で食い止められてるんじゃないか!」
「小型ギャオスならな。でもデカイのが来たら?ゴジラやガメラが来たら?防げるのか?」
「それは……」メガネの男が口篭もると、無精ヒゲの男は無言のまま立ち上がった。
「自販機までコーヒー買いに行ってくる。」


266 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 08:22:20
36−2.
部屋を出て人気の絶えた廊下を右に10メートルも行くと、コーヒーの自販機が一台あったが、無精ヒゲの男はその前を無言のまま通り過ぎた。
彼の好みの缶コーヒーは、その自販機では売っていない。1階の接客用喫茶室の前に置かれた自販機に入っているだけなのだ。
彼はエレベーターに乗ると、1Fのボタンを押した。
ドアが閉まり、エレベーターのボックスが下降を始めた。
……10F……9F……8F……7F……どこの階にも止らず、エレベターは下ってゆく。
(前は…どんなに夜遅くても、必ず途中で止って誰か乗って来たのに……)
みんな死んでしまったのだ。新型インフルエンザに罹患して、あるいは小型のギャオスに掴まって……。
無精ヒゲの男は身近に「死」が迫っているのを感じた。
(…人類は…生き残れるんだろうか?)
3F……2F……1F
彼がそんなことを考えているうちに、エレベターは1階に辿り着いていた。
ドアが開く……。
途中でこそ誰も乗ってこなかったが、1階ではコートのようなものを羽織った男が待っていた。
「こんばんは」一礼して無精ヒゲの男はエレベターを降りようとしたが、相手はそんなことなど全く目に入っていように、強引に乗り込んできた。
「な、なにを乱暴な!?」
箱の奥まで突飛ばされるように押し戻された無精ヒゲの男は思わず声を荒げたが、その直後彼はあることに気がついた。
……コートではない。明るい灰色をしたローブのような衣裳だ。しかも手には刃を剥き出しにした業務用の大型カッターナイフを握りしめている。
しかもその刃には赤い液状のものが付着していた。
無精ヒゲの男は悟った。
彼がさっき考えていたよりも、ずっとずっと近くまで「死」は迫っていたのだ。
コートの男が腕を振り上げ、そしてエレベーターのドアは閉まった。


267 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 08:24:56
37−1.襲撃
「ここは危ないだと!?…誰からだ!?」
大塚は驚いてイスから立ち上がった。
「判りません。聞いたことあるような気もしますけど。でも酷く掠れてて苦しそうで…」
「危険の内容は何も言わなかったのか!?」
「はい。ただ『そこにいると命が危ない』と」
「……オマエのことを小川だと確認しなかったんだろ?だったらオマエに対する警告かどうかは……」
「この携帯の番号は極限られた人にしか教えてありません。これにかけてきた以上、警告は私に宛てたものです!」
「しかし、このビルには大勢の職員がいるからな。ここが危険なんてことは……」大塚はまだ納得しかねていたが、小川の心は決まっていた。
「私、この警告を信じます。信じないといけないような気がするんです。」
大塚にきっぱり断言すると、「ごめんなさい」というように小川はアタマを下げた。
「……手荷物とってきます。」
私物の殆どは地下の簡易寝室に置きっぱなしになっているので、小川はエレベーターへと向かった。
ボタンを押し階数表示を見ると、ちょうど一台が上がって来るところだ。
……4階……5階……6階……途中で止ることも無しにどんどん上がって来る。
……7階……8階……9階……小川の待つ12階まであと少しだ。
「待つんだ小川!」
声に振り返ると、大塚が小川の方にやって来るところだった。
「やっぱりここから動くのは危険だ。オマエをこの安全地帯から誘きだそうとするワナかも……」
カクン……小川の背中でエレベーターが止ってドアが開き……小川を見ていた大塚の顔が突然引き攣った!
「小川!危ないっ!!」
背後に近寄る人の気配を感じて咄嗟にしゃがみこんだ小川の髪の毛を、シュッ!と何かがかすめて通り抜けた!
四つん這いの姿勢から転がるようにして後ろを見ると、血まみれのローブか浴衣のような衣裳の男が手に業務用カッターを握って立っている!
血まみれコートの男はカッターを逆手に持ち直し、小川めがけて振り上げた!
「うおおおおおおおおっ!!」
ブンッ!!…ガツン!!
大塚の絶叫とともに、男が仰け反って倒れた!
手近にあった消火器をハンマー投げの要領で相手の顔めがけ叩きつけたのだ!
「来い小川!!」ショックのあまりまだ立ち上がれないでいる小川の手を掴むと、大塚は走り出した。


268 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 08:35:29
37−2.
小川を引き摺りながら振り返ると、血まみれローブの男はゆっくり立ち上がったところだった。
「あいつが例の管理人夫婦殺しの犯人に違いない!エレベーターはダメだから階段で降りるぞ!」
大塚は非常用階段のドアを開け、階段室へと滑り込んだ。
だが、11階へと少しばかり下りかけたところで、またも小川の携帯が鳴った!
半ば怯え、半ば何かを期待しながら小川は携帯を耳に当てた。
「も、もしもし?」
『そっちはダメです。』
探るような顔で「さっきのヤツか!?」と尋ねる大塚。
無言で頷きながら、小川は電話の相手に聞いた。
「どこに行けばいいの!?」
『…屋上へ。』
そして電話は切れた。
無造作に携帯をポケットに放り込み、小川はそれまでと逆に非常階段を上りはじめた。
「おい小川!?どこへ行く気だ?そっちは行き止まり……」
「屋上へ行けって言われたんです!」
「屋上だと!?」驚きで大塚の声が裏返りかけた。「…屋上に登って、それから後はどうするつもりなんだ!行き止まりだぞ!第一、夜はギャオスが危険…」
「でも、屋上へ行けって言われたんです!」
手首を掴んでいる大塚の手を振り解くと、ヨロヨロ階段を登って行く小川。
一方大塚は、小川と一緒に屋上に行くべきか、それともあくまで階段で下を目指すべきか、確信をもって判断できないでいた。
だが、決断を迷う大塚の視界に信じられないものが飛び込んで来た。
さっきの男と同じく灰色のローブのような衣裳を纏った女が踊り場を回って現れたのだ。
脚は裸足で手には野球のバットを掴んでいる。
その先端は黒く濡れ、髪の毛のようなものがこびりついているのが見えた。
(一人じゃないのか!?)
先を行く小川の後を追って、大塚も非常階段を駆け上がった。


269 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 08:37:22
37−3.
12階に通じるドアの前を駆け抜けて13階との中間の踊り場にさしかかったとき、金属の軋む音=階段室のドアが開く音がした。
業務用カッターを持った男が入ってきたのだ!
大塚はたちまち小川に追い付くとまたも手を掴んで言った。「急げ!追っ手は2人だ!」
「ふ、2人!?」
「ああ、それも最低人数だ。たぶんもっといるぞ!」
(ヤツラは下の階から、目に付いた人間を片端から殺してまわってるに違いない!)
局の社屋は15階まで。
その上がどんづまりの屋上だ。
そこから先に逃げ場は無い!
(だが、もうそこしか行くところは無い!)
警告電話の主の言葉を信じ、大塚は目の前の鉄扉=屋上に出るドアを押し開けた。

外は……いつのまにか雨が降り出していた。
雨滴がギャオス避けの照明を反射して美しい。
だが、夜空にはギャオスが潜み、ビルの下からは得体の知れぬ殺人鬼が、大塚と小川を追って上がってくるのだ。
「ここに来てどうなるっていうんだ!?」
「待って!」小川の携帯がみたび着信した。
『…フェンスの一番端まで来るんです』苦しげな声が囁いた。
「一番端ね!」今度は小川が大塚の手を引いて走った。
「一番端まで来たわ!」
『見えています。そのままそこにいてください。』電話が切れた。
そのとき、階段口の方を見ていた大塚が叫んだ。
「小川!ヤツラが来たぞ!」

270 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 08:41:17
37−4.
非常階段に続くドアが開いて、中から人影が現れた。
バットを持った女だ、そしてそのすぐ後に業務用カッターの男が続く…。
大塚の予想どおり2人だけではなかった。
出刃包丁、バール、金槌……思い思いの凶器を手に、同じローブか浴衣のような衣裳を纏った男女が次々……。
そのいずれの衣裳にも、様々な大きさの黒っぽい斑点が一面に散らばっている!
「……小川!ここから動くなよ!」
上着を脱いで素早く左手に巻きつけると、小川の盾となるべく大塚は単身前に飛び出した!
「大塚さん!」
「テメエはそこから………な!?、なんだ!?」
小川に「動くな!」と命じようと振り向いた大塚が目にしたのは、信じられない光景だった。
小川を飾る背景のように散らばっていたギャオス避けの照明が遮られている!
その形が描き出すのはとてつもなく巨大なコウモリ!
「巨大ギャオス!」
ギェェェェェェッ!怪鳥は一声短く叫ぶと、屋上に広がった殺人鬼を睨み据えた!
「大塚さん!伏せてーーーーーっ!!!」
小川の叫び声に、大塚は反射的に屋上のコンクリートに身を投げ出した!
その背中の上を目には見えない何かが通り過ぎる!
悲鳴!怒号!そして何かが崩れ落ちる轟音と衝撃!!
そして大塚が腹這いになっていた部分が、突然ガラガラッと崩れ落ちた!


271 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:18:53
38−1.小川をさがせ
「う…………ううう…(こ、ここは?確かオレは屋上に……)」
大塚が意識を取り戻したとき、目の前に広がっていたのは青空だった。
(……ギャオスの殺人音波で屋上が崩れて……オレは下のオフィスに落下して……)
大塚はやっと昨夜のことを思い出した。
「(そうだ……警告電話があって……殺人鬼に襲われて……小川と一緒に屋上に逃げて……………そう言えば)小川は!?小川はどこだ!?」
「どこだ小川!」叫びながら飛び起きると、彼の足のあたりで白衣の男が驚いて振り返った。
ストレッチャーに寝かされ病院に搬送されるところだったらしい。
「おろしてくれ!」転がるように飛び降りると、大塚は小川の姿を探してあたりを見回した。
消防車に救急車に装甲車がぐちゃぐちゃに停車し、そのあいだをオレンジの制服を来たレスキュー隊員、警官、地元の消防、そして自動小銃を担いだ自衛官が忙しなく走り回っている。
そして彼等の足もとにビニールシートを被せられた「人の形をしたもの」が幾つも並べられている。
「ま、まさか!」
一瞬景色が歪んで見え、膝から力が抜けた……
「お……小川…」
だが、よろめき倒れかけた大塚の肩を、男の腕がガッシリ組みとめた!
「小川くんなら、あそこには混ざってないよ。」
振り向くと……見知った顔が笑っていた。
「おお、藤田先生!なんでアンタがここに?」
「昨夜遅くに対怪獣センターのレーダーが巨大な飛行物体を捉えたんだ。たぶん巨大な成体ギャオスで、飛行コースを聞いたらココの上を飛んでるじゃないか!?胸騒ぎがして電話歩かけたが繋がらない。代表電話も報道部も文化部にもかけたが誰も出ない!」
「それで心配してワザワザ来てくれたのか、礼を言うよ。」
「…日が昇り次第飛んできたんだが……、来てたまげたよ。」藤田が背後のビルに向かって顎をしゃくって見せた。「知ってはいるが……殺人音波ってのは、恐ろしい威力だな。」
屋上と階段室のあたりが、斜めにカミソリで斬ったように無くなって、地下駐車場の出口あたりに落下していた。
「ところで上の階をやったのがギャオスだってことは判る。だが、1階から続く大量殺人は何者の仕業なんだ!?」


272 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:21:27
38−2.
「……カッターやバットを持った死体が無かったか?」
「いや、そんなものは無かった。ひき肉みたいにズタズタにされた死体の山なら、屋上のすぐ下やそのもうひとつ下の階に散乱してたが…。」
「そうか……それじゃヤツラはギャオスの殺人音波で……。」
大塚は昨夜の出来事を大塚に話して聞かせた。
「殺人鬼集団だって!?」驚愕のあまり藤田は文字通り目を剥いた!
「そうだ。藤田さん、アンタは知らないかもしれないが、ここ最近東京近郊で惨殺事件が相次いでいたんだ。きっとヤツラがその犯人さ。」
「しかし…気の狂った教祖が率いる新興宗教じゃあるまいし、殺人鬼集団なんて……。」
「忘れたか?昨日会ったとき、天城ノートを見せたろ?正体不明の集団が『新型インフルエンザ』を武器にバイオテロを仕掛けてきてるんだ!」
「なんてことだ!……信じられん。それではあるいは小川くんはソイツらの手に……」
「なんだって!」

273 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:22:55
38−3.
「なんだって!」思わず大塚は両手で藤田の襟首を掴んだ。「それじゃ小川は行方不明なのか!?」
「く、苦しいから放してくれよ。」
我に返った大塚が慌てて手を放すと、苦しげに藤田は言った「…大塚さん、アンタと小川さんを捜して僕は警察や消防といっしょにビルじゅう駈けずり回ったんだ。アンタは見つかった。だが、小川くんは見つからなかった。」
「ちくしょう!なんてこった!それじゃ小川は何処に!?」
「アンタの言うテロ集団に攫われたか、それともギャオスに……。」
「そんなバカな………」悲しみに顔を歪めた大塚だったが、その顔が突然ぱっと明るくなった!「そ、そうだ、あれがあった。」
大塚は腰のホルダーから携帯電話を取り出した。
「電話なら僕もかけてみたよ。でも誰も…。」
「違う!電話をかけるんじゃない。……よかった、壊れてない!ちゃんと動くぞ!」
「大塚さん、ちゃんと説明してくれ!その携帯がなんなんだ!?」
「何ヶ月か前から、小川には命が狙われてる気配があった。だから……」震える太い指で小さなボタンをいくつも押しながら、大塚は答えた「…だからオレは、最悪誘拐されても居場所がつかめるようにと……」
「発信機か!……なら小川くんの居場所がわかるんだな!?」
「そうだ待ってろ!……やった!反応があったぞ!」
大塚の携帯に表示された地図の中に、小さな赤い旗がたった。
それを横から覗き込んだ藤田はアッ!と叫んだ。
「ここは、新型インフルエンザ対策センターから目と鼻の先じゃないか!」


274 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:24:16
39.
同じころ……
米軍のレーダー網が、巨大な物体が海中から猛スピードで飛び出したのを捕捉した!
物体は追いすがろうとスクランブルしたジェット戦闘機を振り切り、猛スピードで西北西の方角へと飛び去る。
米軍はこの物体をガメラと確認、一直線に飛ぶその行く先は日本と考えられた。
東京に巨大ギャオスが現れ、いままたガメラが東京を目指す!
怪獣たちの矛先が、ついに日本へと向けられたのか!?

米軍からの連絡を受け、藤田立案によるところの対怪獣防衛隊が全軍直ちに臨戦体制に入った。
ガメラは、ゴジラがサンフランシスコを襲ったときと同様ほぼ完全な直線コースで飛行を続けていた。
防衛隊はその目標をコース延長上のシオドメ地区と判定。
対ガメラ戦の切り札と考えられた液体酸素爆弾搭載の装輪式ロケットランチャーを配置。
そして凍結状態の個所をピンポイントで狙撃するため、かつて対ゴジラ用に開発された運動エネルギー式ミサイルが続く。
さらに弾の構造強度との関係で飛翔速度が遅い液体酸素爆弾をサポートすべく通常兵器搭載の戦車と戦闘ヘリコプターも出撃。
閉鎖された首都高には次々に戦闘機が舞い下りた。ガメラ出現のあかつきにはそこを滑走路代わりに緊急発進してガメラを叩くのだ!
もちろん近隣の住民には直ちに避難命令が発令され、シオドメ地区へと続く道路は総て閉鎖された。
……だが

「僕は新型インフルエンザ対策センターの……」
「はい!存じ上げております。藤田博士ですね。」
「この向こうにどうしても行かねばならないんだ!頼む!通してくれ!」
藤田はいわば「対怪獣防衛隊の父」とも言うべき人物であり、しかも封鎖エリア内にある新型インフルエンザ対策センター所属の人間である。
その男に「頼む!」と頭を下げられ、通せんぼができる隊員などいるはずもなかった。
こうして大塚と藤田の2人は、小川が持っているはず発信機の所在を示す、赤い旗で示された区画のビル群前に車を乗りつけたのだった。


275 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:25:48
40−1.対策センター
……大塚と藤田が目標のビル前に辿り付くほんの少し前のこと……
「自衛隊の者でーーす!どなたかいらっしゃいませんか!?」
青白い光に照らされたホールに、野太い声が木魂した。
彼らは、「新型インフルエンザ対策センター」の避難を助けるべく派遣された自衛官たちだった。
「……どうしたんだ?」怒鳴り声を上げたヒゲの隊長が呟いた「誰もいないのか?」
受け付けを覗き込んでいた若い隊員が振り返って言った「もうさっさと避難してしまったのではないでしょうか?」
「まさか。車は患者搬送用のものまで含めて全部外に停まってるんだぞ。職員全員徒歩で逃げたとでも言うのか?」
「でも誰もいないなんてそれしか……。」
「隊長――!」カツ!カツ!という靴音とともに、別の隊員が階段を駆け降りて来た。
「医師や看護士は一人も見当りませんが、でも患者はそのままです。」
「か、患者はそのままだと!?」
隊長のヒゲづらに困惑の色が広がった「……ここには意識の戻らんインフルエンザ脳症の患者が150人以上収容されてるんだぞ?その全員が放置されているというのか?」
「全員かまでは判りませんが……。ご自身の目でお確かめ下さい。…こちらです。」
部下の案内で、ヒゲの隊長以下全隊員が二階への階段を駆け上がった。
二階の病室は……ほんとうにそのままだった。


276 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:27:02
40−2.
「ど、どういうことだ?」
入り口にかかったカーテンを撥ね退けた向こうは、倉庫のようなだだっ広いフロアだった。
その一面に簡易ベッドが並べられ、明るいグレーの衣裳を着せられたイルフルエンザ脳症の患者が寝かされている。
そして医師や看護士の姿は一人も見当らない。
「……ホントに患者を見棄てて逃げたとでも!?」
医師や看護士が消えた理由の手掛かりを求めて患者のベッドに近寄ったとき、ヒゲの隊長の目がふとある部分に止った。
「(……患者の足の裏が汚れている……)意識の戻らない患者の足の裏が、なんで汚れているんだ?」
考えの最後の部分は、自分でも知らぬまに声に出してしまっていた。
隊長の呟きに思わず隊員たち全員の視線が集まったそのとき、入り口横に撥ね退けられていたカーテンの影から青白い手がぬっと突き出されたかと思うと、最後尾に立っていた隊員をカーテンの中に引きずり込んだ!
「うわああああああっ!?」たちまち響きわたる悲鳴!だが、ザクッ!ザクッ!という不快な音が始まると、たちまち悲鳴は聞こえなくなってしまった。
予期せぬ事態にフリーズし反応できないでいたのはほんの一瞬だけだった。我に返った隊員たちはただちにカーテンに殺到するとそれを跳ね上げた!カーテンの向こうにいたのは……
…………少女。
さっき引きずり込んだ隊員の体に背後から腕を回して掻き抱き、隊員の胸にはピンクの握りのハサミが深く突き刺さっている。
隊員の胸は真っ赤、そして少女の衣裳は明るい灰色……
(…患者が着せられている服だ!それでは、まさか!?)
驚愕と嫌悪そして戸惑いの混じり合った表情で少女に自動小銃を突きつける自衛隊員たち。その背後で何かが軋む音が、幾つも一斉に響きわたった。
最悪の予感に慄きながらも、ヒゲの隊長は振り向いた………
患者全員がベッドの上に上体を起し、自衛隊員らを見つめていた。
こちらをジッと見つめる瞳からは如何なる意思も感情も読み取れず、ガラス球のようにトロンとしたままだった。
隊長は悟った。
姿を消した医師や看護士がどうなったのか?ということを……。

277 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:30:06
41−1.お守り
ゴオオオオオオオオオッという、頭上から落ちかかるようなジェット機の轟音で小川は意識を取り戻した。
あたりを見回すと、打ちっぱなしのコンクリートの壁に、ガラスも嵌まっていない窓、隅のほうには半分ほどに減ったセメントの袋や固まったセメントがこびりついた鏝などが無造作にうち捨てられている。
どうやら資金繰りがつかなくなったか何かで、建築途中で放置されたビルの中らしい。
建築廃材の中で、ガラスのカケラがぎらっと光った瞬間、うすく油をひいた刃幅の広いカッターが見えたような気がした。
(そうだわ、私は昨日の夜……)
警告電話と正体不明の殺人者、雨の降る屋上、大型ギャオス……
(……私、局の音声にいたはずなのに……今はなぜこんなところに私いるの?)
『誘拐』の語が瞬間頭をかすめ、小川は慌てて立ち上がった。
(逃げなきゃ!………でもどこへ?)
そのとき、小川の背後で人の足が小砂利を踏むチャリッという音がした。

「ああ……、気がついたみたいですね。よかったです。」

間違いなくあの警告電話の声だ。
だが、背後から投げかけられた声であるにもかかわらず、不意打ちだったにもかかわらず、小川は全く恐怖を感じなかった。
昨夜はよく判らなかったが、電話を通していない今は、誰の声なのか小川にはすぐに見当がついたからだ。
泣き笑いしながら、小川は振り返った。
コンクリートのなかに四角く切り取られたような青空を背負い、見覚えのある男が入り口に立っていた、
「万石先生!」


278 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:33:19
41−2.
「お腹が減ってるかしらと思って、コンビニ探しに行ってたんですが……。このへん全然無いんですね、コンビニ。」
笑いながら万石は半透明のビニール袋を、小指の無くなった右手で差し出した。
声に生気がないように、頬はこけ、土気色の肌はガサガサ、指は関節ばかりが節くれだって見え、まるで悪性腫瘍の末期患者のようだった。
じっと見つめる小川の視線に気づいた万石は、照れたような笑みを浮かべた「とうとう両方とも無くなっちゃいましたよ、小指。」
「万石先生!いままで何処で何をしてらしたんですか!」そして小川は、万石が引っ込めるより早く、小指が失われた右手を両手で包むように捉まえた。
「こんなにケガまでして……昨日の晩まで何で連絡くださらなかったんですか!?」
なんとか笑いでごまかそうと考えていたようだが、とうとう諦め万石は頭を下げた「……ごめんなさいです。」
「説明してください!どこで何をしてらしたのか!?なんで連絡してくださらなかったのか。答えてくれないなら、私、怒っちゃいますよ!」
一所懸命に怒った顔を作る小川のことを暫くは花か何かのように眺めていた万石だったが、やがて「覚悟を決める」ように深呼吸すると、おもむろに口を開いた。
「ワタシの口から説明するよりも……小川さんに直接見ていただいたほうがいいと思いますです。」
万石はズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「……小川さんは資格を満たしていないけど、でも見られると思います。…いや、見てもらわなければいけないんです。」
万石はポケットの中から、携帯電話ほどの大きさの物体をつかみ出すと、掌に載せて小川に見せた。
「それは私が差し上げた……。」
「そう、小川さんがワタシにくれた『お守り』です。さあ、ワタシの手の平に小川さんの手の平を被せて、いっしょに石を握って欲しいんです。」
一種の期待と畏れを同時に感じながら、小川は言われたとおり「お守り」の石の上に自分の手を乗せた。
すると………………石が光った!
パアッと暖かな緑の色に!
(この光はあの遺跡のドームの……)

そして小川の意識は、緑色の光の中に溶けていった……。

279 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:34:40
42−1.
(ここは緑光のドーム!?ということは、「大穴」の底!?)
(……怖がることはありません)
万石の言葉だけがどこからか聞えてきた。
(これは、アナタが「お守り」と呼んだものに記録されたファン・リーテンの記憶を目にしているのです。)

ライフルで蜂の巣にされて息絶えたはずの大男の黒人=「王」が、雄叫びを上げ立ち上がった!

(彼がこの時点での「ケモノの王」です。)(「ケモノの王」?)

まるで水道水のように血を流しながら「王」は立ち上がりざまに、手近のインド人を反対側の石壁まで吹き飛ばした。
手には、いつのまにか相手の腰から引き抜いたサーベルが握られている!
そのサーベルが一閃!二閃!三閃!
一撃目は一人目の腕を、二撃目は2人目の胴を、三撃目は三人目の首を切り飛ばし、赤ら顔で禿げ頭の2メートル近い巨漢白人に「王」は迫った!

(知ってるとは思いますが……あの白人がウォレス大佐。総ての元凶です!)

大型の回転拳銃を手に「軍曹」が「王」の前に滑り込んだ!その銃口は、すで「王」の胸に狙いをつけている!

(あぶない!)(心配いりませんよ)

だが「王」は、「軍曹」が撃鉄を引き起こすより一瞬早く、回転式の弾倉をグローブのような手で握り締めた!
「軍曹」の顔に(しまった!)という表情が浮かぶ!

(弾倉が回転しなければ、撃鉄は起せないんです!)

ならば!と「軍曹」は腰の銃剣に手をかけたが、それを引き抜くより早く「王」は拳銃ごと「軍曹」の右手を捻り上げた!


280 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:36:22
42−2.
ボキッという音がして「軍曹」が悲鳴をあげた!彼の右手首は有り得ないような角度に曲がっている!
「王」がキッと視線を上げたとき、すでに卑劣漢=ウォレス大佐はさっさと部下たちの向こうに逃げてしまっていたが、それでもなお、「王」は一人二人と障害になる手下を斬り払ってウォレス大佐に迫ろうとした。
そのとき、小川たちの「視界」が水のように滑りだしたかと思うと、一挙に「王」との距離を詰めた!
背後の気配に気づいた「王」が振り返って右手を突き出したのと同時に、見覚えのある金貨の指輪をはめた華奢な手が「王」の首筋で閃いた。

(外科用のカミソリですね)

ファン・リーテンの視界がジェットコースターのように天井・地面・天井と入れ代わり、次の瞬間石の床ギリギリのところでガツンと止った。
「ぐうう……。」
呻き声が聞こえる。……ファン・リーテンだ。
呻きながら視線が床からもちあがり、ふたたび「王」の姿を捉えた。
「王」の首から真紅の滝が流れ下り、体から目に見えて力が失われるのがわかった。
手下たちの一番後ろ、最も安全と考えられるところでウォレス大佐が笑っている。
さらにその数メートルほど背後のドーム中央には、直径1メートルほどの黒真珠のようなものが宙に浮くように置かれていた。

(ワタシたちが遺跡で見たとき、あれは既に割れていました……)
小川も、ドームで見た「割れたガラス玉」のようなものを思い出した。
(中に封じられたものこそ………本当の敵!「貪り食うもの」アフトゥウです!)


281 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:37:41
42−3.
傲慢そうな笑みを浮かべてウォレス大佐は言った。「さすがはファン・リーテン、鮮やかな手並みだな。」
「当然だ、ワタシは医師だからな。」苦痛を押し殺した声で答えるファン・リーテン。
ちらっとだけ、ファン・リーテンの足首が視界に入った。
壁にでも叩きつけられたとき痛めたのだろう……腫れ上がり始めている。
すぐに視界は上がり、半月型の短剣をかざしながら壁際へとヨロヨロ後退して行く「王」と、取囲み追い詰めていく数名の生き残りインド兵を捉えた。
インド兵の顔からも緊張は薄らぎ、後方の兵の中には既に武器を構えていない者すらいた。
……勝負はついた……誰もがそう思っているのだ。
ファン・リーテンも、ウォレス大佐も……。
大佐の部下たちも……。
しかし「王」には最後の力がまだ残っていた。
「むううううううううっ!」
叫びとともに、首に大きく開いた傷と体中の弾傷から一際激しく血が噴出させながら、「王」は手にした半月型の短剣を敵に向かって投げつけた。
「見当ちがいもいいとこだな。」誰かが嘲笑った。
ヒュルヒュルと回転する短剣は、誰にも命中することなく、ウォレスの手下たちのあいだを通り抜けてしまったのだ。
ふん、と鼻で笑うと、ウォレスは「王」に背中を向け、緑光のドーム中央に歩きだした。
伝説の宝物、「王が守る」という漆黒の宝を、心ゆくまで眺めるために……。
だが!?ヒュル、ヒュル、ヒュル…、急に大きくなった風斬り音にウォレスが振り返ると、的を外れたはずの半月短剣が、唸りを上げ自分目掛けて飛んで来るところだった!


282 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:39:21
42−4.
ブーメランのように楕円を描く軌道で「王」はウォレス目掛けて短剣を投げつけたのだ。
今度は「王」が笑い、逃れられぬ運命を悟ったウォレスは悲鳴を上げようとしたが…。
どすっ!
回転する刃は奇跡のような正確さで、ウォレス大佐の胸に突き刺さった!

(正確に心臓を捉えてますです。)

賊徒の首魁を仕留め、笑みを浮かべる「王」。だが、その笑みは突然引っ込んだ。
心臓に短剣の突き刺ったウォレスの体は、糸の切れた操り人形のように絡まり、縺れ、グルグル回りながら、背後の「黒い球」へと倒れかかった!
まずウォレスがうつ伏せに倒れ、胸に刺さった短剣の切っ先が、ウォレス自らの体重で背中まで飛び出した。
そしてブルルッと痙攣するウォレスの体の上に、ぐらりと揺れた「黒い球」が落下した!
ガラスというよりタマゴの殻が割れるような音がして、球の中からコールタールのような真っ黒の液体がウォレスの体の上へと流れ出した。
すると……奇妙なことがおこった。


283 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:41:04
42−5.
「こ、これはいったい!?」足首の痛みも忘れ、ファン・リーテンが叫んだ
黒い液体が、するするとウォレスの体の中へと退き始めたのだ!
十数秒ほどのあいだに、黒い液体は残さず染み込むようにウォレスの体の中に染み込んでしまった。

(……例え、球が割れたとしても、)

暫くは、なにも起こらなかった。

(……例え球が割れたとしても、聖なる緑光がヤツを封じられるはずだったんです。でも不測の事態が……)

ウォレスの体が、電気でも流れたようにビクッと動いた。

(……そこに逃げ込める場所、ウォレス大佐の死にかけた体があったんです。)

すこしのあいだ、立ち上がるための手掛かりでも探すように石の床を這いまわっていたウォレスの手が、助けを求めるように差し上げられた。
たちまち部下のインド人兵のうち動ける者全員が半ば反射的に駆け寄ると、手をとり肩を貸してウォレスの体を助け起した。

(……ヤツは動き回るための入れ物を得てしまいました。)


284 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:42:49
42−6.
そいつは動ける手下全員が自分の手の届くところに来るのを待っていたに違いない。
……ウォレスが肩を貸していたインド人の首筋に噛みつきながら、腕をとってくれていた手下の喉に狒狒のような手を伸ばして一気に掴み裂いた。
大柄なウォレスの体は、糸の絡んだマリオネットのようにギクシャク動いたが、そこにこめられた力はクマかゴリラ並みらしい。
誰一人、逃がしてはもらえなかった。
ある者は臓に手を突っ込まれ、ある者は肩を引き抜かれて……
しかしその間、声をあげたのは殺される手下たちだけ。大変な力技にも関わらず、ウォレスは一言も言葉を発しない。
生き残りの手下たちが血塗れの骸に成り果てるまでに、ものの数秒もかからなかった。

(……なんて……なんてことを……)
(……すみません。酷いものをお見せして……。でも、小川さん、アナタにだけは絶対に見ていただかなくてはならないんです。)

仔馬は生まれた直後から自らの足で立ち上がろうとするが、ウォレスの動きが、まさにそういう種類の動きだった。
ついさっきまで立って、歩き、走っていたことをすっかり忘れてしまったように、あるいは十年以上も寝たっきりでいた男が立ち上がろうとするように、
両手を前に突き出し、へっぴり腰でバランスをとりながらウォレスは立ちあがった。
滑稽な姿だった。
声を出して笑えたかもしれない。
その姿が全身血まみれで、胸に深々と短剣が突き立っているのでなければ


285 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:44:59
42−7.
ウォレスは中腰のままの無様な姿勢でヨタヨタ歩き出し、事態の急変について行けないまま呆然としていた「軍曹」の上に倒れるように覆い被さった。
「ぐ!?…ぐああああああああああああああああああああっ!!」
何が起こっているのか?など、確かめるまでもない!
そしてそれが、ファン・リーテンも含め、その場にいる全員に洩れなく降りかかるであろうことも……。
「王」との争いで傷つき逃げられない手下たちが、口々に恐怖の悲鳴をあげた。
急いで逃げなければ……。
腫れあがった足首をぶら下げてなんとか立ち上がったファン・リーテンの視界が突然激しく揺れた!誰かがファン・リーテンの体を揺さぶっているのだ!
驚き振り返ると、彼の目と鼻の先に「王」の顔が!
黒い肌の大男は何かを掴んで、ファン・リーテンの目の前に突きつけた!

(あ、あれは!)
(そう、あれは小川さんがワタシにくれた……)
……「お守り」の石だ!

「は、放せ!」
ファン・リーテンは「王」の手を振り解いて、その場から逃げ出そうとしたが、「王」は放すどころかよりいっそう強くファン・リーテンに縋りつくと、彼の胸に「お守り」の石を押し付けてくる!

(小川さん、あれは……あなたの考えているようなものではありません)
(え?)


286 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:46:29
42−8
「王」はファン・リーテンの顔をじっと見つめ、意味の判らぬ言葉を呟きながら、何度も何度も「お守り」を押し付けた。
死期を悟った黒人の目が、ファン・リーテンの目を通して小川のことも見つめている……。
その瞳に宿るのは……哀願?祈り?それとも……。
戸惑い気味にファン・リーテンが「お守り」を受け取ると、「王」は力尽き彼の足もとに崩れ落ちた。石棺のミイラたちが被っていたのとおなじ「茨の冠」が音も無く地面に転がっていく。

(……長い重荷を下ろして、「王」が死にました。)

「この石にいったいどんな意味が……」
急ぎ逃げねばならぬという状況も一瞬忘れ、ファン・リーテンは己の手のなかの「石」をじっと見下ろした。
「……この石に……」
そのとき、沼地からガスが噴出すような、くぐもった声がゴボゴボと響き渡ってきた!
「ヨォ………ゴォ…………ゼェ…………」
我に帰ったファン・リーテンが思わず視線を上げると、こちらをじっと見つめるウォレスの視線と真正面からぶつかってしまった。
毒蛇のような視線が絡みついてくる!

(この…この目!?私、この目を知っています!)

目線はファン・リーテンの目線に絡みついたまま、ウォレスは指で「お守り」を指示した。
「ソ、ソレ……ヨコ…セ…」
蟾蜍が人間の喋るのを真似したら、こんなふうに聞えるに違いない。そんな声がウォレスの口から噴出した。
「…ワ……シニ…ソレ……ヨ…コセ」
手を突き出しながら、ウォレスは更にカッと目を見開いた。
すると催眠術にかかったように、ファン・リーテンの足が一歩前へと踏み出した!


287 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:48:42
42−9.
小川は気づいた。
(こいつよ!大穴の縁で過ごした最初の夜、私もこうして大穴の縁へと誘き寄せられたんだわ!)
あのとき、大穴の底から小川のことを見上げていた者こそ、やはりウォレス大佐だったのだ。

「ザア、ハヤ…グ………ヨォ……ゴ…………ゼ」
匍匐動物を連想させる声がそう命ずると、ファン・リーテンは更にもう一歩踏み出した。
ウォレスの顔にぞっとするような笑いが浮かび上がる!

(何か決定的に間違ったことが行われようとしている!)そう直感した小川は、必死に叫んだ。
(だめ!ファン・リーテン!それをウォレスに渡してはだめ!)
だがもちろん相手に聞えるはずもない!
ファン・リーテンの足は跛をひきながらも、どんどんウォレスへと近寄ってゆく!

「ハヤグ……ハヤグ…ハヤグ…ハヤグハヤグハヤグワタセ」
手を差し伸べたウォレスに向かって、ファン・リーテンは二歩三歩と歩き出した。

(そっちに行ってはだめ!それを渡しては絶対にだめーーっ!!)

「サア……ハヤク……ヨコセ……」
「お守り」を握ったファン・リーテンの手がゆるゆる上がり始め……ウォレスの笑いが更にいっそう絶え難いものになる……。
「貪り食うものの」の勝利は目前だ。
だが、ファン・リーテンの手が彼の顔の高さまで上がったとき、彼の人差し指が光を放った!
ドームに満ちた緑の光が指輪に嵌まった金貨の表に反射し、ファン・リーテンの視界を射たのだ!
「……母さんの指輪……」
ファン・リーテンの口から呟きが漏れた。

288 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:50:11
42−10.
ファン・リーテンの心のスクリーンに痩せやつれた老母の姿が浮かびあがった。
(ファン・リーテンの……お母さん?)
『……偉くなれなくっても構いません。お金持ちになれなくっても構いません。ただ、病気やケガで苦しむ人たちのために……』
それだけ言い残して、母は息を引き取った。
(ファン・リーテン!!お母様の願いを無駄にしたくないなら、逃げてーー!)

「母さんの願い!?」ファン・リーテンの足が止った。
術が敗れたと知ったウォレスの顔から笑みが消え、木の根のように捻じ曲がった指がファン・リーテンを捕まえようと突き出された。
だかしかし!人の体を扱いなれていない「貪り食うもの」よりも、ファン・リーテンのほうが僅かに速かった!
「うおおおおおおおっ!」
彼は「お守り」を握り締めた拳を、ウォレスの禿げ頭めがけ力いっぱいにぶち込んだ!
バキッ!
奇襲に仰け反るウォレス!
そして間髪入れずファン・リーテンは身を翻した!

(逃げて!ファン・リーテン!)

289 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:54:35
42−11.
壁にぶつかりながら、這いながら、あるいは右足だけで跳ねながら、ファン・リーテンは必死に逃げつづけた。
(早く!もっともっと早く!!アフトゥウが人間の歩き方を思い出す前に!)
大穴のぐるりを囲む絶壁とそこに垂れる縄橋子の光景がファン・リーテンの脳裏をよぎった。
(そうよ!大穴の外に逃げるの!それで縄梯子を切ってしまうの!そうすればアフトゥウは……)
痛めた左足は、もう感覚的には「足」ではなく、ただの痛みの塊でしかない。
石壁などに僅かでも触れるたび、地獄の蓋が開いたような耐え難い激痛を解き放つ。
それでも彼は決して足を止めなかった。
(この痛みも苦しみも、いままで母さんの願いに背いて生きてきたことの酬いだ。)
(そんなことないわ!ファン・リーテン!)
別れ際の母の希望に応えるため、遠い地上を、遥かな大穴の外の世界をファン・リーテンは目指した。
「貪り食うもの」の術?が解けた今は、彼もはっきり判っていた。
彼が逃げきれるかどうかに、総ての未来がかかっている。
いまは「貪り食うもの」と化したウォレスに掴まったら?この不思議な石を奪われてしまったら?それでもうお終いだ。
打ち身や擦り傷だらけとなり、倍以上の太さに腫れあがった足首を引き摺って地上を目指すことが、彼にとっての贖罪だったのだ。
母が死に、医師の資格を得、そして……金、名誉、女、………気がつけば何時のまにか金持ち相手の堕胎医に……。
そして官憲の手に落ちる寸前の逃亡……。
(これまで多くの生まれ出る前の命を奪ってきた私が、こうして明日の世界のために走ることになるとは……)
(…お願い!ファン・リーテン!今度こそ負けないで!)

そしてついに、地下道の彼方に光が見えた!
光の世界、明日へと希望を繋ぐ世界へと、ファン・リーテンは転がり出た。


290 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:55:56
42−12.
大穴の底をほとんど這い転げるようにして、ファン・リーテンは縄梯子に飛びつき這い登った。
痛めた方の足が使い物にならないのはもちろんのこと、残りの足もそこまでの道のりに悲鳴を上げている。
痛みに耐えるために噛み締める脣はズタズタに切れ、吐血でもしたように血塗れだ。
肺が焼けたように熱く、心臓はドラムロールを奏でる。
彼の口からくぐもった悲鳴が漏れるたび、小川もファン・リーテンと同じ痛みを感じたような気がしたが、でも、足を止めることは絶対に許されない。
(ごめんなさい、ごめんなさい……でも、頑張ってとしか……)
(……心配いらないよ。母さん。私はもう二度と負けない……)
一段、 また一段……。
ファン・リーテンはゆっくりだが、寸刻も休むことなく縄梯子を上りつづける。
(ごめんなさい……でも……)
(だいじょぶさ…私は負けないよ)
そしてまた一段…。
大穴の縁はもうあと10メートルほどか?
そのとき、縄梯子がガクンと不自然に大きく揺れた!
危うく振り落とされそうになったファン・リーテンが縄梯子にしがみつきながら見下ろすと……
「ウォレス!」
立ち上がったゴリラかオランウータンのような姿勢で、ウォレスが縄梯子の下端を引っ掴んでいる!
(あと少しよ!逃げて!!)
「ああ、」短く応え、脣を真一文字に引き結ぶとファン・リーテンは再び縄梯子を上りはじめた。
すると縄梯子の下から、ファン・リーテンによるものとは違うリズムの揺れが伝わってきた。
ウォレスも登ってくる!
ファン・リーテンを追いかけて!

291 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/27(火) 12:57:47
42−13.
(急いで!)
「うん…」
ファン・リーテンはもう下を見ることなくひたすら上を目指した。
しかし、下から伝わる振動は、どんどん強くはっきりしたものになってくる!
大穴の縁は、もうすぐそこに……。
だが、その僅かな距離が、ファン・リーテンにとっては永遠に埋められない距離となった。
「ぐああああああっ!?」
足から激痛が駆け上がり、頭蓋骨にぶち当たって破裂した!
「ヤアット………ヅ……ガマエ……ダゾ……(やっと捕まえたぞ)」
ウォレスの指が、ファン・リーテンの踵にかかったのだ!
(総ては終ってしまった…、悪魔は自由になってしまう)小川がそう思いかけた瞬間。
「……いや!まだ終っちゃいないよ!」
歯を食いしばって痛みに耐えながら、ファン・リーテンは胸ポケットから「お守り」をつかみ出すと、そのまま大きく腕を一振りした!
緑の弧を描いて青い空へと吸い込まれてゆく「お守り」……。
「お守り」が大穴の縁を越えたのを見届けると、ファン・リーテンはエリの裏に仕込んだ鞘から、ギラッと鋭く光る何かを引き抜いた。
(あれは!)
外科用のメス!地の底深くで「王」の喉を切裂いたのと同じものだ!
小川は悟った!世界を守るため、ファン・リーテンが何をしようとしているのを!
(ファン・リーテン!それではあなたが……)
ファン・リーテンがメスで軽く触れただけで、太い縄はまるで紙切れのように切り離された!
残り一本の綱にぶら下がりながら、どす黒い唾を飛ばしてウォレスが吠えた!
「ギィザァマァ……ナニヲ…スル!?ソレヲキッタラ、ギザマモ………」
「判ってるよ!そんなこたぁ!」
そして不敵な笑みを浮かべると、ファン・リーテンは残り一本の縄も切り離した。
たちまち遠ざかる青い空と白い雲。
ファン・リーテンは落ちてゆく、落ちてゆく、落ちて………
(……さよなら母さん。私はあなたの希望に応えられましたか?)
そしてフォン・リーテンの視界は一瞬で真っ暗になった。


292 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 07:41:38
43−1.時間を越えて…
「いま見ていただいたのが……19世紀におこった『消えた探検隊』事件の顛末です。」

気がつくと小川は、建築途中のビルで万石と向き合っていた。
驚いてあたりを見回したが、コンクリートうちっぱなしの壁、床に散らばるゴミ、間違いなく21世紀の日本であって19世紀のアフリカではない。
戸惑う小川に、子供を教え諭すような調子で万石は言った
「わかっていただけましたか?小川さん。なぜ、あんな恐ろしい場面をアナタに見ていただかなければならなかったのか?」
「万石先生!先生はいま『消えた探検隊の顛末』とおっしゃいましたが……あれはいったい……。」
「あれは総てファン・リーテンが経験した出来事です。この石は、一種の記録装置としての機能をもっているんですよ。もともとはこれを作った……」
……万石は小指の失われた自分の手を一瞥した。
「……『四本指の男』の記録を残すものだったようですが、あまりに特異で印象的な経験だったので、ファン・リーテンの経験も追録のような形で記録されてしまったんだと思います。」
万石は、掌の上で石を何度か裏返しながらしげしげ眺めた。
「はじめてこれを見たとき非常に不思議だったのが………、ファン・リーテンに呼びかけた謎の声の正体でした。ファン・リーテンは自分自身の母の声と思っていたようですが……、私はあの声を、小川さん、アナタだと感じたんです。」
気がつくと、万石の静かな視線が、小川の顔に注がれていた。


293 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 07:44:04
43−2.
気がつくと、万石の静かな視線が、小川の顔に注がれていた。
「考えてみれば不思議なことです。だって、ビデオを見ていて登場人物に声をかけたら、相手が返事をしたようなものなんですから。」
自分の思考の世界に入りかけているのか?万石の声が少し小さくなった。
「…100年以上の時間と、日本とアフリカという距離を飛び越えて、小川さんとファン・リーテンはテレパシーで通じあったというのでしょうか?……私にはわかりません。この石にはいくつかの機能がありますが、タイムマシンの機能までは無いようですし……。でも……」
万石の声に力が帰ってきた
「……でも、これだけは確信がありました。100年以上前、ファン・リーテンは小川さんの呼びかけでこの『お守り』をウォレス大佐の魔の手から守り通しました。もし小川さんが呼びかけなかったら?『お守り』はウォレスの手に渡り、あの時点で世界も終っていたでしょう。」
ファン・リーテンとのやりとりが小川の耳に次々と甦った。
「では私は本当にファン・リーテンと?」
ゆっくりと、だが、力強く頷くと、一語一語を区切るように万石は言った。

「だから…小川さんに、あの場面を、見ていただかなくてはならなかったのです。ファン・リーテンとアナタに、100年前の世界を守ってもらうために。」


294 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 07:49:04
43−3.
「それじゃファン・リーテンの死は、無駄じゃなかったんですね?……よかった、それだけでも本当に……」
小川の瞳から喜びの涙が流れ出したが……その涙は一瞬にして絶望の涙に変わった!
「あ!ああ!……私たちは、なんということを……!」
「……気がつかれたようですね。」沈鬱な面持ちで万石も言った「……すべて私たちのせいなのです。」
小川はコンクリートの床にがっくりと両膝をついた。
「…許して…ファン・リーテン!あなたが命と引き替えにウォレスを大穴の底に閉じ込めたというのに……。私たちがリフトの一方を大穴の底に放置しておいたせいで……。許して……許して………。」

100年前、ファン・リーテンが命懸けで大穴の底に閉じ込めたウォレス大佐を、自由の身にしてしまったのは……小川たちだったのだ。

「アナタだけのせいじゃありませんよ。」万石は優しく小川を抱き起こした。
「……それにヤツはもうウォレス大佐ではありません。『貪り食うもの』の入れ物なんです。」
「??何物なんですか?……その『貪り食うもの』とは!?」
涙の顔で見上げる小川に、独り言のように万石は答えた。
「……アフトゥウ…『貪り食うもの』『貪欲なる魂』。超古代の技術によって生み出された存在で、己以外の総てを喰らい尽くす存在です。」
万石は掌に載った「お守り」の石を眺めながら静かに言った。
「……全部これが教えてくれました。アフトゥウ、ゴジラ、ガメラ、ギャオスそして新型インフルエンザの正体も。」



295 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 07:51:12
44.迎撃
「ガメラ捕捉!速度……!」報告していた自衛官の声が息を飲んだように一瞬止まった「……そ、速度、マッハ5!?」
「そんなバカな!?ヤツのトップスピードはマッハ3からせいぜい3.5止まりのはず!ブラックバードだってそんな速度は出せんぞ!」
「しかし指令、現にコンピューターが!」
衛星、レーダー、そして哨戒機の複合ネットを張り巡らして、対怪獣防衛隊はガメラを待ち構えていた。
怪獣は相変わらず真っ直ぐな進路のまま、驚くほどの超高速で日本目指して飛びつづけている。
ここはガメラ迎撃網の最先端を形成する自衛艦隊だった。
しかつめらしい顔の尉官が口を挟んだ。
「ブラックバードが飛ぶのは大気の薄い超高空ですが、ヤツがいま飛んでいるのは高度100メートル以下の低空域です!」
「そんな高度でマッハ5だと!?空気抵抗だけでどれほどに……………ま、まずいっ!?」
艦隊指令の顔が突然真っ青になった。
「全艦船を大至急ガメラの進路上から退避させろ!」
「た、退避させるのですか?ガメラ迎撃は!?」
「バカもの!あれだけの容積の物体がマッハ5で低空を飛んで来るんだぞ!どれだけの熱や衝撃波が来るか判るか!」
尉官も通信機に飛びついた!
「全艦隊に告ぐ!ガメラの進路上より大至急退避せよ!繰り返す!大至急……」
通信兵が叫んだ!
「ダメです!もう間に合いません!ガメラ来ます!!」


296 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 07:52:51
45−1.エニグマ
「ドームの天井画に描かれていた『四本指の男』は、『貪り食うもの』を構成する方式か術式に干渉して、全く意味を持たないものに書換えました。」
小川と万石はビルの屋上に上がっていた。
「なんだかゴーレムの伝説みたいですね。」
「よくご存知ですね。」驚いたように万石は続けた。「…『生命』を意味する語に一文字加えて『死』に書き換えることで、不死身の巨人を土に還すという伝説でしたね。それでは……」
大学で学生相手に口頭試問でもしているような調子になって万石は小川に訪ねた。
「…『エニグマ』について、知っているところを述べよ。」
小川が困った顔で首を横に振ると、万石は笑顔に戻って話しを続けた。
「……別に知らなくたってかまいませんよ。エニグマというのは戦争中ドイツ軍が使っていた暗号のことです。特別な機械を使って、元の文章を意味の無い文字や数字の羅列に変換した暗号です。
ドイツは絶対の自信をもっていた暗号でしたが、実は戦争勃発以前から解読され始めていて、最終的にはドイツの通信内容は連合国にほぼ筒抜けの状態となっていました。」
そこまで聞いて、小川の顔が明るくなった。
「あ!それ私、映画で見ました!潜水艦が出てきて……」
「ありましたね『Uなんたら』いう映画。」万石もどこか疲れた笑みを浮かべた。「でも、実はエニグマは完全に解読されたわけではなかったんです。ごく最近までどうしても解読できない暗号文が残っていたんですが……。」
「『残っていた』ということは……解読されたんですか?」
「そうです。それも暗号の専門家ではなく素人の手によってね。」
「大勢の専門家やスパイの手によっても解読し切れなかった暗号文を素人が解読したんですか??」
「そうです。……で、どうやって解読したと思います?」
眉を前よりいっそう「へ」の字にして小川が首を横に振ると、万石は静かに答えた。

「分散コンピューティングによる総当りで解読したんですよ。」

297 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 07:56:17
45−2.
「分散コンピューティング…………総当り……?でも、それがこの事件と何の関係があるんでしょうか?」
万石の顔からは、何時のまにか微笑みが消えていた。
「無限の試行………『貪り食うもの』も同じやり方をとったんですよ。本来の方式を復元し、元の力を取り戻すために……。」
「えっ!?……無限の試行?……本来の方式の復元??」
(無限の試行……分散…………総当り………)
小川の頭の中を様々なキーワードが一瞬のうちに駆け抜け、一つの巨大な絵図を形作り始めた!
(……ゴジラはシスコを焼きに来たんじゃない…総当り……ビッグメロン………エニグマ…………総当り!……そしてそれは…総当り!総当り!総当り!)
そして!すべての言葉が繋がった!
「新型インフルエンザなんかじゃないんだわ!」思わず小川は叫んでいた。「……本当の敵は、最初から目の前に!」
「そうです。ウォレスは『貪り食うもの』の一部を気体に近いほどの粒子に変えて世界中にばら撒いたんです。コンピューター・ネットワークではなく、数十億いる人間それ自体を実験台に使って、撹乱された方式を復元するために。」
「本当の敵は……最初っから私たちの目の前にいたなんて……。」


298 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 07:58:01
45−3.
「本当の敵は……最初っから私たちの目の前にいたなんて……。」
貧血でも起したようにふらつきながら、小川はしゃがみこんだ。
「アフリカでの試行は総て失敗に終ったようです。しかし……」万石の顔が厳しくなった「……フランスでは最初の『当たり』が出ました。発生した初期形態の『貪り食うものは』直ちにギャオスたちが共振爆発で始末しましたが……。」
「それではあのあと世界各地で相次いだ共振爆発は……」
「総て『当たり』の事例です。デトロイトでは小型ギャオスが動けない昼間に『当たり』が出てしまいましたがガメラが、そして客船ビッグメロンやサンフランシスコでの『大当たり』はゴジラが、それぞれ殲滅しました。」
うめくように小川が言った。「まるでモグラ叩き…」
「そう、まさにモグラ叩きです。完全な『貪り食うもの』アフトゥウが復活してしまうのは時間の問題でしょう。そして……」
万石は柵も設置されていないビル屋上の端へと歩を進めた。
「……おそらくアフトゥウ復活劇の最後の舞台は………ここ日本になるでしょう。」
「日本で復活!?」驚いた小川は、思わず万石の視線を追った。
万石の視線は、彼らのいるビルから数百メートル東にある白い建物、新型インフルエンザ対策センターの上にじっと注がれていた。

299 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:22:35
46−1.襲撃者再び
一方ほぼ同時刻……。
大塚と藤田の見上げる建物=小川の携帯があるはずの「ビル」は、実は一区画まるごとの新設工業団地群で3メートル近い鉄板の柵で囲まれていた。
車で周りを一周してみたが、よじ登るための足がかりが得られそうな場所は一箇所も無い。
「大塚さん、車輌出入り口に戻ってみないか?あそこなら金網で塞いであるだけだ。」
「よじ登ろうってのかい藤田先生?かなり高かったぜ?」
「他に道は無さそうじゃないか?ガメラも来るらしいし、急がないと。」
「そうだな……あっちにまわるか。」
道幅が狭く普通にUターンできそうにないので、切り返そうと大塚は車の鼻先を歩道に乗り上げた。
ギアをバックに入れようとした瞬間だった!
何かが物影から飛び出してきたかと思うと、バン!という音とともにフロント・ガラス一面が網の目状にひび割れた。
細かな網目上のヒビ割れの向こうで、見覚えのある色あいの衣裳を着た人影がボンネットに飛び乗ると、手にしたバットを振り上げる!
「ヤツらだ!」叫ぶ大塚!
バン!細かな破片を飛び散らせながらフロントガラスが大きく車内に脹らんだ!
「局を襲ったとかいうヤツラなのか!?」「間違い無い!同じ色の衣裳だ!」
そのとき、助手席横のガラスが砕けて藤田の上に降り注いだかと思うと、血の気の失せた腕が車内に突っ込まれた。
前ではバットを手にした影が、ボンネットの上でもういちどバットを振り上げた!


300 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:25:10
46−2.
「そうはいくか!」
大塚はセレクトレバーをリバースに入れると、ハンドルを右一杯まできると同時に床まで一気にアクセルを踏み込んだ!
車は右方向に旋回しながら猛スピードでバック!
ボンネット上と助手席から手を突っ込んでいた二人の襲撃者を一瞬で左に吹っ飛ばした。
しかしそのルームミラーには、ツルハシを振りかざして突進してくる三人目の襲撃者の姿が!
ゴスッ!ツルハシの先端が後部ガラスに突き刺さった!
「畜生!」唸りながら大塚はセレクトレバーをドライブに切り替えると、またもアクセルをベタ踏み!
三人目の襲撃者の手からすっぽ抜けたツルハシを後部ガラスに突刺したまま、大塚の車はロケットのように飛び出した!
「こ、こ……これはどうしたわけだ!?」
「決まってる!」ハンドルにしがみつきながら大塚は吠えた「……小川だ!ヤツら、小川を狙って来やがったんだ!」
スピードを少しも落さないまま、スピンぎみに左カーブを決めると車輌出入り口が見えた。だが、そこにも同じ衣裳の集団が!
「…ん!?なんだ?まさかあの衣裳は!?まさか!?」
驚きの声をあげる藤田。一方大塚は更にアクセルを踏み込みながら叫んだ!
「柵を攀じ登ってる余裕はない!車ごと突っ込むぞ!」


301 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:27:32
47−1.運命
万石は『お守り』を改めて小川に示した。
「小川さん、あなたが『お守り』だと言ったこの石こそ、『貪り食うもの』との戦いにおける最大の武器なんです。」
「武……器…なんですか?」
万石は無言のまま頷いた。
「まず『貪り食うもの』が近くにいる場合、ヤツラが嫌う種類の光を放って牽制し、同時に所持者に知らせます。また、遠隔地に『貪り食うもの』が現れれば、幻視=ビジョンを見せてくれます。」
「それじゃ昨日の夜、電話で知らせてくださったのも?」
「昨日の夜だけじゃありませんです。小川さんのことは、ずっと見守ってました。」
小川が最近ときおり感じていた視線は万石のものだったのだ。
「どうもありがとう………………あっ!」
小川は思い出した。
「そ、そういえば、わたし!ガメラがデトロイトを襲うところを、襲われるビルの中から夢で見たんです!あれも幻視なんでしょうか?」
「夢で……ですか……」
少し興奮気味にそう言った小川の顔をじっと眺めていた万石だったが……やがて悟りきったような表情で口を開いた。
「……やはり宿命なのかもしれませんね。」
「宿命?…ですか?」
「『お守り』の力を引き出すには、ある条件が必要なのです。その条件とは……」


302 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:37:30
47−2.
万石は自分の掌を小川の前にかざして見せた。
(あれ?このポーズはどこかで………)
そう思った直後、小川の中で、天井画に描かれた謎の人物と今の万石の姿が重なった。
「指ですね!」小さく小川は叫んだ!「……天井画の人間は、指が四本しか描かれていなかった。それに、石棺に収められた『王』たちのミイラは指を切断してました!」
「そうです。『お守り』の力を完全な形で引き出すためには、『お守り』を創った男と同じ状態に、つまり四本指になることが必要なのです。」
「四本指にならないと、力を引き出せないなんて……。」
「私が四本指になれたのは……偶然です。でも、小川さんは指を失わないままで、断片的にではありますが『お守り』の啓示を受けました。」
「指を失わないままで……」小川は思い返した。
大穴の縁での最初の夜、『お守り』はウォレスの魔の手から自分を守ってくれたのではなかったか?
ウォレスが大穴の底から上がってきた夜、なぜか寝つかれなかったのも「お守り」のせいではなかったのか?
そして「ファン・リーテンの夢」と「デトロイト破壊の夢」……。
(そうだったんだ……。本当の敵が最初から目の前にいたように、啓示もまた事件の最初から目の前にあった。ただ、私にそれを読み取る力が無かっただけ……)
「……自分を責めてはいけませんよ。」
万石の優しい声に、小川は我にかえった。
「アナタが何を考えているのか、大体は見当つきますです。でも……」
……万石の顔は疲れ、やつれ、そして優しかった。
「……小川さんは悪くありません。すべてはそうなる運命だったんですよ。小川さんも。私のことも……。」


303 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:40:00
47−3.
「最後の戦いのために……ガメラを呼びましたです。おそらくこれが、私の『ケモノの王』としての最後の戦いでしょう。」
ガメラのことを、まるでタクシーかメル友のように「呼んだ」という万石に、小川は驚いて尋ねた。
「ガメラを…………呼んだ?」
「そうです。この『お守り』の持つ最大の機能。それは『ケモノの王』として『契約のケモノ』を指揮する機能なんです。」
小川は遺跡に描かれていた天井画を思い出した。
エメラルドのように緑の光を放つ天井。「ごちゃごちゃしたなにか」を取囲むように立つ怪獣たち。それとは離れた場所で「星のようなもの」をかざす「四本指の男」。
「では、あの天井画の意味は!」
「…怪獣たちを指揮して、『四本指の男』が『貪り食うもの』を封印した超古代の戦いを描いたものなんです。」
老人のような身のこなしで、大儀そうに万石は立ち上がった。
「……ゴジラやガメラ、ギャオスがそれぞれ勝手に『貪り喰うもの』と戦っても絶対に勝ち目はありません。
そこではるかな昔、『四本指の男』は怪獣たちと契約を結びました。彼の指揮のもと、『貪り食うもの』に対し協力して戦うと。」
「それで『契約のケモノ』……」
「そうです。『契約のケモノ』ゴジラ、ガメラ、ギャオスは、かつての戦争の生き残り…そして『契約のケモノ』を指揮する者が『ケモノの王』。つまり、石棺に眠っていた歴代の『王』、そして今の私なんです。だから……。」
……万石の「だから」という言葉に、かすかな影がさしたように小川は感じた……。
「……ウォレスはなんとかして『お守り』を手に入れようとしました。もちろん自分の手で破壊するためです。」
(だから私の家が荒らされたんだわ。『お守り』を捜して……。その巻き添えで管理人さんは……)
そのとき、遥かな東の空を見やっていた万石が呟くように言った。
「…ガメラが到着次第……新型インフルエンザ対策センターを攻撃します。」


304 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:42:11
47−4.
「ま、待ってください万石先生!」小川は自分の耳を疑った。
「…新型インフルエンザ対策センターを攻撃すると、そうおっしゃったんでしょうか?あそこには大勢のインフルエンザ脳症の患者さんが収容されているんです!それをガメラに破壊させると言われるんですか!?」
食い入るように見つめる小川から、万石はそっと顔を背けた。
「………小川さん。あの施設には、患者など一人もいませんです。」
「一人もいない!?……それ、いったいどういう意味なんですか!?」
万石の顔が、必死で何かに耐える表情になった。
「インフルエンザ脳症というのは………ウォレスによって強制的に生かされているだけの状態なんです。『貪り食うもの』の体を再構成するための素材や、耳を通して情報収集するためのいわば盗聴器として。」
「と、盗聴器!?ま、まさかそんなことは……」
しかしここで小川ははっと思い当たった。
大塚の旧友天城は、新型インフルエンザの正体に疑いを抱いて新型インフルエンザ対策センターを尋ねた帰りに、突然発病したのではなかったか?
もし万石の言うように患者がウォレスにとっての盗聴器であるというのなら、そして患者のいるところで天城がその疑問を口にしていたならば?
……大塚の想像していた通り、天城は口を封じられたのだ!
「新型インフルエンザの正体に気づく可能性のあるのは、患者のそばにいる研究者のはずですよね!でも患者そのものが盗聴器だったとしたら?真相に気がついた科学者は……。」
「全員……消されてしまった。」
「そ、そんな……、インフルエンザ脳症状の患者全員が………」
そこまで言って、小川ははっと思い出した。昨夜自分と大塚を襲ってきた一団。彼らの服装を自分はつい最近目にしている!
「昨夜襲ってきた人たちの服装!あの人たちは、新型インフルエンザ対策センターの入院患者ですね!?」
そして小川は、思い当たってしまった。
万石が、小川には絶対に気づいて欲しくないと願っていた事実に………。


305 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:43:39
47−5
「……そういえば……、たしか万石先生のご家族はインフルエンザ脳症で意識不明だったのでは?」
「…そ、それがどうかしましたか?」
万石はあまりにウソが下手だった。不自然にそらした視線が、かえって小川に強い疑惑を感じさせてしまった。
(ウォレスや「貪り食うもの」にとって最大の脅威は「お守り」……。だからウォレスはファン・リーテンを追って「お守り」を奪おうとした……)
(大穴の縁での最初の夜、ウォレスの餌食になりかけた私は、足もとで「お守り」が光ったせいで助かった。だから……)
(……そうよ、ウォレスは私が「お守り」を持ってるに違いないと考えた。だから次の夜、私のテントを捜してやってきた……)
(私の家を荒らしたのもウォレス……目的はもちろん「お守り」……)
万石は小川の両肩を掴んで激しくゆさぶった。
「小川さん!余計なことは考えないで!!……考えないでください!!」
最初は強い命令口調だったのが、何故だか最後の方は哀願しているようだ。
「それ以上考えちゃいけない。考えないで、考えないで下さい。」
それでも小川は考えるのを止められなかった。
小川の思考は、大渦巻きの中心に引き込まれる小船のように、最悪の事実に向かって突き進んでいた。
(………私は「お守り」を万石先生に手渡した。万石先生に幸せが戻ることを願って……でもその夜……その夜に………万石先生の家でおこったのは……!)
小川の脳裏をあの日目にした新聞の見出しがよぎった。

『有名爬虫類学者、万石氏の妻子殺される!!』

「………ああ、まさか、まさかそんな!」
あの夜起った事件の真実に、とうとう小川は気づいてしまった。



306 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:47:07
47−6.
「先生……万石先生……」虚ろな目線で小川は尋ねた。
「……私の、せいなんですね?私が『お守り』を先生に渡したから、だからウォレスは先生の奥さんとノブユキくんを使って……。」
わっと涙が溢れ出た小川の頬を、両の掌でそっと包み込むようにして万石は言った。
「アナタのせいじゃありません。俊枝とノブユキはあの夜にはもう死んでいました。だから小川さんのせいじゃないんです。」
小川の顔をそっと抱き寄せ、子供に昔話でも聞かせるように万石は語りだした。
「……あの夜、小川さんから『お守り』をお預かりしたということを、私は俊枝とノブユキに話して聞かせました。
インフルエンザ脳症の患者である二人に……『自分がお守りを持っている』と話して聞かせたんです。そしてその夜……私は襲われました。」
やはり妻の俊枝と一人息子のノブユキを「殺した」のは、警察の考えていたように万石だった……。
でも………そうさせたのは………
そうせざるを得ない状況を作り出してしまったのは……
「ごめんなさい……、ごめんなさい……」
小川が顔をのせた万石の肩に、涙の染みがとめどなく広がってゆく……。
「……私があんなものさえ先生に渡さなければ………ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「…謝らなくてもいいんです。」
万石は小川の顔を優しく自分の方に向かせた。
「あの夜私が襲われなかったら?そして右手の小指を失った結果として『お守り』を使う資格を備えなかったなら?誰一人『貪り食うもの』とウォレスの企みに気づく事なく、世界は破滅を迎えていたはずです!」
「でも……」
重ねて「でも」と言いつのる小川の前で、万石は静かに顔を横に振った。
「『でも』はもう止めましょう。さっきも言ったはずです。これは運命なのだと。」
そして万石は小川に立ち上がるよう促すと、東の彼方を指さした。
「さあ……来たようです。」


307 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:51:09
48−1.特攻
キキイイーーーーーーッ!
滑り出した後輪にカウンターを当てて車の姿勢を立て直すと、あとは車輌用出入り口まで一直線。
途中の道路には例のグレイの衣裳の集団がうろついているが、車のスピードがのっていれば突っ切るだけだ。
「大塚さん!」ダッシュボードに両手を突っ張って藤田が叫んだ「ヤツラが着てる服!あれはウチのだ!」
「ウチの?そりゃどういう…」
「新型インフルエザ対策センターだよ!意識の戻らない患者に着せてる服だ!」
「……なんだって!?」
スパナや鉄パイプを手にした襲撃者が襲い掛かってくるが、相手が猛スピードで走る車とあっては手出しのしようがない!
だが………
「ありゃなんだ!?」
大塚は、車輌用出入り口のあたりに立つ数人の襲撃者の持っているものに気がついた。
「…自動小銃かっ!!」
バリバリバリッ!
頭を下げながら咄嗟にハンドルを左に切ると同時に、すでに網目状に割れていたフロントガラスに穴が開いてサイドミラーが千切れとんだ。
「も、戻って助けを呼んでこよう!」
「ダメだ!コイツらの狙いは小川だ!コイツらより先に、小川を見つけ出さなきゃならんっ!」
藤田の泣き言を即座に却下すると、大塚は車の速度はそのままで左に大きく弧を描くコースをとった。
なるべく速度を落さず、出入り口に縛り付けてある金網に真正面から車をぶつけるためだ!
遠心力で体が右に飛ばされそうになるのを、ハンドルにしがみついて必死に耐える!
金網がぐんぐん迫ってきた!
「いくぞ!」
グワンという音!そしてガクンとくる衝撃とともに、大塚の車はフェンスの向こう側に飛び込んだ!


308 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:52:52
48−2.
シャッターを破ると同時にブレーキを踏みこんだが、地面には大型トラックが乗り入れても大丈夫なように分厚い鉄板が敷かれていた。
しかも昨夜の雨で鉄板の表面は濡れ、薄く浮いた赤錆が滑り易さに輪をかける!
(…止れるかっ!)
激しくスリップ音を立てながら20メートルほど鉄板上を滑った!
しかし、ABSの作動でスピンはせず、ビル玄関脇の柱に軽く鼻先をめり込ませた状態で車は止ってくれた。エアバッグのおかげで幸いケガもない。
大塚はドアを蹴飛ばすようにして開くと車の反対側にまわり、ショックで放心状態の藤田を助手席から引きずり出した。
バン!
何かが空気を裂いて大塚の頬をかすめた。
振り返ると、車が破った場所から自動小銃を持った襲撃者が敷地内に入り込んで来ていた。
「くそっ!」
二発目が来たときは、すでに車の前部に回りこめていた。
ボンネットの陰から覗くと、思い思いの凶器を手に襲撃者が次々と侵入してきている。
「藤田さん!走れるか?」
「あ、ああ…大丈夫だ。」
二人は大塚の車が盾になってくれるように姿勢を低くしながら、入り口脇に「一号棟」と表示された建物へと駆けこんだ。
「信号はどの辺から来てるんだ!?」と藤田。
「ちょっと待ってくれ!」大塚は携帯を開くと画面を見ながらあちこちに向けてみた。
「……信号が来るのは………こっちだ!」
大塚がパチンと携帯を閉じたとき、左手に伸びる通路の奥でガシャン!と派手にガラスの割れる音が響き渡った。
「どこか別の場所からも入って来やがったな!」
「急ごう!大塚さん!」

309 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:54:21
49−1.貪り食うもの
東南東の空にポツンと現れた点はあっというまに大きくなり…………巨大な岩山となって地響きを立て着地した。
「ガメラよ!」
遥かな高みより見下ろす巨獣に向かい、遺跡ドームの天井に描かれていた「四本指の男」と同じポーズで「お守り」の石を高く掲げ、万石は呼びかけた。
「……契約のケモノよ!約束された代償を支払います!支払いますから……古の約定に従い、私とともに戦ってください!」
小川には、ガメラが「承知した」とアタマを縦に振ったように見えた。
新型インフルエンザ対策センターの建物を指さすと、万石は巨獣に命じた。
「邪悪な敵、『貪り食うもの』はあそこに潜んでいます!ヤツが本来の力を取り戻してしまうまえに、アナタの火球で焼き払ってしまってください!」
ズシンッ!
ガメラが新型インフルエンザ対策センターへとゆっくり向きを変えた。
口の中には既に耀きが生じ始めている。
デトロイトでガメラが放った火球よりも、口の中にあって既に明るさは上だ。
間も無く、鉄やコンクリートすら一瞬で溶解・気化させる大火球が放たれるだろう。
「さあ、焼き払ってくださいです!」
だが、ガメラの先手を打つように、新型インフルエンザ対策センターの建物が勝手に崩壊した!


310 :A級戦犯「エニグマ」:2007/02/28(水) 12:56:12
49−2
タガの外れた樽のように建物の外壁が崩れ落ちると、内部からコールタール状の黒い液体が流れ出した。
すると、瓦礫の中一面に流れ広がった黒い液体の表面から細長いものが何本も立ち上がり、コブラの鎌首のように揺れはじめた。
ただコブラと違うのは、先端が更に幾つにも枝分かれしていて何かを探る「手」のように蠢いている。
「『先端が幾つにも分かれた黒いヘビ』っていうのはこれのことね!」「正体を顕したな!『貪り食うもの』アフトゥウ!」小川が叫び、万石が身を乗り出す。
黒いタール状物質に改めて狙いを付け直すとガメラがくわっと口を開いた!
「滅びよ!アフトゥウ!!」万石が叫んだ!
だが……、いままさに火球を吐かんとするガメラに、小川や万石の頭上越しの弾道で特殊砲弾の雨が突如降り注いだ!
爆発するというより、ただ割れたという感じたの着弾音が響き、砲弾命中個所が一瞬で白く凍りつく!
対ガメラ用新兵器!冷凍弾だ!
ガメラが着陸し動きの止った瞬間を見逃さず、防衛隊が反撃を開始したのだ!

「止めて!!」思わず小川が叫んだ!「ガメラは敵じゃない!敵じゃないのよ!!」
「これが今まで日本で『貪り食うもの』が出現しなかった理由のひとつです。しっかりした防衛隊があってガメラやゴジラ、ギャオスの邪魔をしてくれますから。だから『貪り食うもの』はこれまで、日本ではこれまでおとなしく身を隠していたんです!」

首都高の上で続けざまに火花が散った!カタパルトからの運動エネルギーミサイルの発射である!
ゴジラ以上の防御力と、ゴジラに次ぐ再生能力を持つガメラに通常兵器は効果が薄い。
ゴジラの皮膚を貫通した実績のある運動エネルギーミサイルといえども、ガメラの甲羅を貫通できる保障は無いのだ。
だが、命中個所が凍結していれば話は別だ!
バ!バシュッ!バシュッ!!
凍結していない個所に命中したミサイルは甲羅の表面を削っただけで弾かれたが、凍結個所に命中した3発が甲羅の貫通に成功!
紫の血が流れ出した!

声を限りに小川が叫んだ!
「攻撃を止めてーーーーーーーーーっ!」


311 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 07:40:57
50−1.小川の声
大塚と藤田は、襲撃者の追撃を逃れながら小川の持つはずの発信機の電波を辿りつづけていた。
「ともかく急ごう!さっきの轟音はガメラが飛来した音に間違い無い!もうじき防衛隊の攻撃が始まるぞ!」と大塚。
「……ガメラのとばっちりで自分が育てた防衛隊に殺されるのはかなわんな。」藤田が応じる。
しかし、そう言っているそばからビルの東側で、何かがパンパンと弾ける音が響き渡ったかと思うと、かすかな冷気が漂い渡ってきた。
「冷凍弾だ!」音を聞いただけで藤田は断言した。「対ガメラ用兵器だ。すぐに貫通ミサイルがくるぞ!」
藤田の言葉は鋭い風邪斬り音でただちに証明された。
「……何発か貫通できたな……。」
「軍人でもないのに音だけでわかるのか?さすがは防衛隊の父……」
ふいに大塚の言葉が途切れた。
「どうかしたのか?」
「いや、いま何か聞えたような……」
そのとき!今度ははっきり聞えた!
小川の声で「止めてーっ!」と!
「上から聞えた!屋上だ!!」「間違い無いか?」「ああ!間違い無い!ずっと上の階から確かに小川の声が聞えた!」
だが、「もうこれに用は無い」と大塚が受信用の携帯を折り畳もうとした瞬間、ビシッという鋭い音とともに、手の中にあった携帯の上半分が姿を消した!


312 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 07:46:13
50−2.
鋭い音とともに、携帯の上半分が消滅した!
反射的に大塚が、通路のもと来た方に目をやると、襲撃者が自動小銃でこちらを狙っている!
「曲がり角まで走れ!」藤田の叫びで、二人は数メートル先にある廊下のコーナー部分目掛けいっさんに走った。
バン!バン!バン!乾いた破裂音が来るより一瞬だけ早く、藤田の肩口で何かが爆ぜた!
「ぐあっ!?」
コーナーに飛び込むと同時に肩を抑えた藤田の指のあいだから、赤い血が流れ出る。
「やられたのか!?」
「ああ……
行く手に目をやれば、上階へとつづく階段はすぐそこだ。
だが…。
「ダメだ。」大塚は首を横に振った「…このまま上に行ったら、ヤツラを小川のところまで案内することになる。」
「それじゃあ私たちがオトリに……。」
「それも無理だ。オレたちがここに来たときには、もうヤツラはここに来ていた。つまりヤツらの標的は、オレたちじゃなくて小川なんだ。」
「……オトリ役すら勤まらんか。」
「畜生、どうすれば…。」
そのとき、打開策を求めて周囲を見回していた大塚の目が、あるものの上で留まった。


313 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 07:48:35
50−3.
「……上手くいくかもしれない……」独り言を呟くと、大塚は近くに放置されていた脚立を立ち上がらせて上によじ登った。
「……先進的に見えて実のところジャーナリストってのは喫煙者が多くてね……」言い訳しながら胸ポケットからライターを取り出し、
カチッと火をつけ………天井の突起物に火を近づける……。
すると………。
突然ガラガラ音をたてて防火シャッターが降りだした。
「やった!スプリンクラーはダメみたいだが、防火シャッターはもう生きてるぞ!」
シャッターはガシャンと音を立てて、廊下と階段部分を切り離した。
「だが、あの避難用ドアは……?」
防火扉や防火シャッターには逃げ遅れた人間を閉じ込めないよう、最低限のドアが確保されているのだ。
「…こうするさ」
大塚は、作業ハシゴから降りると、それを避難用ドアに斜めにもたせかけた。
「あとはオレがこれを押さえつけているから…。藤田さん!アンタだけで上に行ってくれ!」
「それなら私がハシゴを……」
「その傷じゃ無理だよ。」大塚は藤田の肩の傷を指さした。「……さあ藤田さん!こんな小細工いつまで保つが判らん!急いで小川を見つけだしてくれ!」
「……わかった。」
もうそれ以上何も言わず、藤田は階段で階上を目指した。


314 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 07:50:24
51−1.戦闘開始
先ずは冷凍弾!そして寸刻をおかずに貫通ミサイル!というパターンで第二が押し寄せ、ガメラの甲羅に開いた穴は四つに増えていた。
しかし、人間の攻撃など一切を無視するように、ガメラは再度「貪り食うもの」に火球の狙いをつけた。
本当の敵は人間ではない!
ガメラはそれを知っているのだ!

「がんばって!ガメラ!」「プラズマ火球を早くっ!!」小川が祈り、万石は叫んだ。

ガメラの口の中が一際耀きを増したように見えた次の瞬間!
黒い液体の中でゆらめいていた「手」がそれぞれに足場を得、蜘蛛の脚のように踏ん張ったかと思うと、「コールタールの池」そのものをズルズルっと空中に引き摺り上げた!
ゴオッ!っとうなりを上げた火球は、何もいない瓦礫の山に炸裂!
「外したっ!」万石が叫んだ!
……だが、そのとき声を出せたのは、万石一人だけだった。
その他の人間は、小川も、あるいは遠方から戦況を観測していた防衛隊員たちも、一人残らず、自分が今目にしているものに言葉を失っていたのだ。
たっぷり10秒以上たってから、ようやく小川がうめくように言葉を搾り出した。
「あ……あれが、『貪り食うもの』なんですか!?」
……「怪獣」というより「妖怪」と呼んだ方が適切な存在がそこにいた。「十数本の偽足によって宙に支えられた、粘液滴る黒い心臓」
……怪物の姿を形容するとしたらそんなところだろう。
だが、小川が驚いていたのは、もっと別のことについてだった。
(ドームの天井に描いてあった『ごちゃごちゃしたもの』にそっくり……あの絵だけ抽象的に描かれてたんじゃない!あの絵は写実的だったんだわ!)

怪物の声が轟いた。
だがそれは、ゴジラやガメラといった「怪獣」や野獣の声とは全く異なっていた。
それどころか「鳴き声」とすら聞こえない。
一番似ているものといったら…………呟く呪詛?異教の祈り?あるいは狂った哄笑か?ともかくそういうものをごちゃ混ぜにしたような声だった。
「『貪り食うもの』……アフトゥウ。ついに現れましたね。」


315 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 07:52:43
51−2.
敵の姿を認めるや、ただちに二発目のプラズマ火球の発射準備に入るガメラ!
しかし、先手を取ったのは『貪り食うもの』だった!
黒い本体から様々な太さの「腕」が次々生え出すと、突風に吹き嬲られる柳のように、ガメラめがけて襲い掛かった!
ガメラも、掴みかかる「腕」を引きちぎり焼き払いするが、始末されるそばから次々と新たな「手」が掴みかかっていく。
次第にガメラの自由が利かなくなってきた。
すると……「黒い心臓」の表面にすうっと縦に切れ目が走ったかと思うと、粘液滴る裂け目がバックリ口を開いた!

「まさかガメラを!?」「超古代の戦いのときでも、ヤツは敵怪獣をああして体内に取り込んでいるんです。」
ガメラの巨体がズルズルと『貪り食うもの』の方に引き摺られだした。
「…ガ、ガメラが食べられる!」
だが、悲鳴を上げる小川に、万石は断言した。
「いや!そうはいきませんよ!」

万石の言葉が終るか終らぬかのうちに、空中からキィーーーンと鼓膜に突き刺さるような音が降ってきたかと思うと、ガメラの動きを束縛していた黒い怪物の「腕」が一本残らず斬り跳ばされた!
「これは!?」「そう!もちろん………」
雲間を抜けて成体のギャオスが急降下!ガメラの甲をかすめて飛ぶと、怪物の胴体にありったけの殺人音波を叩き込んだ!
墨汁が詰まったビニール袋をカミソリで滅多切りしたような光景が展開した。
吐き気を催すような悪臭とともに怪物の全身くまなくから黒い腐汁が流れ出すと、力が抜けたように黒い体がベシャッと瓦礫の中に崩れ落ちた。
しかしそれでもなお黒い怪物は死に絶えてはおらず、体から新たな偽足を生やすと再度立ち上がらんとする!
ガメラの口がくわっと開き、特大のプラズマ火球が飛び出した。
狙い過たずこんどは命中!『貪り食うもの』は炎に包まれた!
だが、まだ死んではいない!
墨汁のような体液が溢れ出て炎が消えると、怪物は再び巨体を空中に持ち上げようとした。
「万石先生!早く止めを!……………先生?どうしたんですか?……先生??」
眉間に皺を寄せ、万石は戦いの模様にじっと目を凝らしていた。


316 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 07:54:38
52−1.ウォレス大佐
「……『貪り食うもの』とは、こんなに脆いものなのでしょうか?」万石は側の小川に問い掛けた。
「…『お守り』の記録だと、10匹以上の『契約のケモノ』を返り討ちにした末に、ガメラのウルティメイトプラズマ、ゴジラの熱線、成体ギャオスの共振爆発の同時攻撃でやっと倒せた怪物だというのに?」
「きっとまだ完全体じゃないからじゃないでしょうか?」「お守り」の記録を見ていない小川は楽観的だった。
「……そういうものなんでしょうか?」
万石はまだ納得できていないらしく、口を開いて何か言いかけたが……。
そのとき、背後の扉が突然開いて一人の男が、万石と小川のいる屋上に転がり出てきた。

「おお!小川くん!やっと見つけたぞ!」
「ふ、藤田先生!なんでここが………」
驚く小川だったが、藤田の肩から下が真っ赤なのを見て顔色が変わった「……どうされたんですか!?そのケガは!」
「大塚さんがキミに持たせた発信機を追って来たのさ。それより、下にキミの命を狙う連中がウヨウヨ集まってるんだ!このケガもそいつらに……。さあ急いでここを……」
小川の介添えを受け立ち上がったところで、はじめて藤田は、屋上の突端に立つもう一人の男に気がついた。
「あんたは……あんたは万石さん!なんでアンタがここに!?」
「藤田先生!小川さんの命を狙う連中というのは?」
よろめく足取りで、万石に近寄りながら藤田がいった。
「あれは新型インフルエンザ対策センターの昏睡患者たちだ!それが何故だか起き上がって、人を殺してまわってるんだよ!」
「そうか!」合点がいったというように万石は頷いた。「なら……あそこでガメラ、ギャオスと戦ってる怪物はオトリですね!きっとウォレスもこっちに……」
万石はガメラへと向き直った。
「ガメラよ!!」
そして………、そう叫んだだけで、突然万石は泳ぐように両手で空を掻くと前のめりに倒れた。
その背中には、黒ずみ湾曲した短剣が突き刺さっている!
何が起ったのかさっぱり理解できない小川の目の前で、藤田が万石の手から『お守り』をむしりとった。
「ずいぶん手間をかけさせられたな……」
誰かの悲鳴が聞えると思った。
それが自分の悲鳴だとは、小川は少しも気づかなかった。

317 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 08:00:07
52−2.
「どうしたんだ藤田さん!?いまの悲鳴は何だ!?何があったんだ!?」
予期せぬ悲鳴に思わず階段を駆け上がってきた大塚だったが……。
「別にどうもしないよ。大塚さん。」ふりかえった藤田は平然と答えた。
小川がいるのは予想どおりだ。
だが、藤田の足元には誰かが倒れていて、小川はその誰かを庇うように覆い被さりながら、引き攣った真っ青な表情で藤田を睨みつけているのだ!
しかもよく見れば、倒れているのは失踪した万石で、背中には短剣が突き刺さっている!
「小川くん、別に悲しむことはないじゃないか?」万石の体に取りすがる小川を見下ろし、藤田は薄笑いを浮かべていた。
「怪獣たちを指揮する『王』は、『貪り食うもの』を倒した暁には、怪獣たちの手で死ぬ定め。……そういう契約になってるんだよ。万石は教えてくれなかったのかい?」
「……し、死ぬ定めだった?万石先生が?」
「藤田さん……説明してくれ。これはいったいどういう……!?」
藤田の代わりに小川が叫んだ!
「大塚さん!あの人は藤田先生じゃありません!」
「藤田さんじゃない!?そりゃいったいどういう……。」
混乱気味の大塚に向かい、藤田は嘲るように笑って見せた。
「ここまで案内してくれた礼だ。私の口から説明してやるよ。」

藤田の背後の遠景ではガメラとギャオスの連携に明らかに狂いが生じ始めていた。
「ケモノの王」だった万石が指揮をとっていないからだ。
ブルブル激しく体を震わせると、『貪り食うもの』の反撃が始まった。


318 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 08:02:19
52−3.
「……100年前、『貪り食うもの』アフトゥウは棺からの脱出には成功したが、ファン・リーテンに邪魔されて大穴の底に閉じ込められてしまった。」
掌で『お守り』を弄びながら、藤田は話しはじめた。
「大穴の底に叩きつけられても、ウォレス大佐はアフトゥウの力によって死ぬことはなかった。ただ、死にこそしなかったが、手酷い損傷を回復することすら困難だった。大穴の底には損傷の回復に必要な食料が殆ど無かったからだ。」
「そうか!それじゃあの真っ白な骨は……。」
大塚にぞっとするような笑みを返すと藤田は言った。
「……手下の死体を食い尽くすと、もう大佐の食えるものは無くなってしまった。その状態で100年以上、大佐は待ちつづけた。チャンスが巡ってくるのを。大穴を脱出できる日を。」
鳥も獣も、昆虫でさえも決して寄り付かない大穴の底で、ウォレスはじっと辛抱強く待ち続けたのだ。
「やがて……ウォレスの体が朽ち果て、太陽の耀く間は外に出られないほどにまで弱ったころになって、ついにチャンスは巡ってきた。」
(私たちの取材チームのことだ。)小川は身震いしながら思い出した。(……あのとき、私たちの足元では悪魔が……)
「…新しい肉を得ようと、大穴の縁に立った女をこっちに誘い込もうとしたが、それは『石』の耀きに阻止された。だが……」
歯をむき出して、藤田は笑った。
「……翌晩、とうとうチャンスがやってきた。」


319 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 08:06:29
52−4.
「オマエたちが放置していたリフトに乗って大穴の外に出るとすぐ、大佐は『石』を捜した。しかし、前の夜に光ったはず場所をいくら捜しても見つからない。
あの女が持ち去ったものと考えた大佐は、『石』を手に入れるのはひとまずおいて、新たな体を確保しておくことにした。」
「新たな………から……だ?」乾いた声で大塚が尋ねたが、聞えたはずなのに何故か藤田は無視して答えなかった。
「大佐が『大穴』を脱出した以上、ギャオスが来るのは予想がついた。だから大佐は本体を新たな体に移し、抜け殻の胴体に昨夜の女を捜させた。もちろん『石』を手に入れるためだ。残念ながら『石』の入手には失敗したが、ギャオスをひきつけるオトリの役にはたってくれた。」
「それであの夜、ギャオスは大穴の上から離れなかったのか!」
「そうだ……そして後は……キミたちの知っているとおりだ。」
藤田は、声無き嘲笑の笑いを浮かべた。
「新型インフルエンザに対する国際的な警戒を隠れ蓑にして世界中にひろまった。人間が組織だって抵抗できないよう、国家の指導層を葬る一方で、邪魔な怪獣どもを排除する作業を愚かな人間どもに分担させた。」

遠景ではガメラとギャオスに反撃を加えていた「貪り食うもの」の動きが、ふいに停止していた。

「……どうやら戻ったようだなぁ」
大塚が叫んだ。「戻っただと!?何がだ!?」
「ここを襲っていた連中さ。彼らもアフトゥウを再生するための「正解」キーを持ってるからね。一人といえども無駄にはできない。」

「貪り食うもの」の体に、突然小波が走り抜けた!
「さあ、これからますます強く、ますます不死身になるよ。」


320 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 08:10:22
52−5.
「……ますます強く、ますます不死身になるよ。」
藤田の言葉は直ちに実証された。
「黒い心臓」が縦に伸びあがったかと思うと、そこからそれぞれ一対の手足が生え出した。
「手」の間の胸?は女性的ななだらかさを描いて隆起し、腰も丸い弧を描いたが、人間的なラインは怪物のグロテスクさをかえって強調するだけだ。
盛り上がった背中からは膜質のツバサが、そして頭のあるべきところは、最初から形成されていた無数の蠢く「黒い腕」に覆われている。
そして……小川が「デトロイト破壊の夢」で聞いたのと同じ嬌声が、あの夢の中での何万倍もの音量でぶちまけられた!
「王の……いや、女王の復位宣言というわけさ。」

満面の笑みを浮かべて勝ち誇る藤田に、万石の頭を支えた姿勢で小川が鋭く叫んだ!
「真実に気がついた人は、みんな殺したのね!」
「そうさ。気がつくのは研究者だ。連中は最初から私の手の中にいるようなものだからね。殺すことなどワケもない。もっとも、あの天城とかいうジャーナリストが見破ったのには驚いたが……。」
友の無念を思い、大塚が口の中でケモノのように唸った。
「『石』はキミから万石へと渡った。」
小川は、自分のことが「女」から「キミ」に代わっているのに気づいた。
「……だが、大穴の底のドームで緑光を浴びている人間には、ワタシの疫病には感染しない。だから小川の家には……」
……今度は「キミ」から「小川」になった。
「…直接ワタシが行くしかなかったし、万石のところには『ワタシの使い』をやった。」
ここで少しだけ藤田が渋い顔になった。
「ところが、『使い』の失敗で万石の右手小指を切り落としてしまい、ヤツは『石』を使う条件を備えてしまった。怪獣たちの動きに連携が出てきたからすぐに判ったよ。
おまけに危険は無いと判断していた小川まで、ワタシの事務所までやって来て『アフトゥウ』の名前まで口にした。こりゃもう放置するわけには行かない。だから昨夜も人をやったんだが、これも万石に邪魔され失敗してしまった。ところが……」
藤田がまた皮肉っぽい笑顔に戻った。
「……ケガの功名というべきか、とうとうこうして念願かない『石』を手に入れられたったわけさ。」


321 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/01(木) 08:20:34
52−3.
「さてと…、それじゃあ儀式のハイライトだ。」
もったいぶって藤田は二人に向き直った。
「お引き合わせしよう。……100年以上前の英国人……。英国陸軍歩兵大佐にして……」
……ワイシャツのエリを両手で掴み……。
「……『貪り食うもの』アフトゥウの花婿……」
………エリを掴む指に力が入った。
「……バーナード・ゴードン・ウォレス大佐だ!」

ぶちっ!

音を立てて、ボタンを引き千切り藤田はワイシャツの前を開いた!
「…きゃあっ!」小川が思わず顔を背けて悲鳴を上げ、大塚は吐き気に見舞われた!
それは巨大な人面疽だった。
……藤田の胸一面に、紫色に腐敗し、ところどころ陥没したような顔が貼り付いている。
「ワレハ……ウォレス……」藤田の口から、藤田のものではない声が流れ出した。
「……ワレハ、あふとぅうノ花婿。ワレノ貪欲サヲ愛デ、あふとぅうハ、ワレヲ花婿トシテ迎エタ。」
「……私は藤田。」声が藤田のものに戻った。「ウォレス大佐に見出され、私はアフトゥウとウォレス大佐の僕となった。」
「『新しい体』ってのはこういう意味だったのか。」吐き気を堪えながら大塚は言った。「あの夜、藤田先生はウォレスの細胞を直接体に植え付けられてしまったんだ!」「それで悪魔の奴隷に!?」
大塚と小川のやりとりなど、もう藤田・ウォレス大佐の耳には入っていなかった。
「怪獣どもを操る『石』ガ、ナケレバ、モハヤ私ノ邪魔をするモノハいなイ。」
「石」を掴んだ藤田・ウォレスの腕の筋肉が激しく波打ったかと思うと、「石」に鋭い亀裂が走った!
「止めてっ!」とっさに飛びついて止めさせようとした小川は、立ち尽くす大塚の足元へと邪険に跳ね飛ばされた。
「コレで、わタしの……」藤田の顔と、胸の顔がともに歯をむき出して笑った。
「……勝ちだ!」
ガキッ!短い音が小川にも聞えた。

そして次の瞬間、「石」は真っ二つになって藤田の手から転がり落ちていった。


322 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 08:32:24
53−1.
ガメラとギャオス対「貪り食うもの」の戦いはまだ続いていたが、ガメラとギャオスの連携は完全に失われ、戦いの主導権は『貪り食うもの』に移ってしまっていた。
ガメラとギャオスはそれぞれに殺人音波とプラズマ火球を放つが、狙いもタイミングもバラバラで全くと言っていいほど効果が見られない。
「貪り食うもの」は自分の身長の何倍もある触手を繰り出しては、ガメラやギャオスと戦う一方、同じ触手で周囲にあるものを手当たり次第に捉えては、次々と体の中に取り込んでいく!
「アフトゥウにとっテ、自分以外のモノは総テ食べルベきモノだ。好き嫌いナく、どンドん食べル。ドんドン食べテ、果てシナく大きクナる。」
「まさか地球まで食っちまうつもりじゃないだろうな!?」
せめて上げ足ぐらいとってやろう程度の科白だったが、藤田・ウォレスの返す言葉を聞いた大塚の顔がひきつった。
「もちロん食うダ。」当然だろ、といった口調だった。「地球も食ッて、月モ火星も金星モ食って、太陽ダって食っテヤるんダぁよ。それが『貪り食うもの』とイう名の由来だカらネ。」
「悪魔!」珍しく小川が感情を露わに罵った。
だが、藤田・ウォレスは小川や大塚に対する興味を全く失ったらしく、ガメラ・ギャオスはるかな戦況を面白そうに眺めてながら言った。
「アの2匹、ゴジラ抜キで勝てるツモりナノか?かツテの戦イでモ仲間の怪獣ヲさンザん倒さレた末に、三匹ガカリでやっト封じたとイウのに?」
ガメラがプラズマ火球を放った直後、奇妙な歌が降って来た!
「ぎャオすメ、単独デ共振爆発を発動するつモリカ。マサニ捨て身だナ。」
ギャオトとガメラの戦い振りを鼻でせせら笑うと、藤田・ウォレスはタクシーでも停めるように片手を上げた。
「…そロソロ、オワリにしよウ。」
「貪り食うもの」の触手の中でも特に長大な一本が空気を切って伸びてくると、グルグルッと藤田・ウォレスの体に巻きついた。
小川が「あっ!」と叫んだときにはもう触手は既に収縮していて、藤田・ウォレスの体は「貪り食うもの」の内部に取り込まれたあとだった。
「……たぶんヤツも『正解』キーとかいうのを持ってるはずだ。」大塚ががっくり両膝をついた。「それであのバケモノが完全体になるに…。」

323 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 08:34:03
53−2.
「……違いない。」と大塚が結ぶより早く、「貪り食うもの」の外観に変化が生じた。
それまで「足」だった部分の中央に亀裂が生じ、それが一気に背中側と腹側の鳩尾近くまで広がった。
そしてそのまま上体がゆっくりそり返ってゆき、「腕」だった部分が地面に触れると同時に足がぐるりと天を仰いだかと思うと、次の瞬間切れ目の部分で「足」を含む下半身全体が、左右にだらりと展開。
左右両側に100メートル以上展開した「足」から胴にかけて皮膜状のヒレないしツバサが発生。
その端にはデタラメな間隔で太さも長さも様々な触手が房飾りのように垂れ下る。
ヒレが、風を孕んだように脹らむと、大地を掴んでいた「手」が大地を手放した。
………全体の形状は……大きなヒレかツバサの這えた真っ黒なウミユリ、あるいは頭の部分に触腕に飾られた単口の開いたコウモリだろうか?
それが引力を無視するように宙に浮いている
…どこからともなく「あふとぅう、あふとぅう、あふとぅう」というような声が溢れ、これに呼応するように上部の亀裂から媚びを含んだ女性の嬌声のような音声が溢れ出した。


324 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 08:35:52
53−3.
成体ギャオスの「歌」と、「貪り食うもの」アフトゥウの嬌声が、東京の空の支配権を巡って争いはじめた。
敵はギャオスとの戦いに集中している!と見たガメラは、すかさずアフトゥウの胴体ど真ん中を狙って特大の火球を叩き込んだ!
距離は外すのが難しいほどの至近距離!火球は狙い過たず命中!
……だが、命中したはずの火球は、爆発もしないままアフトゥウの黒い胴体に吸い込まれるように消えた。
「爆発しなかった!?」見たものが信じられないようすで大塚が言った。
「…それよりも…吸い込まれたように……」我が目を疑う気持ちは小川も同じだ。
「…や……闇……」
小川の膝の上から苦しげな声が聞えた。
「ま、万石先生!」
「アフトゥウは……闇の……メラノーマ、ただ、外から……攻撃しても……」
だが、そこまで苦しげに言ったところで、万石の口から大変な量の血液が溢れ出した。
万石の命は尽きようとしていた…。
「万石先生!どうすれば!どうすれば『貪り食うもの』アフトゥウを滅ぼせるんですか!?」
小川は泣きながら万石を必死に揺さぶった。だが……万石にはもうそれに答える力は残されていなかった。
「俊枝…、ノブユキ…、仇を、討ってやれなくて……」
妻子への詫びの言葉を最後まで口にすることすら許されず、真っ二つに割れた「お守り」と泣き崩れる小川を残して、万石は息をひきとってしまった。


325 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 08:39:09
53−3.
アフトゥウの触腕から、黒い稲妻のようなものがガメラめがけて撃ち出された!
命中の瞬間、その衝撃で甲羅に開いた幾つもの貫通孔が、蛇口のように紫の血を噴出。
たまらず二三歩後退するガメラ!
そこに追い討ちの二撃めが撃ち込まれると、ついにガメラは仰向けにひっくり返った。
攻撃がガメラに向けられたと見るや、至近距離から殺人音波のシャワーを浴びせんとギャオスがツバサを翻しアフトゥウに迫る!
敵に背中を向けているように見えたアフトゥウだったが……。
ギャオスが迫ったそのとき、飛行機の翼かヤジロベエのように左右に開いていたアフトウウの「腕」が、何の前触れも無く素早く動いてギャオスを捉えたかと思うと、そのまま一気にハサミのように閉じ合わされた!
……次の瞬間、成体ギャオスの体は真っ二つになってアフトゥウの足元に落下していた。
残るは一匹。ガメラだけだ!
嬌声を上げながら、アフトゥウが仰向けのガメラの方へと向き直った!

「まずいぞ!ガメラも殺られる!」大塚が叫ぶ!

黒い稲妻を放つ触腕が何本も波打つように動き出した!
ダメージの大きいガメラは、まだ立ち直れない!
アフトゥウが触腕を振り上げる!
しかし突然海中から青白い閃光が走り、アフトゥウの周囲に猛烈な爆炎が巻き起こった!

思わず歓喜の叫びを上げる大塚!「やったぞ!あれは!」

激怒の雄叫びをあげ、もう一匹の怪獣王、ゴジラが海中からその巨大な姿を現した!


326 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 08:40:44
53−4.
ゴジラの形相が怒りに歪み、口から再び熱線がアフトゥウめがけ解き放たれた!
狙いは正確!……だったが…。
「……これもか!」呆然とする大塚!
熱線はまたもアフトゥウの闇へと吸い込まれてしまった……。
周囲に燃え盛る炎は、アフトゥウに何のダメージを与えていない。
(ガメラとギャオスが2匹がかりで勝てない相手に、ゴジラ1匹で何ができるのか……。)絶望しかける大塚。
だが、絶望するにはまだ早い!
轟音を上げ、回転ジェット噴射でガメラが空中に飛び上がった!
ゴジラの熱線のエネルギーでガメラが蘇生したのだ!
タッグチームのようにゴジラの50メートルほど横に着陸するガメラ。
チャンピオンベルトを腰に巻く者同士の黄金タッグチームだ。
しかし、アフトゥウに対し、ガメラのプラズマ火球、そしてゴジラの熱線はともに全く効果が無い。
かつてアフトゥウを倒した方法を知っていたはずの万石は死んでしまい、それを記録していた「お守り」は藤田に破壊されてしまった。
ゴジラとガメラは、指揮する「ケモノの王」すら不在のまま、自らの意思で「貪り食うもの」アフトゥウと戦っているのだ。

アフトゥウの無数の触腕がムチのように唸り、黒い稲妻が土砂降りの雨となってゴジラとガメラに襲い掛かる!
しかし2匹の怪獣王は退がらない!退がるわけにはいかないのだ!
低い姿勢でゴジラが飛び出した!


327 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 12:17:54
53−5.
熱線が効かないなら肉弾戦あるのみ!低い姿勢でゴジラが突っ込んだ!
横に薙ぎはらう触腕の下を掻い潜り、縦にしなう触腕は横にかわして敵のふところに飛び込みざまに体を反転!
ビルをもなぎ倒すフルスイングの一撃!強力なシッポをアフトゥウに叩き込んだ。!
しかしアフトゥはわずかに揺らいただけ。もともと引力を無視して宙に浮いている相手へのシッポ攻撃は、いわば「暖簾に腕押し」になってしまうのだ。
歯噛して敵を睨みつけるゴジラに、左右から触腕が次々襲い掛かる。
ゴジラはこれを片端から引き千切り、食い千切り、焼き払っていたが……。
左右からの攻撃に気をとられているゴジラを、背後からギャオスをも捉えたあの長い腕ががっきと捕まえた。
そしてそのまま一気に、ゴジラには体重など存在しないかのように軽がると、頭上高く持ち上げた!
すかさずもう一方の腕が立ち上がった!ギャオスを真っ二つに食い千切った攻撃が来る!
だがそこに、巨大な炎の車輪が飛び込んだ!
ゴジラをも真っ二つに食いきろうとするアフトゥウの両腕の間に、回転ジェットでガメラが飛び込んだのだ!
ガメラがぶつかった衝撃で、ゴジラはアフトゥウの両腕の間から弾き出された。
ならば代わりにと、アフトゥウはガメラを食い千切ろうとするが、甲羅があってしかも回転ジェットを発動しているガメラは簡単には食いきれない!
大顎かハサミのように食いつく両腕が、回転ジェットに巻き込まれたように捻じれた瞬間、ガメラも死地から素早く飛び出した!
二大怪獣王はなんとかピンチを切り抜け、最初と違い今度はゴジラとガメラでアフトゥウを挟み撃ちする立ち位置になった。
すると今度は……アフトゥウの方が動き出した!



328 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 12:19:50
53−6.
両側に長く展開していた両腕が、また一本のように合わさると同時に、アウトゥウの体が上へ上へと伸び上がりだし、数秒後にはまるで天地を繋ぐ黒い柱のような姿になった。
無数の触手は、空中のある一定の面を這って額縁のように柱の周囲を飾った。

「なにが……始まるんだ?」

大塚にはもちろん判らない。
だが、ガメラとゴジラはもちろん知っている!彼らは超古代の対決で、すでにこれを一度見ているのだ!
「総てを暗い尽くす口」が開こうとしている!
超古代の二大文明を根こそぎ滅ぼした悪夢の攻撃が、間も無く……。
なんのまえぶれも無く、黒い柱となったアフトゥウの上から下までにチャイナドレスのようなスリットがはいったかと思うと、次の瞬間それが左右にバックリ口を開いた!
同時に、猛烈な勢いの吸引が始まった!
瓦礫が、土砂が、真っ二つにされたギャオスの死体から、海水や燃え盛る炎までもが片端から吸い込まれていく!
そしてそれを糧にするかのごとく、額縁のように空間を這っている触腕が伸び育って支配領域を広げているのだ!
「…本当に…全部食う気だ!」呆然と呟く大塚!
触腕が領域を広げて大きくなっていくに従い、吸引力も次第に強まり始めた。
もうゴジラとガメラは吸い込まれまいと踏ん張るだけで精一杯だ!
それにまもなく、大塚と小川のいるビルの屋上も吸引力の射程に入るだろう!
掴まる場所を慌てて捜しながら大塚は小川に叫んだ。
「小川!早くどこかに掴まれ!」


329 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 12:21:55
54−1.三人の運命
小川!早くどこかに掴まれ!という大塚の叫びは、小川の耳には届いていなかった。
二大怪獣王対アフトゥウの怒声や爆音が轟き、アフトゥウの吸引力が次第に力を増すなかで、妻子の仇を討とうとして果たせなかった万石の死を、小川は一人悼んでいたのだ。

万石の遺体を横たえると、二つに割れた「お守り」を一つにあわせた上で、万石の両手で持たせてあげようとしたが上手くいかない。
小指が無いので手の座りが悪いからだと、小川は気がついた。
(奥さんとお子さんに襲われて先生は小指を……)
そのときの万石の心中を思うと、小川は胸がひどく痛んだ。
(…ご自分の手で、愛するご家族を死なせたあと、どうやって先生は悲しみに耐えられたのか?)
耐えられるはずは無いと、小川は思った。
耐えられなかったからこそ、自分の命と引き替えに「ケモノの王」として「貪り食うもの」と対決する道を選んだのだ。

『……運命だったんですよ……。』

その万石の言葉が、小川は悲しかった。
「万石先生……」
白い頬を涙が伝い、小川は組み合わせた万石の手に自分の手を重ねた。
止め処なく零れ落ちる涙が、小川の頬を、小川と万石の両手を、そして『お守り』を濡らし、「お守り」のヒビにも流れ込んでゆく……。
そして小川の涙が『お守り』の総ての亀裂を満たしたとき、
奇跡は起った。


330 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 12:25:09
54−2.
瞼を通しても見える緑の光に小川が目を開くと、涙で歪んだ景色の中、指のあいだから緑の光が漏れ出している!
彼女の涙で、「石」の内部の破壊されたはずのある種の回路が繋がったのだ!
そして……
(……乙女よ……)
(え!?)突然の呼びかけに顔を上げると……緑の光の中に見知らぬ男が立っていた。
痩せた長身の白人だった。コケた頬は、まばらな無精ヒゲに飾られ、コバルトブルーの瞳には、疲れと静かな諦観とが同居しているののを感じとれる。
(……見知らぬ人?ほんとうに?)
……いや、見知らぬ男ではない。
直感的に小川は悟った。
(ファン・リーテンだ。目の前にファン・リーテンがいる!)
見知らぬ白人、いや、ファン・リーテンは言った。
(名も知らぬ乙女よ、私の光を撃つのだ!)
(アナタの光!?それは……)



331 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 12:26:47
54−3.
緑の光の中、ファン・リーテンはアフトゥウを指さした。
(…あっ!あの光は!?)
総てを飲み込むアフトゥウの闇の中に、たったひとつ、動きも吸い込まれもしない何かが瞬いている!
そして小川が気づいたことがもうひとつ!
「金色の耀き」を示した指に指輪が一つ嵌まっている。
それは確かに見覚えのある指輪だったが、小川の記憶では嵌まっていたはずの小さな金貨が外れてしまっている。
小川は、ファン・リーテンのいう「ワタシの光」の意味がわかった!
大穴の底、緑光のドームで、ファン・リーテンがウォレス大佐を殴ったとき偶然外れたビザンチンの金貨だ!
裏世界に落ちた息子の心の中にあって、たった一つの耀きだった亡き母の形見の指輪!
ウォレスの脳に食い込んだ金貨は、ウォレスや藤田とともにアフトゥウの内部へ!
だがしかし、我が子の行く末を案じる母の祈りは、『貪り食うもの』の闇の中にあっても、いまだ光を失っていない!
小川が叫んだ!
「ゴジラ!あの金色の光を撃ってーーーー!!」



332 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 12:28:11
54−4.
「ゴジラ!あの金色の光を撃ってーーーー!!」
喉も裂けよと小川が絶叫!
それまでは吸い込まれまいと必死に耐えていたゴジラだったが、カッと目を見開いたかとおもうと、口から目も眩む耀きの熱線が「ファン・リーテンの光」をめがけ空を切り裂いた!
またも吸い込まれたかに見えた熱線は、狙い過たず小さな点のような金貨を直撃!
その瞬間!アフトゥウの内部の闇に光が灯った!
それまではアフトゥウ内部の無限の闇に吸い込まれて効果の無かった、ゴジラの二大火力が、一瞬、怪物の体内で太陽となって燃え上がったのだ!
内部からのエルネギーを受け、身をよじり苦しむアフトゥウ!
「闇を失ったアフトゥウはもう不死身ではないわ!…ガメラ!ウルティメイトプラズマよ!!」
命じられる前からすでに、ガメラはマナエネルギーを集め始めていた!
甲羅の上に星の命の脈動が集中!傷だらけの甲羅がバッと開いた!
「…ゴジラも!」
図ったような完璧なタイミングで、ウルティメイト・プラズマと熱線が左右からアフトゥウを捉えた!
しかしそれを吸い込む「無限の闇」は、内部の耀きに追い払われて存在しない!
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…………!?」
ついに二大極大エネルギーに押し潰されはじめるアフトゥウ!
そして……嬌声が悲鳴に変わった瞬間、大爆発が起った!!


333 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 12:29:55
54−5.
「……アフトゥウは…………滅びたぞ!!やったあああああああああ!」
大爆発のあと、そこに「貪り食うもの」アフトゥウの姿は消えていた!
二大怪獣王の勝利を知り、飛び跳ねて子供のように大塚は喜んだ。
だが、狂喜する大塚を尻目に、小川は立ち上がるとビル屋上の縁へと歩を進めた。
「おい?どこへ行くんだ??小川???」
屋上の縁で、小川は振り返った。
「これは約束なんです。大昔からの……」
小川は割れた「お守り」をゴジラとガメラに示して言った。
「ワタシは……ワタシは小川礼子!万石よりその地位を引き継いだ『ケモノの王』です!」
大塚が愕然となった。「おい!まさか小川!オマエは!?まさか……そんな!?」
もう小川は振り返らない。覚悟はとっくにできている……。
「………昔の約束を守ってアフトゥウを倒した勇者に対し、ワタシも約束のものを捧げます!さあ………ぞんぶんにしてください!」
小川は十字架のように両手を左右に伸ばすと、静かに目を閉じた。

ゴジラとガメラ、二大怪獣王の静かな視線が、じっと小川に、小川だけに注がれていた。
そして………


334 :A級戦犯「エニグマ」:2007/03/02(金) 12:32:02
56.
……………
ゴジラとガメラは、その戦いの代償を求めなかった。
そして私は、万石先生のために、そしてファン・リーテンのために、あの戦いの顛末を書き残すことにした。

アフトゥウは滅び、私たち人類はなんとか生き残った。
でも、私たちの前に伸びる道は、決して平坦なものではない。
人口はおそらく一年前の10分の1程度しか残っていないと思う。
文明と呼べるものはこの星からほぼ消滅してしまったし、残った文明も遠からずその活動を止めるだろう。
でも、それでも私は、希望をもって未来を見つめることができる。
万石先生やファン・リーテンが、そしてゴジラとガメラが、私たちのことを見守ってくれているはずなのだから。
そう、この地球の、どこかで……。

200×年3月1日
小川礼子


「エニグマ」
お し ま い


335 :名無しは無慈悲な夜の女王:2007/03/02(金) 14:53:11
乙!
クトゥルーな感じ

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